在留日本人の数が3万7000人を超え、日本人が多い国ランキングで過去5年間、トップ10に入るフランス。(2020年10月時点・外務省統計より)
そんなフランスで活躍する日本人や、日本人を支える人たちにスポットを当てる。

今回、話を聞いたのは、私立病院・アメリカンホスピタルの勤務医・三村佳弘さん(47)。
パリに赴任した際、どこの病院にかかればいいのか日本人の知り合いに尋ねると、必ずといって良いほど「三村先生」という答えが返ってきた。体調を崩すと、まず電話するのは病院の代表電話ではなく三村医師の携帯電話だという。これほどまでに、頼られる医師は一体どんな人物なのか。病院を訪ねてみた。

駐在員の多くが頼る三村医師
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「コンビニ的といえば、コンビニ的」

―――三村医師の診療スタイルは?

三村佳弘医師:
他のドクターに比べると、予約が取りやすい、日本語だけで完結する。そこがこの病院(三村医師のいる病院)の便利な点。
場所は不便だけど、コンビニ的といえば、コンビニ的。フランスの診療所は秘書が電話に出て「予約でいっぱいです」と言われることが多い。でもここは、僕が直接電話に出るので、いきなり日本語からスタートする。予約がいっぱいでも、「なんとかします」という感じで、いきなり予約が確定するんです。会計も自分でやってるので、ここで全てが完結する。そういう意味で、便利なんじゃないかな。

例えばレントゲン撮ってきて下さい、となると、フランスの普通のドクターにかかると、街のレントゲンセンターに自分で予約して、撮りに行かないといけない。そこでレントゲンを撮ったらまた病院に戻って、看てもらわないといけない。血液検査もそう。ナースがいない、フランスの診察室は。

日本だと、そこで受診して、ナースがいて、血を採ってもらって、検査機関に送られて結果が出る感じだけど。フランスの場合は、街の中に必ず検査室みたいなところがある。
ドクターは、内科とかの看板を掲げてやっているのではなく、アパルトマンの一室みたいなところで開業している。アパルトマンの一室で診察して、そこでドクターがすることは、処方箋を書くこと。検査の処方箋を書いて、その紙を持って、患者は街の中にある検査室やレントゲン室に行って、検査をして、病院に戻る。フランスの町医者だと全部バラバラだから。
 

日本とフランスの診察スタイルには大きな違いがある。フランスでは街中にある診療所の医師は処方箋を書くだけで、検査は個別の検査機関を予約して受けなくてはならない。レントゲンも採血も全て別々なので、予約の空き具合によって、1日では終わらないこともあるという。

また、診療所に行こうにも、そもそも3カ月先でないと予約が空いていないということもざらにある。そんなフランスだけに、予約も検査も診察も全て引き受けてくれる三村医師の存在は大きい。

採血などは診療所ではなく街中の検査機関に赴く必要がある

三村医師は2009年からフランスで診療を始め、12年間でのべ5万人を超える日本人を診察してきたという。患者は30~40代の駐在員やその子どもたちが多く、部屋には、子どもたちを喜ばせるためのアニメの人形などが多く飾られてあった。

「3カ月待ち」が当たり前のフランスでコンビニ的な診療

―――患者さんの診療で印象に残っていることは?

三村医師:
家族単位で来る。本当にほのぼのするような家族。お父さんお母さん子供で何回か来てくれる人というのは、いつまでも覚えてます、なんとなく。あの時のあのお嬢ちゃんは本当に良い子だったなとか。

皮膚科だったからということもあるけど、家族揃って来るなんてこと、ないですよね。ここでは何でも屋として働いてるから、子供から家族揃って来てくれて。1人に30分枠とか設定されてるから、病気以外のこととかも結構喋るんです。病気のことであんまり記憶には残ってないけど、ああいう人がいたというのは、なんとなく覚えてます。

一人一人の印象が濃くなってる。それは良いことですね。
距離が近くなりますよね。やっぱり、意思疎通がしやすいというか。診察時間が長いというのは、1日15人ぐらいしか診察してないからできると思う。それは良い点だと思う、フランスの。

フランスにおける日本人のコロナ感染は?

