菅続投で自民は負ける?

菅義偉首相の地元、横浜市長選で自民が敗北したため、メディアには「菅時代の終わり」「菅離れ」という見出しが躍った。衆議院の任期切れを前に、選挙が弱い自民党の若手からは「菅さんでは戦えない」という悲鳴が上がっているという。総裁選を求める声も強く、9/29投開票がまもなく決まりそうである。

野党の立憲民主党は「弱い菅首相の下で早く衆院選をやってほしい」ので、「コロナで大変な時に総裁選をやるな。でも衆院選は早くやれ」という矛盾した主張だが、まあこれは野党としてはしょうがない。河野太郎規制改革担当相あたりに出てこられると困るのだ。

野党の大敵 河野太郎氏
野党の大敵 河野太郎氏
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ケンカ(戦い)に勝つコツは相手が嫌がることをすることなのだから、自民は総裁を河野氏に差し替えて、コロナが落ち着いたところで解散するのが勝ちパターンである。問題は河野氏本人も、後見役の麻生太郎財務相も、今はその気がないということだ。それどころか総裁選自体が全く盛り上がっていない。いったいどうなっているのか。

現時点で出る可能性がある人は岸田文雄前政調会長、下村博文政調会長、高市早苗前総務相、野田聖子幹事長代行の4人だが、推薦人20人のメドがついているのは岸田氏だけで、下手すると誰も出ずに菅さんの無投票再選もあり得る。今のところその可能性が一番高いのではないか。

「菅では選挙は戦えない」と文句を言うくせに、じゃあ誰が出るのかとなると誰も出ない、これは情けない話だ。いやもしかしたら「菅おろせ」はメディアが面白がって言ってるだけで、自民党の人達は菅さんのままでいいのかも。

しかし無投票再選は一般受けが悪い。その後に行われる衆院選で自民は苦戦を強いられるだろう。単独過半数は厳しいのではないか。ただ立民などの野党連合が政権を取る可能性は、世論調査を見る限りほぼない。

維新からの助け舟

こうした状況で22日、注目すべき発言があった。日本維新の会の馬場伸幸幹事長が「与党と政策ごとの部分的な連携を行うこともあり得る」との認識を示したのだ。「随分踏み込んだな」と思っていたら翌日、松井一郎代表が「我々は与党の一員になることは絶対にない」と少しトーンダウンし、メディアは「与党との協力を否定」と流したが、松井氏は与党の一員になることを否定しただけでいわゆる「部分連合」を否定したわけではない。

つまり菅首相に近い維新は衆院選で万一与党が過半数割れしても、連立には加わらないものの、場合によっては予算にも賛成する、ということなのだ。これは厳しい選挙を前にした菅さんには頼もしい援軍だろう。

菅首相は援軍を得たか・・・?
菅首相は援軍を得たか・・・?

もう一つ驚いたのは維新が「与党の過半数割れもあり得る」との読みをしているということだ。やはり自民は相当負けるのではないか。

ただ自民が失う票はすべてが立民や共産に行くわけではなく、かなりの部分が維新に行くので、議席を増やすであろう維新が与党でもなく野党でもない「ゆ党」でいてくれるのなら政権運営の継続は可能である。

自民はなぜ「菅頼み」なのか

二階幹事長は25日の会見で改めて菅続投を支持した。安倍、麻生両氏も、そして茂木敏充外相、加藤勝信官房長官による共同統治の竹下派も菅支持を変えない理由は、コロナという歴史的な難局を自分、あるいは自分の持つタマで乗り切れる自信がなく、みんなで「菅頼み」しているからである。

改めて菅続投を支持した二階幹事長
改めて菅続投を支持した二階幹事長

コロナは誰がやっても文句を言われる。国民は死と経済破綻に怯え、さらに窮屈な生活に不満を持ち、そうしたすべてのイライラを政権=首相にぶつけけて鬱憤を晴らしている。それで支持率も下がっている。だから今、菅さんの代わりをしたい人は実はいない。総裁選で菅さんに勝てるとしたら河野さんと安倍さんくらいだろうが彼ら2人は今はやる気はない。

ただそれでも総裁選はやるべきだ。できれば岸田さんだけでなく、下村、高市、野田の4人が出て政策論争をやった方がいい。皆で菅政権を批判した方がいい。本当はそこに河野さんも出た方がいいのだが、万一河野さんが勝ってしまうと自民党だけでなく河野さん本人も困ってしまうので出られない、というのが複雑なところだ。

菅首相は自民党総裁に再選されても衆院選では議席を減らし、政権運営は一見苦しくなる。しかし維新が何らかの形で加われば安倍前首相よりも「小さな政府」を目指す菅さんにとってはむしろ今よりやりやすくなるのではないか。

【執筆:フジテレビ 解説委員 平井文夫】

平井文夫
平井文夫

言わねばならぬことを言う。神は細部に宿る。
フジテレビ報道局上席解説委員。1959年長崎市生まれ。82年フジテレビ入社。ワシントン特派員、編集長、政治部長、専任局長、「新報道2001」キャスター等を経て現職。