北海道北部の利尻島に、50年ぶりに駄菓子屋が誕生した。なぜこの時代に駄菓子屋が?コロナ禍で忘れていたものがそこにあった。

5畳の小さな店内に 品ぞろえは100種類以上

10円ほどで買えるスナック菓子に、ドキドキワクワクのくじ付きの駄菓子。さらに昭和の雑貨やレコードまで。

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子どもにとっては珍しく、大人にとっては懐かしい…。ここは北海道、北部の利尻島にある駄菓子屋さん。

島に駄菓子屋が開店するのは…

駄菓子屋まるちゃん 伊藤嘉睦さん:
50年数年ぶりですね

コロナ禍で薄くなった人と人のつながり。わずか5畳の小さな駄菓子屋さんが、島民の心をつないでいる。   

人口約4300人の利尻島。

2021年5月、令和の時代に逆行するかのような店が開店した。住宅街の路地を抜けた海沿いに建つ「駄菓子屋まるちゃん」。

品ぞろえは100種類以上。店内は懐かしい雑貨やレコードで装飾し、まさに昭和そのもの。

駄菓子屋まるちゃん 伊藤嘉睦さん:
ここに置いていい?

駄菓子屋まるちゃん 伊藤春恵さん:
チョコレート、そこに置きたいと思っていた 

店主は伊藤春恵さん(57)。

そして、開店を提案したのは夫の嘉睦さん(63)。

2人とも生まれも育ちも利尻島。

営業は金・土・日の3日間。どんな人がやってくるのだろうか。

「おもしろい、毎日2回は来る」コロナ禍も憩いの場に

小学生:
くじ引かせてもらってもいいですか?

駄菓子屋まるちゃん 伊藤春恵さん:
いいよ。お金はあとでまとめて払ってもいいよ

午後3時30分にやってきたのは、近所の小学生3人組。

小学生:
島に小さい菓子がなかったから、めちゃめちゃおもしろいです

――今までどこでお菓子を買ってた?

小学生:
コンビニとか

駄菓子屋まるちゃん 伊藤嘉睦さん:
10円か20円、握りしめていけば買い物できる。そこでまた仲間と話し合える

街が賑わい、子どもが多かった50年以上前の利尻島。

伊藤さんも小銭を握りしめ駄菓子屋に通っていた1人だった。遊びを通じて友情を深めた。

現代の子どもたちにも同じ体験をしてほしいと願い開いた店。午後4時30分、店の周りは子どもたちで溢れていた。

小学生:
毎日、絶対2回は来てます

――人が集まってくるのは?

隣に住む漁師:
いいと思う。俺はにぎやかなところ好きだから

店内は5畳ほど。感染対策のため、入店制限をしている。

子どもたちもコロナ禍の生活にストレスを感じているようだ。

――学校はどう?

小学生:
楽しいよ

――マスクは嫌じゃない?

小学生:
嫌だよ。できることなら外したい

利尻島ではこの半年間、新型コロナウイルスの感染者は1人しか確認されていない。しかし、徹底した感染対策は都市部と同じ。

先生も子どもたちも息苦しい生活を強いられている。

駄菓子屋に似つかわしくない2人の大人。子どもたちが通う小学校の先生だ。

沓形小学校教師 吹田哲朗さん:
新しく商品が入荷していておいしいとか、学校で情報交換しながら、共通の話題として楽しんでいます

コロナ禍の学校生活でも楽しい話題を。駄菓子屋さんが、先生と子どもをつなぐ存在になっている。

千葉からやってきたゲストハウススタッフも"つながり"を求めて…

利尻島の夏。百名山でもある利尻山の絶景やエゾカンゾウなどの植物を見るため、多くの観光客が訪れる季節。

しかし、コロナ禍で2020年の観光客は前の年から7割も減少した。

土曜日は開店から多くの島民が来ていた。とそこへ、自転車で現れた1人の女性。服装は観光客のようだが…。

駄菓子屋まるちゃん 伊藤春恵さん:
観光ですか?

蔦しおりさん:
これからゲストハウスでお世話になる(働く)ので、島の下見に来ていて。街の人に「あっちだよ」と聞いて来た

7月中旬から利尻島のゲストハウスで働くため研修に来ていた、千葉県出身の蔦しおりさん(26)。

島民や観光客と交流することを楽しみにしていたが、コロナ禍でどう接したらいいのか悩んでいいた。

蔦しおりさん:
人と同じものを触ることを気にする人もいると思うので、みんなで楽しく話せる方がいいんですけど

蔦さんが働く予定の「利尻うみねこゲストハウス」。

アットホームな雰囲気が売りの宿。

しかし、2020年の利用者は例年の半分以下だった。蔦さんの心をほぐしてくれたのは、駄菓子屋での交流だった。

蔦しおりさん:
すごいですね雰囲気が。駄菓子屋さんという感じで。昔、利尻に駄菓子屋さんはあったんですか?

駄菓子屋まるちゃん 伊藤嘉睦さん:
あったんです。50数年前だけど。数10年経つと今と同じ話になる。「あったよね」って話に

蔦しおりさん:
こんなご時世だからこそ、リラックスできる場所にできたらいいなと思っています

島民に受け入れてもらって、ここで働いていく。そんな決意の表情だ。

子どもから大人まで…多くの人の心に残る存在

島民の皆さんに、駄菓子屋まるちゃんとの思い出を聞いた。

【父の転勤で利尻島へ…2021年が最後の島生活の子ども】
寂しい。もうちょっといたいな、というのはありますね。みんなと駄菓子屋で思い出を作れたのはよかった

【生後2カ月で駄菓子屋デビュー】
いま2カ月です。駄菓子屋デビューです。島にいいところができたから、連れてこようと思いました

【80代の漁師 昭和に思いをはせる】
昔に戻ったみたいだね。自分の青春時代。やっぱり忘れないものね

【3日連続で来た女の子】
めっちゃ楽しい。ディズニーランドみたいな感じですね

駄菓子屋まるちゃん 伊藤春恵さん:
ありがとう。おばさん、うるうるしちゃう

3日間で訪れた客は約200人。

駄菓子屋まるちゃん 伊藤嘉睦さん:
子どもたちが50数年後、「駄菓子屋があった」「おじさんとおばさんがいた」って言われて。そんな店でいいかなと

コロナ禍に誕生した島の駄菓子屋さん。

ここに行けば楽しい、ここに行けば好きな人に会える。笑顔、安心…。忘れていたものがぎゅっと詰まった小さな宇宙があった。

(北海道文化放送)

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