喉を潤す清涼飲料水として、長い間愛されてきたラムネやサイダー。
時代ともに製造する店が減っていく中、地域の宝を残そうと、この春から広島・尾道市の製造所を引き継いだ男性がいる。

人気の老舗店を継いだ“4代目”

栓を抜けば、泡とともにあふれ出る甘い香り。どこか懐かしさを感じる、昔ながらの瓶入りラムネを販売し続ける店が尾道市の向島にある。

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昭和5年創業の「後藤鉱泉所」は、当時から90年以上変わらぬ店構え。その中をのぞけば、年季の入った冷蔵庫に積み上げられた瓶ケース。

後藤鉱泉所(広島・尾道市)
後藤鉱泉所(広島・尾道市)

レトロな雰囲気を色濃く残す店は、向島の人気スポットとして、全国から観光客が訪れる。

訪れた客:
近くにこういうお店がたくさんあったのよ、昔は。自分のところで作ってて。だからノスタルジック

訪れた客:
懐かしいですよね。昔から、わたしの生まれる前から、このビー玉入りのラムネがあるのが懐かしくて。喉が乾いてたから、とてもおいしかったです

店に並ぶ商品は、全て併設する製造所で作られたもの。

ラムネ以外にもクリームソーダなどが並ぶ
ラムネ以外にもクリームソーダなどが並ぶ

ラムネ以外にも、サイダーやクリームソーダなど、時代に合わせて味を微妙に変えながら、地道にファンを増やしてきた老舗は、高齢になった店主に代わり、2021年4月、4代目へと引き継がれた。

後藤鉱泉所4代目・森本繁郎さん
後藤鉱泉所4代目・森本繁郎さん

後藤鉱泉所4代目・森本繁郎さん:
楽しいですね。よく冷えてくれれば

店を引き継いだのは、森本繁郎さん(44)。昔ながらの製法を守る地域の名店が、後継者を募集していることを知り、すぐに手を挙げた。

前職は、製造や販売とはかけ離れた竹原市役所の公務員。

市の職員として、町並みの保存などに取り組んできたが、自分自身が担い手となり、廃業していく伝統的な店を直接守りたいと、妹の藍さんを誘い、挑戦することを決めた。

後藤鉱泉所4代目・森本繁郎さん:
こんなに全国的に有名なところなのに、後継者がいないということで、非常にもったいないなと思って

後藤鉱泉所4代目・森本繁郎さん
後藤鉱泉所4代目・森本繁郎さん

後藤鉱泉所4代目・森本繁郎さん:
ここがなくなることで、この向島の町に元気がなくなるんじゃないかと思って、じゃあ何とか自分ができればと思って

失敗と学びの連続 先代からの合格点は…

森本さんの指導役となるのは、先代の後藤忠昭さん夫婦。
60年以上にわたり、二人三脚で店を切り盛りしてきた知識と経験の全てを森本さんに伝えようと、製造に毎回立ち合っている。

知識と経験を森本さんに伝える後藤さん夫婦
知識と経験を森本さんに伝える後藤さん夫婦

後藤さん夫婦:
手が逆じゃないの。しっかり持っとかにゃいけん

全てが未経験の森本さんにとって、店の継承は、失敗と学びの連続。
この日は、商品の味を左右するシロップの下準備でミスが。砂糖の溶かし具合が足りず、やり直すことになった。

後藤さん夫婦:
透明になったら溶けてる。こうやって濁ってたら砂糖は溶けてない。だから途中で混ぜないといけん

レシピや作業を覚えるだけでは、同じ味は再現できない。
商品製造で相手にするのは、古いもので60年以上という機械たち。変わらぬ味を作り続けようと、先代が修理を重ね、使い続けてきたもの。

古いもので60年以上という機械たち
古いもので60年以上という機械たち

最新の機械とは違い、温度やガスの強さなど、自分の感覚を頼りに微調整が必要になるため、使いこなすには経験を積まなくてはいけない。
そして、やっとの思いでクリームソーダが完成した。

後藤鉱泉所4代目・森本繁郎さん:
古い機械だからこそ出せてる味っていうのもあるかなって。思う通りにならないところもあるんですけど、だからこそ「ああしたらいい」「こうしたらいい」って、改善策を考えていくのが非常に楽しいです

後藤鉱泉所4代目・森本繁郎さん
後藤鉱泉所4代目・森本繁郎さん

店を引き継いでから2カ月、森本さんたちだけで製造ができるという合格点は、まだもらえていない。独り立ちには、もう少し時間がかかるようだ。

後藤鉱泉所3代目・後藤忠昭さん:
私らの希望は、今の製品の味を落とさないように、それだけ最初から言ってる。せっかくここまで積み上げた。ここで味を落としたら、「あそこのあんまりおいしくなかった」と言われたんじゃ渡した意味がないし

後藤鉱泉所3代目・後藤忠昭さん
後藤鉱泉所3代目・後藤忠昭さん

地域のにぎわいを生み出せるように…

先代から製造方法を学ぶ傍ら、森本さんは店の可能性を広げようと、独自の取り組みも始めている。

製造所にある巨大な機械。これは、使い終わった瓶を洗浄するもの。
商品に使われている瓶は、今ではもう製造されていない。繰り返し利用するため、持ち帰りや通信販売はできない。

「訪れないと飲めない」ために希少性は高まる一方、土産ものとしては販売できない。そんな悩みを解決しようと、新商品を開発した。

客:
持ち帰りができるのは?

後藤鉱泉所4代目・森本繁郎さん:
この新しい商品の怪獣サイダー。これがお持ち帰りできます

持ち帰り可能な新商品「怪獣サイダー」
持ち帰り可能な新商品「怪獣サイダー」

新商品は、従来とは違う瓶を使い、持ち帰りができるサイダー。地元の新名物になればと、尾道のレモンを使用している。
土産物として、より多くの人のもとへ届く可能性を秘めたサイダーは、6月に販売を始め、売れ行きは好調だ。

後藤鉱泉所4代目・森本繁郎さん:
ここを継ぐにあたって、地域の宝だと僕は思ってて、地域の宝を生かしていく、地域の力にしていきたい

後藤鉱泉所4代目・森本繁郎さん:
笑顔で来て、笑顔で帰っていく…町全体がそういうふうになっていければいいな

店を受け継ぐだけでなく、地域ににぎわいを生み出せるような4代目を目指して。
森本さんの挑戦は、始まったばかりだ。

(テレビ新広島)

テレビ新広島
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