座っている時間が長いほど死亡リスクが増加?

コロナ禍でテレワーク(リモートワーク)が普及し、自宅で一日中座りっぱなしで仕事をしている人もいることだろう。そんな中、ある研究結果が発表された。座っている時間が長いほど死亡リスクが増加することがわかったのだ。

京都府立医科大学などの研究グループが発表したもので、日本人の男女6万4456人(男性2万9022人、女性3万5434人)、平均で約7.7年間を追跡したデータを用いて、日中の座った時間と死亡の関係を分析した。

参加者全体では、日中の座位時間(座っている時間)が2時間増えるごとに、死亡リスクは15%増加。生活習慣病の有病者では、脂質異常症では18%、高血圧では20%、糖尿病では27%の死亡リスク増加が認められたという。

日中の座位時間が2時間増えるごとに増加する死亡リスク(画像提供:京都府立医科大学大学院医学研究科 小山晃英講師)
日中の座位時間が2時間増えるごとに増加する死亡リスク(画像提供:京都府立医科大学大学院医学研究科 小山晃英講師)
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※「死亡リスクが15%高まる」とは、死亡率が 1.15倍となることを示し、その集団の16(1+15)%が死亡するわけではない。
※「死亡率」は、ある集団が一定期間で亡くなった割合を示したもの。

また、生活習慣病(高血圧、脂質異常症、糖尿病)の保有数に応じて座位時間と死亡の関係は大きくなり、生活習慣病を保有していない人では、日中の座位時間が2時間増えるごとに、死亡リスクは13%増加となるが、3つ全て保有している人では、42%も死亡リスクが高くなることが示された。

脂質異常症、高血圧、糖尿病の保有数に応じて、日中の座位時間が2時間増えるごとに増加する死亡リスク(画像提供:京都府立医科大学大学院医学研究科 小山晃英講師)
脂質異常症、高血圧、糖尿病の保有数に応じて、日中の座位時間が2時間増えるごとに増加する死亡リスク(画像提供:京都府立医科大学大学院医学研究科 小山晃英講師)

さらに、「余暇の身体活動量を増やしても、日中の座位時間の長さと死亡の関連を完全に抑制するには至らない」ということもわかったという。なお、今回の研究成果は6月14日に専門誌「アメリカ心臓協会誌」に掲載された。

東京都では7月12日から4度目の緊急事態宣言が発令され、引き続きテレワークを実施したり、再びテレワークに切り替えた企業もあるかもしれない。在宅勤務でいつもより座る時間が増えれば、死亡リスクが高まる可能性があるのだ。

では、死亡リスクを下げるためにどんなことをすればよいのか? 研究グループの京都府立医科大学大学院医学研究科の小山晃英講師に詳しく話を聞いた。

京都府立医科大学大学院医学研究科 小山晃英講師 (画像提供:本人より)
京都府立医科大学大学院医学研究科 小山晃英講師 (画像提供:本人より)

座る時間が長いと高血圧、脂質異常症、糖尿病につながる

――座っている時間が長いと、なぜ体に悪影響を及ぼす?

血行不良と筋肉を動かさないことによる代謝の低下です。


――その場合、具体的にどんな病気にかかりやすい?

高血圧、脂質異常症、糖尿病といった基礎疾患といわれる生活習慣病や、循環器疾患、いくつかのがんなどと関わることが報告されています。他にも腰痛や肩こりなどの慢性的な痛みにつながることもあります。


――座っている時間によって、死亡リスクはどれくらい増えるの?

今回の研究の結果、日中の座位時間が2時間増えるごとに、死亡リスクは15.3%増加することが認められました。心血管疾患リスク因子のある人ではより顕著であり、例えば高血圧では20.2%、脂質異常症では17.6%、糖尿病では27.2%でした。さらに、高血圧、脂質異常症、糖尿病という3つのリスク因子が重複している人では41.7%に上ることが分かりました。

対策はスタンディングデスクの導入やストレッチ

――日本人は平日に座る時間が世界一長いとするデータもあるとか?

国際標準化身体活動質問票が作られた2011年のデータによると、日本人の座位時間は、世界で一番長いという結果が有名です。ただし、このデータは日本人5000人ほどと限られた人数の調査です。

日中の活動時間の内容は、年齢やSocio-economic Status(SES)と表現される社会経済地位や仕事環境などが大きく影響しますので、一概に論じることは難しいと考えます。


――特に座位時間が長くなりがちなテレワーカーはどう対策すればよい?

座りながら足のストレッチをしたり、ベルト付きのダンベルなどをつま先に装着して足を動かすことも対策になります。他にもスタンディングデスクの導入など、立ったり座ったりと体勢を変えることができる環境作りは有効だと考えられます。

しかし、テレワークだと、環境を変えることが難しいこともあるかと思います。その場合、連続する座位時間を中断することの重要性も報告されているため、こまめに動くことで連続した座位時間をなくす心がけを持つことが大事です。

※イメージ
※イメージ

――単純に立って仕事するのも、対策になり得る?

「座る」から「立つ」という動作の違いだけでも、血流や筋肉の刺激は変わりますので、肥満対策へと繋がります。実際に、我々の研究成果から、座る時間と立つ時間の内臓脂肪蓄積との関係を検討してみると、座る時間が長いほど内臓脂肪は増加し、立つ時間が長いほど内臓脂肪が減少することを認めています。

パソコン・スマホの一定時間ごとの通知機能などで経過時間を意識

――テレワークが普及することで、死亡率は上がる?

テレワークが普及していくほど死亡率が上るような急激な変化が起こるとは考え難いです。座位時間が伸びることにより肥満となり、メタボリックシンドローム発症、そこからさまざまな合併症を発症していく、というストーリーは考えられます。

個人ではなく、集団としてこの変化が起こるには少なくとも数年はかかると思います。通勤時間の削減はテレワークの利点でもありますが、身体活動の減少に繋がらないように、防止することは大事ですね。


――最後にテレワーカーの皆さんにアドバイスを…。

パソコン画面に向かうことに集中しすぎると、どんどん時間が過ぎてしまいます。その間、体勢が変わらず、座りっぱなしになっているはずです。特に、テレワーク慣れしていない人は要注意です!パソコンやスマホで、一定時間ごとにお知らせしてくれるような機能を利用すると、経過時間を意識することができます。

テレワークにはメリットも多いため、ライフワークバランスを自分でコントロールできるように、さまざまな工夫を取り入れて活用していただきたいです。


テレワークという働き方は、コロナが収束しても続いていく可能性もある。予防として余暇の運動を増やすことはあまり効果がないとのことなので、定期的にストレッチや立って仕事するなどの工夫をして、健康維持に心掛けてほしい。

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プライムオンライン編集部
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