宮崎県高原町にあるパン屋さんが、2021年6月26日に閉店。地元の人たちによって開かれたお別れイベントでは、清々しい表情を浮かべる店主の姿があった。

「町から店をなくしたくない」と話す店主の思いは、新たな形で引き継がれる。

大きな口でパンを頬張る男の子
大きな口でパンを頬張る男の子
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「田舎のぱん屋」閉店に地元の人から惜しむ声

6月20日、高原町の皇子原(おうじばる)公園で開催された「サヨナラパンまつり」。

訪れた人へ「15年間ありがとうございました」のメッセージ
訪れた人へ「15年間ありがとうございました」のメッセージ

高原町のパン屋さん「天然酵母 田舎のぱん屋」が6月26日に閉店することになり、有志が企画し開催された。

店主の松崎弘志さん(64)と、妻のきり子さん(60)。

九州産の小麦と天然酵母を使用し、地元の野菜を使うなど素材にこだわる松崎さんのパンは地元の人たちに愛され、この日、別れを惜しむ多くの常連客が訪れた。

常連の女性客:
フェイスブックに(サヨナラパンまつりの)案内が書いてあったから。ちょっと出かけてたんだけど、引き返してここに来ました。もうすっごく寂しいです

美味しそうなパンが並んだ
美味しそうなパンが並んだ

常連の男性客:
ちょっと名残惜しいですけど、顔を見に行きたいなと思って

町に数少ないパン屋…後ろ髪引かれる思い

松崎さんは、高原町の自宅の横に店舗を構えている。

大阪でシステムエンジニアとして働いていた松崎さんが、15年前に脱サラして高原町出身の妻・きり子さんとオープンさせた。

天然酵母 田舎のぱん屋・松崎弘志さん:
買ってくださる、おいしかったと言われるのが、1つのやりがいですよね。第二の人生としては結構おもしろい

松崎さんは、大好きなパン作りをやりきったという思いから閉店することを決めた。ただ、1つだけ心残りがあるという。

天然酵母 田舎のぱん屋・松崎弘志さん:
やめたら、高原町自体が(パン)店が少ないので、そこを誰か引き継いでくれれば、1軒消えた分、1軒起こしてくれればうれしいかな

店と町への思いを語る「天然酵母 田舎のぱん屋」の松崎弘志さん
店と町への思いを語る「天然酵母 田舎のぱん屋」の松崎弘志さん

Uターンして事業継承 千葉県在住の女性が名乗り

高原町で数少ないパン屋さん。松崎さんは閉店を決めたものの、後ろ髪を引かれる思いだった。

大好きなパン作り、15年の節目に
大好きなパン作り、15年の節目に

そんな松崎さんに、高原町はあるサイトへの掲載を提案した。

それは「リレイ」という事業承継のサイトで、後継者を募集する事業者の思いや店のストーリーが掲載される。

また、引き継ぐことに興味のある人は、事業承継をする際の譲渡金額や売り上げの推移などの財務情報も見ることができる。

サイトには「後継者募集!」の文字が
サイトには「後継者募集!」の文字が

「町から店をなくしたくない」と話す松崎さんは、機材やノウハウを無償で譲渡することにした。

すると、宮崎県小林市出身で現在は千葉県に家族で住む関島美弥さんが、Uターンして松崎さんの店を継ぎたいと名乗り出たのだ。

関島さんはパン屋やカフェで働いていて、いつか自分の店を持ちたいという夢があったという。

関島美弥さん:
(開業の)きっかけがなかったので、ずっとできなかったんですけど。こういった形で紹介していただいたりすると、松崎さんからレシピを教えていただいたりですとか、もちろん機材の譲渡というのも大きいと思いますね。開業する上でのハードルをかなり下げてくれたのかなと思います

自分の店を持ちたいという夢があったという関島美弥さん
自分の店を持ちたいという夢があったという関島美弥さん

帰省した時には、松崎さんのパンを買いに来ていたという関島さん。町内でパンも楽しめるカフェをオープンすることを目指す。

天然酵母 田舎のぱん屋・松崎弘志さん:
自分の店を知っている方が、やってみたいということはうれしい

関島美弥さん:
「体に優しいものを」とか、松崎さんの思いも受け継いで、私が継ぐことで町が少しでも元気になってくれればなと思っています

天然酵母 田舎のぱん屋・松崎弘志さん:
うれしいですね

店と地域への思いは次の時代へ

「すごく寂しいですけれど、またこれからもよろしくお願いします。15年間お疲れさまでした」

地元の人から花束を受け取る松崎さん夫妻
地元の人から花束を受け取る松崎さん夫妻

天然酵母 田舎のぱん屋・松崎弘志さん:
次を継続する相手の方が見つかりましたので、その方にまずバトンタッチして、1軒新しい店ができると。また皆さんで、支えていっていただきたいと思います。本当に今日はありがとうございました

地域住民に愛された田舎のパン屋さん。松崎さんの店と地域への思いは、次の時代へとつながる。

お店の思いも引き継がれて、町の人にとっても大事な場所が新しく生まれ変わる、素敵な出会いとなった。関島さんは、2021年度中のオープンを目指しているという。引き継ぐ人にとっても、機材や販路なども引き継ぐことから、最初の一歩を踏み出しやすい、移住の施策としても良さそうだ。

県内の60歳以上の経営者を対象にしたアンケートによると、自分の代で廃業を考えている人の理由で最も多いのが、「適当な後継者がいない」こと。後継者に悩んでいるという方は、今回の「リレイ」や県の事業承継・引き継ぎ支援センターに相談してほしい。

(テレビ宮崎)

テレビ宮崎
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