坂本大臣との面会での首相発言「いま80万回くらい。目標までいけそうだ」
記者:
「ワクチンについて、菅総理は6月中旬に100万回いけそうだっていうことはおっしゃいましたか」
坂本一億総活躍相:
「今80万回くらいまでなったと。目標までいけそうだというようなことを言っておりました」
6月4日、菅首相と昼食をとりながら面会した坂本大臣が明らかにした菅首相の発言が、永田町で物議を醸した。首相官邸のホームページの集計を見ても、その時点での1日あたりの接種回数実績は50~60万回で推移していたにも関わらず1日80万回という数字が飛び出したからだ。これを受けて、この菅首相と坂本大臣の“80万回発言”の真相を取材したが、「菅首相が勘違いしているのではないか」と語る政府関係者もいた。
それでも週明け6月7日の参院決算委で、菅首相はワクチン接種に関し、次のように明言した。
「総接種回数が毎日80万回前後増えており、1700万回を超えております」
やはり「80万回」と言及したのだ。しかし当日の首相官邸のHPにもそのような記載はなく、SNS上には、「どこを見れば80万回なのか」といった投稿も見受けられた。一体、どんなデータに基づいて、「80万回」と根拠を示したのだろうか。その真相を追跡した。
日々大幅に増加する過去の接種実績
首相官邸が毎日HP上で公表しているのは、「医療従事者等」と「高齢者等」それぞれのカテゴリでの、最新の集計日(基本的に前日)までに報告された接種回数の合計だ。ただし医療従事者と高齢者の接種記録システムが異なるため、若干集計方法が異なっている。
高齢者については、ワクチン接種記録システム・通称「VRS」を使っていて、土日祝日の接種もその接種日ごとに集計しているので、特定の曜日が極端に増えることはない。一方で、医療従事者はワクチン円滑化システム・通称「V-SYS」を使っているため、土日祝日の報告は、次の平日の報告の際に合計して集計しているので、月曜日の接種数(火曜日に公表)は多めになる。この時点ですでに「一日当たりの接種数」のカウントは曖昧になっている面があるのだ。
さらに、高齢者接種の実績については、接種日よりも後に報告された場合、遡って当該接種日の接種回数に計上される。つまり、最初に発表される「○月○日の1日の接種回数」は全容を表していない速報値であり、その後もカウントされる接種回数は増え続けているのだ。河野太郎規制改革相は会見で、「1週間後には大体1.5倍の数字に膨らんでいる」と説明する。つまり、首相官邸のページといくらにらめっこしていても、何日経過すれば正しい数字になるかは誰にも分からないのだ。では、どの数字が1日の実績に最も近いのだろうか。
「増分」に注目!菅首相の発言は「総接種回数が、日々○万回増加」
そこで政府関係者が強調し始めているのが官邸HPに表記されている「増分」、つまり「プラス○○回」という数字だ。これは、最新で公表した総接種回数と前回の公表での総接種回数の差を表している。1日の正確な接種回数は厳密には分からないため、それに変わる数字として、説明のつくものが「増分」だという認識だ。
この「最新で報告された総接種回数は前日までより○万回増えた」という表現を政府は使い始めていて、先日の国会での菅首相の「毎日80万回前後増えている」という発言もこのような考え方に基づいている。ただし「1日80万回接種できている」こととは似て非なるものなのだ。
例えば6月8日(火)午後の時点では、6月7日(月)時点でのワクチン総接種回数として、「医療従事者等8,494,017回(+239,337)、高齢者等9,854,167回(+854,167)」という数字が掲載されているが、このプラス何人という「増分」を足すと109万3504回となり、菅首相が目標として掲げていた「1日100万人」を超えているように見える。
ただ、これはあくまで数字が膨らむ火曜日(土日分をまとめた月曜の報告数が含まれる)ということで数字が増えている面があるのに加え、それ以前の接種の事後報告の数字が含まれている数字とみられる。そのため「1日100万回以上接種が行われた」ではなく、あくまで「前日までの公表数(報告数)より今日の公表数は100万回増えた」というのが正確だということになる。接種数ではなく公表数であるのがポイントだ。
加藤官房長官も、9日の記者会見で、公表した総接種数が前回より100万回以上増えたことを示しつつ、1日100万回接種は達成されたかとの質問に対しては明言を避けた。
実際、官邸HPに掲載されている8日午後時点での日別集計では、7日接種分は医療従事者等が23万9337回、高齢者等が43万0656回の合計66万9993回に留まり、100万回には及ばない。高齢者接種85万回増、合計109万回増という数字には、土日両日の高齢者接種分が「合計しての公表」としてカウントされている可能性が高いことがわかる。
もっとも、先述した事後の報告が大量に届けば7日接種分も最終的に100万回に到達する可能性も考えられる。いずれにせよ、メディアにとって、ワクチンの1日の接種回数について「○月○日に、○回接種された」と報道しづらい公表の形式になっていることは確かだ。となると、菅首相が目標に掲げた「1日100万回の接種」がいつの時点で明確に達成されたと言えるのかは、数日後にしかわからないこともあり得る。
ただ、これはそれほど悲観的に捉えることではないかもしれない。事後報告分があるにせよ、1日ではなく数日間の増分の平均を見れば、接種のペース自体は把握できるため、この「増分」のトレンドを見ていくことで、1日100万回に近づいているか、達成できているかは、概ねわかることになりそうだ。菅首相は6月9日に行われる党首討論で、この6月6日から7日にかけての増分をとりあげ「1日100万回接種」がほぼ現実のものになってきていることを強調するとみられる。数字の発表方法は別にして、接種数が確実に増えているならそれ自体、喜ばしいことと言えるだろう。
首相周辺「波にのってきた」目標達成に手応え
政府関係者は、先週末から今週にかけての接種実績の顕著な伸びに「やっと波に乗ってきた」と手応えを感じていて、1日100万回を達成するという目標が明確に達成できる日が近いとの見通しを示している。
目標を掲げた当初は、「総理の強い意向だ。唐突だった」と語った関係者も、今は、「道なき道を切り開くのが官房長官時代からの流儀だ」として、実現に向けた手応えを感じていて、“7月末までの高齢者の接種完了”目標の前倒しの可能性も示唆した。21日からはじまる職場や大学の接種で、さらにどれほど接種が加速するのか、引き続き注目だ。
(フジテレビ政治部 阿部桃子)