沖縄の木造住宅が、環境に取り組む秀逸な建築物として日本建築家協会から表彰された。 
沖縄の古民家のシルエットを残した建物は、「新民家」と呼ばれ注目されている。

新民家の目指す「循環型の建築」とは

特徴的な外観が目を惹くこの住宅は、環境に取組む秀逸な建築物として、日本建築家協会JIA「環境建築賞」を受賞。

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ISSHO建築事務所 漢那 潤さん:
建物は、とにかく長持ちさせることが環境にとってプラスだという考え方がある。
それに対して、あえて循環していく考え方を取り入れる事で、建て替えることをポジティブに捉えて、林業の視点を含めて考えていくという、住宅のライフサイクルを提案した。そこが大きな評価になった

沖縄の木造住宅。その完成形として、今にその姿を残している古民家。

古民家の「木造住宅」
古民家の「木造住宅」

漢那さんの「新民家」は、壁に隠された補強部材の筋交いを、軒先のアマハジバシラへ組み込む新たな工法を開発。
これにより、開口を大きくとった”新しい沖縄の木造住宅”を提案。

色付き部分が筋交い(補強部分)
色付き部分が筋交い(補強部分)

ISSHO建築事務所 漢那 潤さん:
開放的な日陰の下で、風を受けながら過ごすという暮らし方を、わかりやすい形でアップデートしていった

現在「新民家プロジェクト」として、本部町、さらに今帰仁村、奄美大島に体験型のヴィラを建設。将来的には、設計プログラムを開発し、設計の自動化で木造の強さを活かしながら、コストダウンとさらに自由な建築設計を目指すとしていて、すでに一般住宅も完成。
“新しい沖縄の木造住宅”は、着実に広がりを見せている。

漢那さんが手がけた「ヴィラ」
漢那さんが手がけた「ヴィラ」
漢那さんが手がけた「木造住宅」
漢那さんが手がけた「木造住宅」

植林で将来の建材確保 循環的な木造住宅建築を提案

漢那さんは、建材として使えるようにチャーギ(イヌマキ)の育成にも取り組む。
漢那さんが木造建築に取り組む理由とは…

建材となるチャーギ(イヌマキ)を育成する漢那さん(中央)
建材となるチャーギ(イヌマキ)を育成する漢那さん(中央)

ISSHO建築事務所 漢那 潤さん:
石の生成っていうのは、だいたい5000万年から3億年っていう風に言われている。それだけの年月を経た石を利用しているというのが、コンクリートの実情。
それで200年や100年持つような建物を作ったとしても、元々の生産に使われる年数で言うと何億年という単位なので、明らかにサステイナブル(持続的)な視点で見て行くと厳しい

戦後、アメリカ軍により積極的に取り入れられてきたコンクリートは、火災や台風に強いとして一気に普及。現在でも沖縄の住宅は、コンクリート造がその9割を占めている。

ISSHO建築事務所 漢那 潤さん:
50年育った木を製材して建物に使った場合、だいたい50年は間違いなく持つので、樹齢と建築後の耐久はだいたい同等だと言われていますね。
建築時に常にまた植えて行けば、サイクルができるので。そういった林業の考え方が社会に根付けば、循環型社会ができるかなと

建築と植林をセットで行う事で、建替え時の建材を確保。そしてまた木を植える。
これを繰り返す事で、循環的な木造住宅の建築ができると提案する。そこにはさらなるメリットも期待できる。

ISSHO建築事務所 漢那 潤さん:
木材というのは、その土地で育っているときには、その土地の気候に耐えうる形で成長していくので、沖縄で育った木であれば、育っている途中から湿気だったり、台風に対する揺れで環境への耐性が備わっている。
輸入や他の土地から持ってきた木よりは、遥かにメリットは多いですね

しかし現在、沖縄の木材の自給率は3.9%と、大部分を輸入や県外の木材に頼っている状況。

沖縄県の木材自給率 沖縄県森林管財課(2015年)
沖縄県の木材自給率 沖縄県森林管財課(2015年)

ISSHO建築事務所 漢那 潤さん:
もし沖縄に林業があって、自前で建材を生産できる体制があったとしたら、安く効率的な建築の体制が作れるのかなと思います

沖縄の林業復興のヒントは琉球王国時代に

ISSHO建築事務所 漢那 潤さん:
蔡温という政治家が琉球全体の山々をリサーチして、消費と生産の体制をどう構築していくかっていうのを、行政全体でまとめていったという…

1709年 火災で焼失した首里城の再建をめぐり、琉球は森林資源が不足する状況に直面。
森林資源の枯渇に、国家の存亡を危惧した琉球の政治家蔡温は、森林管理の徹底を指導。蔡温の指導は、資源管理から、琉球の森林・地形を巧みに活用した防災思想にまで及び、住民の住まいを管理し、集落の形成を指導していったと言う。

首里城火災をきっかけとした、琉球の林政改革。

ISSHO建築事務所 漢那 潤さん:
首里城に使われる柱の径っていうのは、あの規模の建築の材料を生産するとなると200年から300年…もしかしたら400年というようなスパンなので。
だけど民家で言えば細くても成り立つので、実は50年あればいけるというのはちょっとした気付きだと思うので。
「首里城の建て替え」と同時に、「民衆の住宅」への考えも生まれたらいいなって思います。

森と住まいの循環。環境への意識を高め、つくる責任・使う責任を考えた持続的なサイクルが求められている。
その答えは、先人たちが作り上げた歴史の中にあるのかもしれない。

(沖縄テレビ)

沖縄テレビ
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