環境へ配慮しない日本の農業

SDGsの達成に向け産官学を挙げて様々な取り組みが行われているが、その中で大きく立ち後れているのが農業分野だ。実は日本の農業は、環境への配慮が先進国の中で突出して低い。日本の有機農業の農地は全耕地面積のわずか0.2%。進んでいる欧州はもとより、遅れているアメリカ(0.6%)や中国(0.4%)よりさらに下位となっている。
(出典: 有機農業をめぐる我が国の現状について )

農薬や化学肥料を多用すれば、コストを軽減し安定した収穫を可能にする一方で、環境への負荷は重くなり、水質や土壌の劣化を招くことになる。

出典:農林水産省  有機農業をめぐる我が国の現状について

こうした中、持続可能な農業の普及を目指して、環境への問題意識を持つ農業者とともにユニークな取り組みをしている京都のベンチャー企業がある。「坂ノ途中」と名付けられたこの農業ベンチャーは、新規就農者をメインパートナーとして、農薬や化学肥料に頼らず育てた野菜を販売している。創業者の小野邦彦代表は、京都大学を卒業後、外資系金融機関を経て2009年に「坂ノ途中」を立ち上げた。小野氏に日本の農業が抱える課題と展望を聞いた。

「野菜って面白くない」が変わった

小野邦彦氏(右)と「京都・亀岡 柴田ファーム」柴田氏(左)

ーー「坂ノ途中」というネーミングがとてもユニークですが、これに込められた想いは何ですか?

小野氏:
新規就農者の経営が成り立っていくことを何かしようと思って、成長途中の雰囲気が出る社名にしています。11年目になりますが従業員はいま70人ほどで、半分アルバイトですね。

ーー有機野菜を一般消費者向けにネット通販しているんですね。

小野氏:
個人向けが6割、デパートやレストランへの卸売が3割程度です。消費者は半分が首都圏で、4分の1が京都、その他全国というかたちです。お客さんは昔から有機野菜を買っている人はあまりいなくて、30~40代の「オーガニックがいいから」とか「社会貢献したいから」と購入する人が多いですね。ただ始めてみると「美味しいから」「子どもの野菜への反応が変わったから」とよく言われます。

ーー子どもの反応が変わるのですか?

小野氏:
「野菜って面白くない」と子どもは思っていますが、僕らの宅配を見ると赤い大根があったり、毎回違う野菜があって面白いと。匂いも食感も違うので五感で楽しめるんですね。

「格差社会」が農業を衰退させる

べじたぶるぱーく(大阪・能勢町)

ーーベテラン農家ではなくあえて新規就農者をパートナーに選ぶのはなぜですか?

小野氏:
日本では高齢化が進んでいるので、いまさらやり方を変えられない。だから農薬を減らそう、脱却しようというのは難しいですね。一方、新しく農業を始めようという人たちは「どうせやるなら農薬や化学肥料に頼らない農業をしていきたい」と言うので、まだ勝ち目があるんじゃないかとそこに絞っている次第です。

ーー新しく農業を始めるのは厳しいですよね?

小野氏:
いま僕らが組んでいる農家は250軒ほどですが、彼らは親が農家の人はほとんどいません。農業の世界は格差の激しい社会で、地主の子どもに産まれたら広い農地と補助金があって、機械と設備があって。一方で親が農家でないと農業を始めるのがすごく大変です。その格差が農業の就業人口減少や高齢化の一因になっていると思います。僕らはこうした新規就農者の経営を成り立たせるのがテーマです。

「そのために何本抜かなあかんねん」

ーー彼らの経営を成り立たせるにはどうやればいいのでしょうか?

小野氏:
いろんな農業があるのにみんな知らないで語っています。政治もそうだし農業系ベンチャーもそうで、農家を見上げるか見下ろすかしかないから、どっちもうまくいかない。たとえば、いろんな人が「せっかく京都にいるなら、料亭に売ったら」と言いますけど、料亭の人が求める野菜って「じゃあ親指の太さのニンジンを20本そろえて持ってきて」とか。納品していることが自慢になるかもしれないけど、「そのために何本抜かなあかんねん」と。それでは収益性向上につながらないんですよね。

ーー収益性を向上するために小野さんが考えるのは何ですか?