2020年からはフランスも新型コロナウイルスの感染拡大に翻弄された。在仏日本人の中にも不安が広がり、帰国する人が急増した。

三村医師:
当初、本当に日本人は強くて。コロナにうつらないわけじゃないけど、症状は軽かったです。ただ、アルファ株(イギリス型変異ウイルス)がまん延しだしてから、日本人でも入院する患者さんがついに出てきました。僕は何度もコロナウイルスに暴露されてるから、うつっちゃったと思ったけど、結局、抗体を調べたらネガティブでした。
 

―――新型コロナとなると、みんな不安。そのときに三村医師に電話できるのは、天と地の差。

三村医師:
そう言ってもらえると嬉しい。やってきた甲斐がある。だけど、何かしてあげられるわけじゃない。これぐらいの症状だったら家にいていいのでは、ぐらいの説明をすることはあるけど。とにかく、息苦しささえ感じなければ、死ぬことはないし、入院することもないし、そこだけですね。

実際、息苦しいと感じても、客観的には大したことない人も当然いて、その人は救急部から大丈夫と安心させられて帰る人もいる。でも、ここ(アメリカンホスピタル)に来ると、その日のうちにCTもやって、肺の何割が白くなってるとか判定できるから。すごいシステマティック。日本でも体制整ってると思いますけど。なんせフランスは数こなしてますから、患者さんが大量にいたから。コビッドに対応することのできるドクターの数は多いでしょうね。

アメリカンホスピタルでは一時、満床になったことも

フランスでは感染拡大の最悪時には1日の新規感染者数が8万5000人を超え、アメリカンホスピタルでも、一時満床になったそうだ。
医療崩壊が相次ぎロックダウンが長期化する危機的な状況の一方で、人々の間には医療従事者への感謝が広がった。

三村医師:
あの時、夜8時になったら、みんな窓開けて拍手して、医療者に感謝していた。僕も一緒に手をたたいてた(笑)

日本は風評被害がありすぎる。そこの病院でコロナがあるとなったら、みんな怖がって行かなくなって潰れちゃう。そういう風習が残念。医療者のほうも、風評被害を恐れすぎる。日本は個人経営の病院が多い。フランスは基本的に個人経営の病院はないし、診療所は入院しない。入院が出来るような大きなところは、公立または、NPO的なところ。

日本の場合は、個人の病院だから、風評被害を恐れるのは無理はない。干上がって、患者さん来なくなっちゃったら困りますからね。そういう意味では、受け皿が公立病院とかに限られるから(病床が足りなくなる)。
風評被害なりが出た時に、経営が傾いたという時に、100%弁償しますと言ってくれたら、じゃあ受け入れるという病院もいっぱいあるんでしょうけどね。そこだと思います。

日々、日本人の帰国前PCR検査を行う

フランスもインド型変異ウイルス・デルタ株が猛威を振る第4波(2021年7月~)に見舞われたが、意外にも、入院する人はあまり多くないという。

三村医師:
デルタ株(インド型変異ウイルス)が流行してからは、自分の患者さんで入院している人は誰もいないですし、入院患者が増えているという認識はないです。ワクチンの接種が進んできているから、ひょっとしたら、インド型変異株に関しては、医療崩壊に繋がらないかもしれない。

三村医師はこれまで、在仏日本人の帰国前PCR検査を1000件以上行ってきたが、陽性となった人はただ1人だったという。

帰国したくても…海外在住の日本人に立ちはだかる2週間の“隔離”

これまで12年にわたって、パリで暮らす日本人を支えてきた三村医師だが、8月上旬にすでに5代目の医師に業務を引き継いだ。今後、日本に帰国することが決まっている。

―――帰国前のPCR検査を多く行ってきた中で、日本の水際対策について思うことは?

三村医師:
14日間の隔離ルールがあるために、日本に帰りたくても足止めを食らっている人がたくさんいます。(隔離の必要性について)科学的にデータを示してほしい。

果たして、14日間の隔離をして、一体何%の人がその間にポジティブになるのか。そこから何人の人がコロナにかかるのを、国内で広まるのを防げたのか。データがない。フランスでPCRやり、羽田でPCRやり、2回のPCRで陰性になって日本に入る。そういう人たちが14日間隔離されてる間に、何人の人たちがポジティブに変わって、あの時に隔離しといてよかった、となったのか知りたい。

そんな人が1万人に1人とかだったら、そんな政策意味ないしね。それが例えば、10人に1人ぐらいポジティブになる人がいるんですよ、と。だったら、隔離するしかないか、と納得します。客観的なデータがどうなっているか知りたいです。

「14日間の“隔離”が必要だという客観的なデータを示して欲しい」

三村医師へのインタビュー後、データについて厚労省に問い合わせた。
しかし、14日間の“隔離”中に陽性となった人の数を、国は正確には把握していなかった。さらに、参考値としてのおおまかな人数についても非公表だった。

【執筆:FNNパリ支局 森元愛】