静岡県熱海市伊豆山地区を襲った土石流は8月3日で発生から1カ月となった。死者22人の大災害では依然5人が行方不明でいまも捜索が続けられている。被災から立ちあがろうとする現地の人々の復旧・支援活動を取材した。

土石流の被災現場では猛暑の中捜索と復旧活動が行われている
土石流の被災現場では猛暑の中捜索と復旧活動が行われている
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熱海の森林保全団体が自衛隊に木材を提供

NPO法人熱海キコリーズのリーダー能勢友歌さん
NPO法人熱海キコリーズのリーダー能勢友歌さん

熱海の森林保全のため間伐などを行っているNPO法人熱海キコリーズ。もともとは熱海市が主催する林業研修の受講生が作った団体だ。リーダーの能勢友歌さんはこう語る。

「キコリーズでは間伐した丸太、4メートル材22本を、救助・復旧活動を行う自衛隊の方に提供しました。熱海市の方々が植樹した、森を守るために間伐した木々です。この間伐材は重機が入れなかったエリアに入るための道の足場となります」

NPO法人熱海キコリーズでは自衛隊に間伐材を提供した
NPO法人熱海キコリーズでは自衛隊に間伐材を提供した

またキコリーズでは災害ボランティアチームからの依頼で、倒壊家屋2軒の仮の柱にするため間伐材を提供した。これによってボランティアは家の泥出しが安全に行われるようになるという。

熱海の木を熱海の街に建材として還元する

キコリーズはこれまで熱海の木を熱海の街に建材として還元していく活動をしてきた。

「この災害で思いがけない緊急状態の中で、木材を提供することになりました。これから復興で木材が必要になると思いますが、木材価格が高騰する中で森の自然を守りながら貢献できたらいいなと思っています」(能勢さん)

キコリーズが提供した木材で被災した家の仮柱をつくる
キコリーズが提供した木材で被災した家の仮柱をつくる

そして能勢さんはこう続ける。

「これまでも木こり体験や木工ワークショップをやってきました。未来の子どもたちにどうして森って必要なのか、間伐ってなぜ必要なのか、という話をする教室のようなこともできるといいなと思っています」

キコリーズでは未来の子どもに森の必要性を伝えたい
キコリーズでは未来の子どもに森の必要性を伝えたい

カタリバが熱海市内の中高生に居場所づくり

被災地で子どもの支援を行っている認定NPO法人カタリバは、7月22日より熱海市内の避難所内に子どもたちのための居場所「カタリバパーク」を開設した。

カタリバパークでは子どもたちが安心・安全に過ごせる居場所を提供し学習支援も行っている。

またカタリバでは8月2日から災害の影響を受けた熱海市内の中高生を対象にした居場所づくり、学習支援も行っている。カタリバの戸田寛明さんはこう語る。

カタリバの戸田寛明さん(右)「中高生を対象に居場所を開設しました」
カタリバの戸田寛明さん(右)「中高生を対象に居場所を開設しました」

「カタリバでは、東日本大震災以来被災地の子ども支援に取り組んでおり、昨年の熊本豪雨の際は、避難所で子どもの預かりと居場所づくり、学習支援を行いました。ただ、小学生が来る場所に中高生が『居場所』を感じることは難しいのが正直なところです。今回は地元の方の協力で避難所の外にも子どもの居場所を作ることができるようになり、中高生のみを対象とした居場所を開設しました」

オンラインで全国の大学生が学習支援

「熱海ユースラウンジ」は中高生が遊ぶ、学ぶ、くつろぐ居場所
「熱海ユースラウンジ」は中高生が遊ぶ、学ぶ、くつろぐ居場所

「熱海ユースラウンジ」と名付けたこの場所では、夏休みの中高生が遊ぶ、学ぶ、くつろぐことができる居場所として、勉強を教えてくれる大学生や話を聞いてくれる大人もいる。

「勉強したい生徒には大学生が学習をサポートします。オンラインも活用し全国の大学生が学習支援をすることで、現地スタッフの人数を最小限に抑え、密を避けた運営をしています」(戸田さん)

大学生が学習をサポートするほか、探求学習の場も提供する
大学生が学習をサポートするほか、探求学習の場も提供する

特に多感な時期の中高生の中には、避難所で親や祖父母と1つの空間で過ごすことにストレスを抱え『もう限界です』と話す子たちもいるという。

だから戸田さんは「街に中高生が過ごせる場所は少なく、居場所の必要性を感じている」と語る。カタリバでは「マイプロジェクト」として、高校生の探求学習の場も提供する。

熱海全体が被災したイメージになっている

「急にお客さんが減りましたね。宿泊予約のキャンセルも増えました」

熱海の地域おこしを行う株式会社machimoriの代表取締役で、自らゲストハウス「MARUYA」を運営する市来広一郎さんは、土石流災害の影響をこう語る。

「7月の4連休だけはかなり観光客に来て頂きましたけど、去年に比べても減っている状態です。熱海全体が被災したイメージになってしまっているのはありますね。熱海は去年緊急事態宣言になったのが4月、5月だけでしたが、その時と同じぐらい減益になったお店もあります」

machimoriの代表取締役市来広一郎さんは「熱海の奇跡」の著者
machimoriの代表取締役市来広一郎さんは「熱海の奇跡」の著者

「MARUYA」では昨年はコロナの影響で前年比半減となっていた。その後少しずつだが宿泊客が戻ってきていたのが、発災後は昨年の半分以下となっているという。これまで8月は予約がいっぱいだったが、もはや2~3割程度まで落ち込んでいる。

