バイデン大統領は8日、米国最長の戦争となったアフガニスタンでのテロとの戦いで、駐留米軍の撤退作業を8月末までに完了させると発表した(首都カブールにある米大使館を警備する米兵650人は残留)。

同発表で、バイデン大統領は、「アルカイダの打倒と9.11のような再発防止は達成された」、「アフガンの国家建設はアフガン国民の権利と責任である」、「米国は中国など新たな脅威に対応する必要がある」などと語ったが、テロ研究に従事する筆者は、バイデン大統領には2つの狙いがあったように考える。

アフガニスタンからの米軍撤退について会見するバイデン大統領
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エンドレスウォーを終わらせる選択肢は「撤退」のみ

バイデン大統領は4月、9.11日までに完全撤退を完了させると発表していた。それが2週間あまり早まるという形になったわけだが、8日の発表にもあるように、中国への本気モードを習氏に示す狙いもあったはずだ。米国単独で中国に対抗してきたトランプ前政権と違い、バイデン政権は同盟国や友好国と対中けん制網を構築し、既に脱中サプライチェーンの強化に乗り出している。対中けん制網の中核として、バイデン大統領には同盟国や友好国にもインド太平洋重視の姿勢を改めて強調する狙いもあったことだろう。

バイデン大統領の決断は、非常に現実的である。アフガンでのテロとの戦いは米国にとって最長の戦争ではあるが、テロ研究の視点からいえば、エンドレスウォー(終わりの見えない戦い)でもある。国家(軍)と違い、テロ組織に領土・領域はなく(分離独立型は除く)、誰がテロリストかは分からない場合も多く、正に見えない相手が敵である。そういう相手にどこまで軍事戦略が機能している、機能していないかの判断は難しく、戦争の意義を強調することも難しくなる。よって、国家としては撤退するタイミングを探ることになり、撤退がエンドレスウォーを終わらせる唯一の選択肢となる。

“極右過激派”という内からの脅威

また、内政も影響している。近年、筆者は極右過激派のグローバル化について研究を進めているが、依然として米国では分断が続いている。最近、トランプ前大統領が2022年秋の中間選挙に向けて選挙活動を再開したが、白人至上主義やトランプ支持の組織や民兵、信奉者たちのエネルギーは衰えていない。

オハイオ州で集会を開き政治活動を再開したトランプ氏

それについての研究論文を網羅的に見ていても、極右過激派の動向には強い懸念が示されており、バイデン政権にとっては最大の敵と言っていいだろう。テロ・過激派の動向において、ブッシュからトランプ時代は“外からの敵”が第一の脅威だったが、バイデン政権は“内からの脅威”に直面している。

よって、アフガンからの撤退を求める国民の声は大きいことから、バイデン大統領としては、中間選挙や反バイデン側の動向も見据え、今のうちから国民の支持を多く集めておきたい狙いもあることだろう。

今後のアフガン情勢の行方

筆者を含め、多くのテロ研究者は今後のアフガン情勢の行方を懸念している。

バイデン大統領は8日の発表でアフガン軍を信頼しているとも言及したが、アフガン軍が単独でタリバンの攻勢を食い止めることは難しい。既にタジキスタンに越境したり、タリバンが攻めてきたことで逃亡したりするアフガン軍兵士の姿も見られ、両者の軍事能力を比較すること自体が無意味かも知れない。

武装化した市民

米軍撤退と合わせて攻撃をエスカレートさせているともなれば、それだけタリバンには余力があることを意味する。タリバンは地元市民からの支持拡大に努め、タリバン幹部も外交団や外国NGO、外国人など非軍人がタリバンの標的になることはないと明かしているが、警備任務の米兵650人が引き続き残り、またタリバン内部でも穏健派と強硬派があるように、アフガン情勢の行方については多くの懸念材料が残っている。

また、バイデン大統領はアルカイダの打倒が達成されたというが、今後アフガンの混乱がさらに進み、再びテロの温床になる可能性は排除できない。

国連安保理は近年でも、アルカイダのメンバーはアフガンに依然として400人から600人に存在すると報告書の中で述べているが、タリバン強硬派やハッカーニネットワークなどアルカイダと緊密な関係を維持している戦闘員も少なくない。アルカイダ戦闘員と現地女性との結婚が進み子供が生まれ、親族や地元社会との関係も構築され、次世代のアルカイダを懸念する声も専門家の間では聞かれる。

米軍の撤退は、国際的なテロの脅威低減にはならない

一方、もう少し広い視野でアフガン問題を考えてみたい。テロ研究の視点からいえば、アルカイダやイスラム国といった一般的にいわれるジハードテロ“組織”は、既に指揮命令系統がある組織というより、各国に点在する支持組織や信奉者たちを束ねた“ネットワーク”、“ブランド”といった方が現実的だ。アルカイダやイスラム国を支持する組織は、フィリピンやインドネシア、バングラデシュやパキスタン、イエメンやシリア、エジプトやアルジェリア、マリやブルキナファソ、ソマリアやモザンビークなど各地に点在し、信奉者たちは欧米におけるローンウルフテロ(アルカイダなどが掲げる過激思想に感化される形で個人が単独的に起こすテロ)という形で脅威を与えてきた。

米軍が撤退した後のバグラム空軍基地

その視点に立つと、今回バイデン大統領が述べたアルカイダの打倒は、あくまでも従来からある組織としてのアルカイダのみを指しており、国際的なテロの脅威低減とは一致しない。現在は差し迫った脅威ではないものの、アルカイダやイスラム国を中心とするジハード組織の脅威は不気味な形で残っている。

これに照らして考えると、アフガンの混乱によって今後テロの温床化が進むことになれば、各国に点在する支持組織や信奉者たちが士気を高め、活動をエスカレートさせることが懸念される。

デジタルネットワークでつながる現代のテロ組織

現在の国際社会は、ネットやSNS網で繋がるデジタル社会であり、デジタルテロの時代でもあるのだ。アルカイダが勢いを盛り返したからといって、各地域の支持組織がたちまち組織力をアップさせるわけではないが、士気を高めることは各地域の治安情勢にとっては大きな問題である。

さらに、テロの温床化が進むとなれば、1979年のソ連によるアフガン侵攻のように、アルカイダなどを支持する組織の戦闘員がアフガンに入り込み、そこで軍事訓練などを積み、新たな国際テロネットワークを構築する恐れもある。1979年当時と違い、個人個人がSNSなどで繋がる時代においてはより懸念すべきシナリオかも知れない。

「イスラム国」のピーク時、世界各国から3万から4万人(様々な統計がある)が外国人戦闘員としてシリアやイラクに流入したというが、それほどの規模は考えにくいとしても、今後のアフガン情勢を巡っては、パキスタンやイラン、タジキスタンなどアフガンと国境を接する国々の国境管理というものも大きな要因となろう。

バイデン大統領なりの国益第一主義

今後のアフガン情勢を巡っては、テロ情勢の視点からみても強い懸念が残る。その中でも、バイデン大統領はアフガン撤退と中国への対抗を押し進めている。バイデン大統領が強調する国際協調主義は、グローバルイシューを先頭に立って各国と解決していくという純粋な国際協調主義ではなく、バイデンなりの、米国の国益を第一にした国際協調主義であると筆者には映る。

一国の指導者が国益を第一に考えるのは当然であるが、テロや人権、貧困や経済格差などのグローバルな安全保障問題が、コロナ禍もあってさらに軽視されてしまうことが懸念される。

【執筆:和田大樹】