東京で感染者1000人超…異例の「無観客」五輪開幕へ

東京オリンピック・パラリンピック大会がいよいよ開幕する。去年、安倍前首相が「コロナに完全に打ち勝った証」として一年後の開催を目指した東京大会は、コロナ新規感染者が東京で連日1000人を超える中での無観客開催という異例の形となる。菅首相は17日のテレビ番組で、大会を開催する意義について「世界で約40億人がテレビなどで観戦する。たとえ無観客であっても、アスリートの感動を日本国民、世界に届けることは大事だ」とした上で、「コロナ禍というこの困難に直面する今だからこそ、世界が団結した象徴としてこの難局を乗り越えることを世界に発信をすることも意義のあることだと思う」と述べ、大会の開催が「世界が団結した象徴になる」と強調した。

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さらに菅首相は16日夜にオンラインで行われたアジア太平洋経済協力会議(APEC)の席上でも五輪の開催の意義と協力を各国に訴え、複数の国々から期待が寄せられ、あたたかい支持が得られたという。会議後、首相周辺は「この状況でも五輪をやるわけだからすごいことだ」とした上で、「各国からエールを送られた形だ」と話すなど、開催に向けた手応えを口にした。

「安全安心な大会実現」のカギの“バブル方式”に綻び

一方、菅首相が繰り返し強調する「安全安心な大会の実現」のためのカギとなる「バブル方式」について、開催の直前となった今でも野党のみならず与党からも不十分だとの声が上がっている。バブル方式とは、東京大会で来日する選手や関係者を“バブル=泡“に包むようにすることで、一般の人達との動線とは別にし、入国時や日本滞在中に外部との接触を最小限にするものだ。海外から多数の外国人が来日する東京大会を開催する上で、感染対策のまさに「キモ」と言える。

ところが、この「バブル方式」をキモとした水際対策について綻びが露見している。

来日した選手が国内のホストタウンや事前の合宿地に移動した後に陽性が確認され、国内で濃厚接触者が確認されている。17日には選手村に滞在する大会関係者1名の陽性が確認され、翌18日には選手村に滞在している選手の感染も初めて確認された。

「選手村になぜ陽性者を運ぶのか」「内部告発あった」 与野党から疑問の声

空港での“水際”でコロナの陽性が確認されず、選手村など国内移動後に陽性が確認されたことにはいくつかの可能性が考えられる。空港での検査はPCR検査より感度が低いとされる抗原検査のため偽陰性と判定された可能性や、入国後に感染し、その後原則毎日行われる検査で陽性が確認された可能性などが考えられる。

一方で、15日に行われた自民党の外交部会では問題視されたのは、空港での抗原検査で陽性が確認された海外選手の扱いについてだ。現状、政府は空港で陽性が確認された選手は専用車両など隔離措置を行った上で、感度が高いとされるPCR検査による確定検査を行うために東京・中央区晴海の「選手村の発熱外来」に直接移送するとしている。しかし、自民党の佐藤正久外交部会長らは「一番クリーンにしておかないといけない選手村にわざわざ陽性者を運び入れる理由がわからない」などとして運用の改善を大会組織委員会に求めた。

(※15日の自民党・外交部会で配布された資料 空港の抗原検査で「陽性となった者」の行き先の動線、黒太矢印を左にたどると選手村内の「発熱外来」へとなっている)

また、野党からは入国後の検査体制の不備について指摘がなされた。

選手や関係者は入国後も定期的に検査を受けなければならないが、立憲民主党の斉木議員は、組織委員会の関係者から「内部告発」があったことを明らかにした。それによると、定期的な検査を受けなかったり、または受け忘れたりした人がいた場合、本来であればその対象者全員に検査を促す通知を出さなければならないのだが、12日付の組織委員会内のマニュアルが変更され、「未受験者全員ではなく、未受検者の中から一部のみを抽出して通知する方針に変更された」という。

この指摘が仮に事実であれば、感染対策の実行性の担保が疑問視される事態となるが、政府は「早急に確認する」との回答にとどめている。このように大会開催直前となって、五輪の感染対策の「穴」についての指摘が相次ぐ事態となっている。

感染対策に穴 大会関係者「問題は出てくる。走りながら改善するしかない」

こうした事態に対して、大会関係者は「このあとも大会が進んでいくと問題は生じてくると思う。だからそこをどうやって修理しながら進めていけるかが大事になる」と話す。

去年、東京大会の一年間の延期が決まった際、準備を進める関係者が最重要課題としたのが「東京大会の開催で国内の医療体制を逼迫させてはいけない」ということだった。しかし一年後の今は、首都圏などでの感染が再拡大し、医療体制が逼迫するおそれが出始めている。大会が始まってからも、国内の感染状況の変化に対応し、国民の納得と協力を得られる実行性のある対策を打ち出し続けていけるのか。政府には「安全安心な大会」と「国内での感染拡大防止」を実行するための不断の努力が求められている。

(政治部 東京大会取材団 亀岡晃伸)

亀岡 晃伸
亀岡 晃伸

イット!所属。プログラムディレクターとして番組づくりをしています。どのニュースをどういう長さでどの時間にお伝えすべきか、頭を悩ませながらの毎日です。
これまでは政治部にて首相官邸クラブや平河クラブなどを4年間担当。安倍政権、菅政権、岸田政権の3政権に渡り、コロナ対策・東京五輪・広島G7サミット等の取材をしてきました。