「パニック障害」は誰にでも起こり得るもの。そして突然やってくる。

鍼灸師で心理カウンセラーの影森佳代子さんもパニック障害を経験した。克服するべく、自身の経験を生かし、心理学と東洋医学を統合させた独自のメソッドを生み出した。

パニック障害はどんな病気なのか、セルフケアと乗り越え方について「パニック障害 大丈夫!かならずよくなる」(河出書房新社)の著者・影森さんに聞いた。

突然理由なく発作が起こる

影森さんの身に初めてパニック発作が起きたのが36歳の時。鍼灸師の資格を取得するため専門学校に通っていた時に起こった。学校の最寄り駅に到着する直前、電車内で具合が悪く、息苦しくなり、「息ができない!死んじゃう」と恐怖心でいっぱいになったという。

「パニック障害 大丈夫!かならずよくなる」(河出書房新社)より イラスト/林ユミ
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パニック障害とは、不安障害の分類の一つ。身体に病気がないのに前触れなく、動悸や呼吸困難、めまいなどの発作が起き、それを繰り返す。再び起こり得る発作に対する恐怖や不安から、外出などが困難になってしまうことも。

発作自体は数分で治まるが、「あの発作が起きたらどうしよう」という予期不安が襲うことも特徴。発作は乗り物の中や渋滞中の車内、閉ざされた空間などで起きやすいが、自宅や就寝中に起こる人もいる。

「パニック障害 大丈夫!かならずよくなる」(河出書房新社)より イラスト/林ユミ

こうした発作を「パニック発作」と呼び、先に挙げた動悸や呼吸困難、めまいなどの他に発汗、身震い、息切れや息苦しさなど不快で不安を感じる症状が多い。また発作が起きた場所である、電車やバス、美容院、歯医者など“特定の場所や状況”を避けるようになる「広場恐怖症」を併発する人もいる。

過度なストレスが発症の要因

パニック障害が発症しやすい人の傾向として、「真面目で頑張り屋さん。繊細なタイプ」に多く、過度なストレスが溜まっていることが発症の要因としてあるという。

人間関係や仕事のプレッシャー、自身や家族の健康問題、生活環境の変化で強いストレスが加わり、そのストレスがピークに達した時にパニック発作を起こしやすい。

特にコロナの影響で生活環境なども変わり、ストレスが蓄積されたことで心身が不調になり、パニック障害を発症した人もいるという。

鍼灸師で心理カウンセラーの影森佳代子さん

「私の鍼灸院では10代から90代まで来院されますが、パニック障害の患者さんは30代から50代が特に多いです。仕事でのプレッシャーに加えて、コロナ禍での生活の変化が重なり、大きくバランスを崩す人がこの年代に集中していると推測されます」(影森さん)

鍼灸院を訪れる患者は「特にストレスを感じていない」と当初は答えるが、問診をしていくと、患者自身が無意識にストレスをため込んでいることに気づくそう。

昨年4月の初の緊急事態宣言以降、影森さんの鍼灸院では、以下のような症状で心身の不調を訴えてくる人が多いという。

・コロナに感染したらどうしよう。感染したかも。という不安からくる不調
・慣れないリモートワークによりストレスがたまり体調不良を訴える人
・夫が在宅勤務となり、常に家にいることでストレスが蓄積
・コロナ禍で打撃を受けて大きく減収となり将来への不安から持病が悪化

40代の男性はコロナ禍で在宅勤務になり、仕事とプライベートの切り替えができないなどのストレスに加え、仕事のプレッシャーも重なったことで、動悸で夜中に目が覚めて朝まで起きていることが続いたという。

この男性は、コロナ前は飲み会などでストレスを発散していたが、コロナの影響で難しくなった。同じようにコロナ前は外食や旅行などで発散していたが、それができなくなり、ストレスをためてしまい、メンタルが不調になるケースが多くある。

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また、夫がリモートワークに移行し毎日家にいることで、リラックスできないという40代女性も。毎日3食作るのが苦痛で、夫が在宅勤務になってから、持病が悪化してつらいと影森さんに訴えた。

「ストレスを受けるコップに水がたまり、ギリギリのラインでこぼれていなかったのが、何かの刺激で水があふれる(発作が起こる)ケースが多いと感じます。パニック障害は、ブレーキをせずにアクセルを踏み続けて、壁に衝突して初めて気づくのです。ストレス耐性はバケツほどの人もいれば、おちょこくらいの人もいて、人によって異なります」

だからこそ、「ストレスはためていないか?」など自身の身体に無頓着にならず、身体と向き合うことが重要になる。

医療機関での診察とセルフケアを

では、パニック発作のような症状が起きたら、どうすればいいのか。

まずは、“内科的な病気ではない”ことを明らかにさせる鑑別診断をした上で、精神科や心療内科を受診することが大切だという。

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パニック障害と似たような症状の病気もあるため、内科や循環器科などで診察を。内科的な病気ではないことが分かれば、それが安心につながることもある。そして、精神科や心療内科を受診し、パニック障害だと診断されれば、薬物療法や心理療法が始まる。

パニック障害と似たような症状の病気は、自律神経失調症や過呼吸症候群、メニエール病、甲状腺機能亢進症、心臓の疾患、低血糖などがある。

「どんな病気でも早期発見、早期診断が重要」であるため、影森さんは精神科や心療内科を受診することに抵抗があっても、早くから診断を受け、自分の病気と向き合うことが克服につながると訴えた。

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パニック障害は「電車に乗ったらまた発作が起こるかも」と電車やバスなどで移動することが困難になったり、一人で外出したりすることも難しくなる。鑑別診断のために病院で診察を受けたり、通院したりすることもハードルが高い。