「観光が戻らないと熱海は経済的には苦しいのですが、身近な人達が被害に遭っている中で、観光客に来てくださいと大きな声で言うのが当初は心情的に難しかったです。とはいえこれからのことも気になる状況なので、だんだん変化してきているのかなと思います」

市来さんが運営する「MARUYA」では発災後宿泊客が半分以下になった
市来さんが運営する「MARUYA」では発災後宿泊客が半分以下になった

「何かをしたい」市民千人がボランティア登録

毎夏多くの海水浴客がやってきた熱海サンビーチは、土石流災害の影響を受け遊泳禁止となり海開きが行われていない。流れ着いた流木やゴミによって素足で歩けないような状態だった。そこで3日、民間が主体となり海岸と海面・海中のゴミ拾いが行われた。

3日夕方から民間が主体で海岸のゴミ拾いが行われた
3日夕方から民間が主体で海岸のゴミ拾いが行われた

「やっぱり皆さん何かをしたいっていう気持ちがあります。実際にボランティアの登録数も、一時登録停止したのにもかかわらず熱海市民だけで千人弱います。熱海の人口が3万6千人でそのうち半分が高齢者なので、かなりの割合がボランティア登録していると思います」(市来さん)

ボランティアが猛暑の中建物の復旧活動を行っている
ボランティアが猛暑の中建物の復旧活動を行っている

(関連記事:えっ!これが熱海? 町が“廃墟”から激変したワケ

「情報が錯綜する」教訓に発災の日にSNS立ち上げ

「情報が錯綜するというのが東日本大震災の教訓だったので、発災の日のうちにFacebookのグループページを立ち上げて支援が必要な人と支援できる人を繋ぐことを行いました」

こう語るのは株式会社未来創造部の社長で環境ジャーナリストの枝廣淳子さんだ。

未来創造部の枝廣淳子さん(右)と光村智弘さん(左)
未来創造部の枝廣淳子さん(右)と光村智弘さん(左)

枝廣さんは2013年から熱海と東京の2拠点生活を送っていたが2020年9月に完全移住し、熱海で海の環境問題に取り組む熱海マリンサービス株式会社社長の光村智弘さんと未来創造部を設立した。

未来創造部では発災後すぐに地元につながりのある光村さんが市役所に支援物資の確認に行き、支援で何ができるか地元の有志チームと情報共有を行った。その中で生まれてきたのが被災した精神障がいの方々が働く場所の確保や伊豆山沖で捕れた冷凍魚の寄付金付きオンライン販売だ。

未来創造部では伊豆山地区のこどもたちへの応援リュックサックを贈った
未来創造部では伊豆山地区のこどもたちへの応援リュックサックを贈った

「いま熱海に来ることが支援になります」

枝廣さんは語る。

「これから中長期的な支援になっていく時に、目指しているのは伊豆山地区で暮らしと経済、そして賑わいを取り戻すお手伝いをするという事です。それには熱海が元気じゃないと伊豆山地区の支援も出来なくなるので、観光客に安心して来てもらわないといけない。災害があったところに行くのが申し訳ないとか、被災された方に失礼じゃないかと思うかもしれませんが、いまこそ来ることが支援になります」

未来創造部では民間の有志と支援活動を話し合う
未来創造部では民間の有志と支援活動を話し合う

光村さんは「災害ムードという状態が観光客に楽しめない雰囲気を作っってしまう」という。

 「僕らはそのムードを変えるために、もともとカフェで行っていた浜焼きを被災の翌週から始めたんですね。やる際には災害支援だと明確に打ち出して、売り上げは支援金に回すと決め、『皆さん楽しんでください』と。そういうかたちで被災された方への支援を考えています」(光村さん)

未来創造部が運営するカフェにある「ありがとう」ボードはキコリーズが提供
未来創造部が運営するカフェにある「ありがとう」ボードはキコリーズが提供
 

熱海・伊豆山地区の復旧復興はまだこれからだ。我々が熱海に行って自然と街を楽しむことが支援と復旧の第一歩になる。

熱海のビーチや街をぜひ楽しんでほしい
熱海のビーチや街をぜひ楽しんでほしい

【取材:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。