韓国は分断国家だ。もちろん、同じ民族である北朝鮮と分断されているという意味である。だがソウルに住んでいると、韓国国内にはもう一つの「分断」が存在している事がよく分かる。「南南葛藤」と呼ばれるもので、国民は保守派と進歩派に分断されているのだ。

この分断は苛烈な物であり、個々人のレベルだけでなく地域的な分断も伴っている。大邱(テグ)市は保守、光州(クァンジュ)市は進歩という具合だ。

この韓国内の分断が世界最悪レベルであることが、ある調査で判明した。日韓関係の悪化が日常化している今、我々日本人も、韓国が一枚岩では無いということを知っておくべきであろう。

「文化戦争」

「Culture wars around the world:how countries perceive divisions(世界の文化戦争:国々は分断をどう認識しているのか)」
「Culture wars around the world:how countries perceive divisions(世界の文化戦争:国々は分断をどう認識しているのか)」
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フランスに本社がある多国籍調査会社イプソスは6月25日、イギリスのキングスカレッジロンドン政策研究所と共同で行われた興味深い調査結果を発表した。タイトルは「Culture wars around the world:how countries perceive divisions(世界の文化戦争:国々は分断をどう認識しているのか)」。

「文化戦争」というのは聞き慣れない言葉だが、「伝統主義者・保守主義者」と「進歩主義者・自由主義者」の間における、価値観の衝突を指す概念だ。今回の調査では先進国を中心とした28カ国およそ2万3000人にアンケートが実施され、イデオロギー・貧富・年齢・性・宗教・人種など様々な要素について「自国は分断されている」と感じている人がどの位いるのかが明らかになった。

あらゆる面で分断されている韓国社会

韓国は12の調査項目のうち実に7項目で1位、つまり「分断されている」と考える人が多かった。韓国が1位だったのは、「富裕層と貧窮層(91%)」「男性と女性(80%)」「大卒と非大卒(70%)」「若者と年長者(80%)」「宗教間の分断(78%)」、そして「保守と進歩(87%)」「異なる政党支持者間の分断(91%)」の6項目だ。他にも3つの項目(「大都市エリートと労働者」「社会階層間の分断」「都市と地方」)でトップ3に入っていた。

「富裕層と貧窮層の分断」では韓国とチリが91%とトップ(「世界の文化戦争」より)
「富裕層と貧窮層の分断」では韓国とチリが91%とトップ(「世界の文化戦争」より)
「男性と女性の分断」も80%で韓国がトップ(「世界の文化戦争」より)
「男性と女性の分断」も80%で韓国がトップ(「世界の文化戦争」より)

政治的な保守・進歩の対立だけでなく、あらゆる面で韓国社会が分断されている事がよく分かる。その分断の深さは世界一だ。

「富裕層と貧窮層」「男性と女性」「大卒と非大卒」「若者と年長者」「宗教間の分断」「保守と進歩」「異なる政党支持者間の分断」の7項目で韓国社会は世界一分断されている事が分かった
「富裕層と貧窮層」「男性と女性」「大卒と非大卒」「若者と年長者」「宗教間の分断」「保守と進歩」「異なる政党支持者間の分断」の7項目で韓国社会は世界一分断されている事が分かった

一方、この韓国と最も対照的な国がある。日本だ。

日本は「人種間の分断(26%」「宗教間の分断(23%)」「保守と進歩(34%)」「異なる政党支持者間の分断(31%)」が28カ国中最下位。「大都市エリートと労働者の分断(39%)」「元から住んでいた人と移住者の分断(35%)「富裕層と貧窮層の分断(54%)」で27位など、全ての調査項目で世界平均を大きく下回っている。

「人種間の分断」では日本は26%と最下位(「世界の文化戦争」より)
「人種間の分断」では日本は26%と最下位(「世界の文化戦争」より)

この調査を見る限り、世界で最も分断されていない社会が日本だった。まさに、韓国とは真逆である。韓国は隣国であり人や物の行き来が多く、黄色人種が多いことなど一見して共通点があるため「似ている国」と思いがちだが、こと社会の分断に関しては、日韓は世界で最も対極にあることが分かる。この点は、韓国という国を見る上で必ず頭に入れておくべき事だろう。

「分断社会」韓国を見る日本の誤解

先日も、この韓国の「分断」を強く感じる機会があった。韓国国会で保守系野党のベテラン議員として活動する人物に会って話を聞いたのだが、この議員は米中の対立について「韓国は同盟国としてアメリカと共に歩まなければならない」と断言した。その上で、「韓国、アメリカ、日本、台湾は自由民主主義国家として手を取り合って中国と対峙しなければならない。日韓がいがみ合う事は対中国を考えれば両国共に全く利益がない。これはクアッドについても同様で、韓国もクアッドに参加すべきだ。日韓は安全保障上の利害が一致している。日韓関係を何とかしないと共倒れになってしまう」と熱っぽく話した。

この議員が語る中国観、日米とのあるべき姿というのは、文在寅政権と全く異なっている。文政権は「安保はアメリカ、経済は中国」にそれぞれ依存している現状を変える意志を見せず、どっちつかずの曖昧な「バランス外交」を目指している。アメリカは唯一の同盟国だが、むしろ悲願である北朝鮮との融和の後押しを得るために、中国に強く配慮している側面もある。一歩間違えれば米中双方の不信を買いかねない危険な綱渡りだが、野党である保守系議員は「もはやバランス外交など不可能」と判断した上で、日韓関係改善の必要性を現政権よりもはるかに強く認識している。

日本の世論、特にネット上では「韓国は中国や北朝鮮、ロシアなどのレッドチームに入った」という言葉がよく聞かれる。だが韓国は一枚岩ではない。韓国では「中国との関係を見直し、アメリカと共に歩み、日本とも関係改善しなければならない」と強く考える政治家や市民も少なくない。しかも現在、保守系野党の支持率は進歩系与党の支持率を上回っているのだ。

2022年3月には韓国で大統領選挙が行われる。社会の分断が深いからこそ、現在とは全く異なる政策に変更される事もありうる。この変化の振れ幅は、世界で最も分断がなく、政権交代も稀な日本で暮らしていると、皮膚感覚としてなかなか理解しにくいかもしれない。そういう意味で、韓国社会の分断をデータで示す今回の調査結果は、日本人が韓国人を知る上で重要なデータと言えるだろう。

【執筆:FNNソウル支局長 渡邊康弘】

渡邊康弘
渡邊康弘

FNNプライムオンライン編集長
1977年山形県生まれ。東京大学法学部卒業後、2000年フジテレビ入社。「とくダネ!」ディレクター等を経て、2006年報道局社会部記者。 警視庁・厚労省・宮内庁・司法・国交省を担当し、2017年よりソウル支局長。2021年10月から経済部記者として経産省・内閣府・デスクを担当。2023年7月からFNNプライムオンライン編集長。肩肘張らずに日常のギモンに優しく答え、誰かと共有したくなるオモシロ情報も転がっている。そんなニュースサイトを目指します。