だからこそ、影森さんは心理療法の考え方をベースに、心と身体両方にアプローチする「メソッド」を生み出した。それを活用して克服へ向けて一歩ずつでも進んでほしいという。

「おもち呼吸法」「ツボ刺激」「イメージトレーニング」の3つのメソッドは、セルフケアが可能で移動中も自宅でも場所を問わず、自分のペースでできる。

パニック障害の場合、過剰なストレスが加わっているため、自律神経の中の交感神経が高ぶっている。それを抑える(副交感神経を高める)ことが必要になり、3つのメソッドは自律神経を整え、心身共にリラックスした状態を作り出す。

もし今、パニック障害で悩んでいたら、必ずステップを順番に進めていってほしい。

ステップ1の1つ目は「おもち呼吸法」。興奮している交感神経を鎮めて、自律神経をバランスよく整える。人は不安や恐怖を感じると呼吸は浅く、速くなるため、まずはリラックスさせて、心の安寧を取り戻していく。

「パニック障害 大丈夫!かならずよくなる」(河出書房新社)より イラスト/林ユミ
「パニック障害 大丈夫!かならずよくなる」(河出書房新社)より イラスト/林ユミ

やり方はとろけるおもちを頭でイメージしながら息を吐く。上半身を軽くストレッチして、口はストローを吸うときのように、体の力を抜きながらフーーッと長めに吐くこと。これを1回につき5分ほど、1日2回を目安に。就寝前に行うことがオススメだそう。

2つ目はツボ刺激。「お守りツボ」と影森さんは呼び、身体のツボを刺激することで自律神経を安定させ、精神面を落ち着かせる。

特にオススメの「お守りツボ」は、左手首の内側にある「経渠(けいきょ)」。左右の手首にあるが、左手のツボを押すと良いという。左の手のひらを上に向け、親指側の手首の一番太いしわからひじに向かって親指1本幅分のところに右手の指を添える。触ってみてくぼみを感じたところが「経渠」になる。

「パニック障害 大丈夫!かならずよくなる」(河出書房新社)より イラスト/林ユミ

押すタイミングはいつでも良く、「息苦しくなってきた」「ドキドキする」と感じたら押してみて、押し具合は「イタ気持ちいい」くらいがちょうど良い。

「パニック障害 大丈夫!かならずよくなる」(河出書房新社)より イラスト/林ユミ

親指で不安をやわらげる「経渠」を押し、人差し指で緊張を鎮める左腕の「外関」を押すと効果的だという。「外関」は、左手首の甲側のシワの中心からひじに向かって指3本幅(人差し指から薬指)の位置にある。

親指で「経渠」を人差し指で「外関」を押すと効果的

「お灸」も効果的。局所の血行をよくする温熱効果もある「お灸」は、自律神経が整うため、鍼灸院での施術や、火の取り扱いに注意しつつ市販のものでもケアできる。

ステップ1は緊張しやすい人や、ストレスを感じている人、疲労を感じている人など、パニック障害でなくてもリラックス効果を得られる。

ステップ1を2週間続けたら、次はステップ2のイメージトレーニング(1日2回)を加える。苦手な場所を頭の中でイメージするトレーニング。

苦手な場所を思い浮かべることで不安感が増してしまったら、「おもち呼吸法」やツボ刺激で心をリラックスさせていく。

「おもち呼吸法」「ツボ刺激」「イメージトレーニング」を継続して続け、徐々に改善されてきたら、ステップ3として、最後に苦手な場所に実際に行くという行動に移す。

実際に苦手な場所に行ってみてダメだったとしても、ネガティブな思考に陥らないこと。「おもち呼吸法」やツボ刺激など心を安定させながら、小さな成功体験を少しずつ積み重ねていく。

もし、身近な人がパニック障害になったら…

もし、自分の身近な人でパニック障害を発症したら、どのように接すればいいのか。

影森さんは、パニック障害を理解しつつ、いつも通りに接し、必要な時にフォローしてほしいという。無理に外に連れ出したり、「気合いだ」「根性が足りない」などと決めつけたり、焦らせたりしてはいけない。

パニック障害の人は「あの発作が起きたらどうしよう」と強い不安感を持っているため、日頃からエネルギーを消耗させている。そのため、家事などの負担を軽減させたり、移動する時は付き添ったり、代わりに行ったりするサポートしてほしいそう。

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うつ病の併発率も高いため、「よく眠れない」「食欲がなく食べられない」「気分が激しく落ち込む」「死んでしまいたい」などを訴えたら、精神科の受診を勧めてほしいという。

影森さんは最初に発症してから6年後にパニック障害から脱出した。この病気は「完治」と言いにくく、克服しても再発してしまうこともある。

「3歩進んで2歩下がるといった具合です。予期不安が強く残るため、それが払拭されればかなり良くなります。ただ、ストレスが加わったり、環境が変わることで再発することもあるので、うまく付き合ったり、自分の身体からのSOSに早く気づくようにしてください。再発させないためには規則正しい生活も重要です」

コロナ禍で身の回りの環境の変化も激しく、ついていくことも一苦労。自分のストレス耐性はなかなか把握しにくいのが現状だが、日々の生活でストレスをためずに少しずつでも発散したり、規則正しい生活を心掛けることが大切なのかもしれない。

「パニック障害 大丈夫!かならずよくなる」(河出書房新社)

影森佳代子
鎌倉ひまわり鍼灸院院長。ボストン大学教養学部心理学科卒業。同志社大学大学院修士課程修了。早稲田医療専門学校鍼灸科卒業。心理カウンセラーを経て、鍼灸師として独立。30代でパニック障害を発症し、心理学と東洋医学を統合した独自のメソッドで自ら克服した。