スマホゲームで手指がしびれる病気を診断

指がしびれ、箸などを持つことや服のボタンをかけることが難しくなる…。こんな症状が現れる”手根管症候群”という病気はご存知だろうか?

有病率はおよそ4%という報告もあり、中高年女性が発症しやすいという。この病気を早期発見できるスマホゲームを東京医科歯科大学と慶應義塾大学の研究チームが開発した。
 

どんなゲームかというと、画面中央のうさぎのキャラクターを親指で操作し、うさぎの周囲に表示される野菜(ニンジン、大根、ナス)を取っていくものだ。

ゲーム画面(画像提供:東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 藤田浩二氏)
この記事の画像(7枚)
プレイ中の画面(画像提供:東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 藤田浩二氏)

なお操作する際、親指以外の指はスマホの背面のバンドに固定する。

スマホの背面のバンドで指を固定(画像提供:東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 藤田浩二氏)

30秒~1分程度プレイし、ゲーム中の親指の動きや軌跡のデータを収集してそれをもとに判断。「おつかれさまでした!」と表示されるとゲームは終了となり、手根管症候群の可能性についてはデータなどを分析した後に伝えられる。

ゲーム終了画面(画像提供:東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 藤田浩二氏)

”手根管症候群”は初期の症状を自覚しにくいことから受診と治療が遅れてしまうことが多く、病気が進行すると日常生活に支障をきたすこともあるという。また、これまでの神経伝導速度検査でも正確な診断が可能だったが、高価な機器と専門的な技術が必要なため、十分に普及していなかった。

そんな中で、このようなスマホアプリのゲームで手軽に診断できるとなると、早期発見が期待でき、医師の負担も軽減されるかもしれない。

では、アプリの診断精度はどれくらいなのか? また、スマホの使いすぎはこの病気の一因となるのか?
研究に携わった東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科、運動器機能形態学講座、講師の藤田浩二氏に話を聞いてみた。

手を酷使すると発症しやすい

――手根管症候群とは、どんな病気?

手首にある手根管というトンネルの中で、正中神経という神経が圧迫されることで生じる整形外科の病気です。症状として親指から薬指にかけての痛みとしびれ、親指の筋力低下を引き起こします。手指の病気の中では頻度の高い病気となります。

手根管症候群 病態(画像提供:日本整形外科学会)

――病気が進行するとどうなる?

進行すると痛みとしびれが悪化します。さらには親指の付け根にある母指球という筋肉が萎縮し、対立運動という親指に特徴的な運動が困難となります。対立運動は物を摘まんだり、掴んだりする動作に必要です。具体的にはボタンを留めたり、字を書いたりするような細かい動作が行いにくくなってしまい、日常生活に支障を来します。


――スマホを使うことが原因となることもある?

はい、仕事などで手を酷使すると発症しやすくなるため、スマートフォンも使いすぎてしまうと発生の一因となる可能性はあります。発症する明確な機序はまだ解明されていませんが、手を酷使することの他に手の外傷、加齢、透析、女性ホルモンの変化といった要素が発症に関与していると考えられています。


――どんな治療をするの?

基本的には鎮痛薬やビタミン薬などの内服による対症療法を最初に行います。その他、装具による安静や手根管内への注射を行うこともあります。それらの保存治療を行っても改善がなく、進行してしまった場合には、手根管開放術という手術を行うことになります。さらに重症例で、親指の対立運動が障害されている場合には、母指対立再建術という手術も追加で行うこともあります。

手根管症候群 治療(画像提供:日本整形外科学会)

整形外科医の診察と同じ以上の精度

――なぜ、スマホゲームを作ることにした?

手根管症候群は進行してしまうと日常生活に支障を来し、手術も必要となるため、早期に診断を行うことが望ましいと考えます。しかし、実際には、症状が進行するまで患者さんが受診されない、あるいは受診しても整形外科の専門医以外の医師が診察し、手根管症候群の診断が行われずに経過を見られてしまうことがよくあります。

そこで、自宅など専門医のいない環境でも簡便に検査できるツールの開発を目指し、スマートフォンに注目しました。現在、手根管症候群が好発する中高年の方にもスマートフォンは普及しているため、スマホゲームであれば自宅などで多くの方がプレイすることが可能であり、ゲームの結果から手根管症候群に特徴的な動きを抽出することができれば、スクリーニングとして有用であると考えたことが、今回の研究のきっかけです。

※スクリーニングとは、疾患を持っている可能性がある人を選び出すこと

――このゲームの診断精度はどれくらい?

症状のない被験者15人と手根管症候群患者36人のデータに適用して精度を検証した結果、感度94%、特異度67%、AUC「0.86」という結果でした。これらの結果は、整形外科の専門医が診察時に行う身体診察と同等以上の精度となります。

※感度とは、病気のある被検者が検査を受け、陽性の結果が出る割合
※特異度とは、病気のない被検者が検査を受け、陰性の結果が出る割合
※AUC(Area Under the Curve)とは検査方法の評価項目の一つ、0から1の値をとり、1に近い程、精度の良い検査となる

他の病気の鑑別も目指し、研究を拡張する予定

――すでに我々もダウンロードして使える?

まだ一般の方がダウンロード可能な状態ではございません。今後、皆さんがダウンロードして使えるように実装を進めていく予定です。


――今後、どう利用していく予定?

実装に向け、今後は実際に自宅などの病院外で利用してもらうことでデータ数を増やし、大規模なスクリーニングが可能か検証することを予定しています。さらには、手指の症状が出る他の病気のデータも収集し、他の病気との鑑別も可能となることを目指して、研究を拡張する予定です。


現在は実装に向け、検証中ということだ。他の病気も、もしかしたらスマホゲームで診断できる未来が、近づきつつあるのかもしれない。

【関連記事】
「“レモン”は遅く“バニラ”は速い」香りが映像のスピード感覚に影響…何に応用できる? 研究員に聞いた
スマホを小指で支えるのは要注意!? 手指専門の医師に聞いた“楽な持ち方”と“負担がかかる持ち方”