小野氏:
たとえば夏野菜なら、収穫期間が7月前半から8月と1か月半で収穫しないといけない。夏野菜は秋になると皮が固くなっていくためですが、一方で秋になるとゆっくり育つ分肉厚で味が濃くなっていくので、じっくり火を通したら真夏に収穫されたものより美味しいです。そこで「秋こそ夏のなごりを楽しもう」となれば、10月まで収穫できたりする。そうすると1か月半の収穫期だったのが、霜が降りるまで収穫できるとなると収益性が変わるんですよね。

「5月に賀茂なす」京野菜が環境の負荷を

ーー京都と言えば京野菜ですが、京野菜をうまく使うというのはありますか?

小野氏:
地域には伝統野菜があって大事にするのはいいことだと思います。ただ京野菜の場合はあまりにもツーリズムチックというか客寄せパンダになりすぎて、結構ゆがみが出ています。
例えば賀茂なすは普通に育てると7月の出荷になりますが、いまゴールデンウィークに出さないといけないです。和食の世界って「はしり」を求めるんです。「はしり」、「さかり」、「なごり」の。その「はしり」競争がいまおかしなことになっていて、「賀茂なすは5月に持って来い」と。だから生産者は暖房を炊いて育てて、化学肥料で成長速度を上げているんです。最近は京都のタケノコが有名になって、おせち料理に入るようになっています。でもタケノコって3月や4月じゃないですか。だから竹林に電熱線を通して、12月にタケノコを掘って京都のタケノコ入りおせちとして売ると。

ーー京野菜が環境への負荷を上げることになりますね・・

小野氏:

環境への負荷を下げるのと伝統野菜を大事にというのは、もともとは相性よかったはずなのに京野菜はそうならない。だから僕らは京野菜を強く打ち出すことはしていません。またこういうことをどこでも言うから嫌われている(笑)。うちはレストランと100軒以上取引をしていますが和食系は2軒くらいしかありません。和食の方が求める「はしり」に、坂ノ途中のスタイルでは対応できないためです。一方でイタリアンやフレンチは「その時採れたものに合わせる」という感覚のシェフが多いと感じています。

「やさいのきもち」を知りブレを楽しむ

ーーなるほど。最後に「坂ノ途中」で去年暮れから販売開始した「やさいのきもちかるた」について教えてください。

小野氏:
常々「野菜は生き物だ」と言っています。生き物としての野菜は、大きさやかたちにブレ・個性が出てきます。それを知ってもらうことはとても大切だと思っています。
たとえば、大根は中がすかすかになることがあって、流通の世界ではとても嫌われています。だからすが入っていないか確認するためにカットして出します。でもそれはすごく工数が発生していて、価格も高くなるし、日持ちがしなくなりますね。

ーーこのかるたでは大根を「ちょきんはなくてもきもちははればれ」とありますね。

小野氏:
大根の太っているところは貯金箱で冬は栄養を貯めて、春になったらその貯金を使って花を咲かすのです。だから春に中身がスカスカになるのは当然なんです。すの入った大根を「不良品」と見るのではなく、「ああ春が来たのね」と思うのもいいんじゃないかと思っていて。

ーー「やさいのきもちかるた」は子ども向けですね?

小野氏:

子どもたちに「やさいのきもち」を知ってもらってもっと野菜のことが好きになって、生き物の不思議、魅力、面白さに触れてほしいです。そしてそれを食べることについてちょっとだけ考えてみてほしいですね。野菜は生き物なのでブレます。野菜のブレを許し、楽しむことで、社会の多様性、ブレを楽しむ練習にもなるといいですね。

ーーありがとうございました。個人的には「あめのひはあたふたするよとまとくん」が気に入っています(笑)

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

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