政府が3度目の緊急事態宣言を発令してから、約1カ月。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めはかからず、6月20日までの再延長が決まった。こうした状況の要因の一つとなっているのが「変異ウイルス(変異株)」の流行だ。

厚生労働省が公開している、変異株のスクリーニング検査の結果(速報値)によると、5月10日~16日では、全国の新規陽性者の84%が変異株に感染。都道府県別でも、北海道が89%、愛知県が83%、大阪府が86%、福岡県が93%にのぼる。

東京都は80%だが、過去のデータを見ると、4月12日~18日に39%、4月19日~25日は56%、4月26日~5月2日は64%、5月3日~9日に74%と上昇傾向で推移。ここ数週間で、ウイルスが従来株から変異株に置き換わっていることが分かる。

変異株は従来株よりも、感染力の強さなどが懸念されているが、なぜ感染力が強いのか?
そして、私たちはどう対処すればいいのだろう。感染症学を専門とする、国際医療福祉大学主任教授・松本哲哉氏に聞いた。
国内の変異株は「イギリス型」が主流に
ーー変異株は現時点でどのくらいの種類がある?
一部の遺伝子が変異していても変異株となり、相当な数になります。ただし重要なのは従来株と明らかに異なる特徴を有して広がっている変異株であり、現在はイギリス型、南アフリカ型、ブラジル型、インド型が重要なタイプだと思います。
これらは感染力が高い(人にうつりやすい)、病原性が高い(重症化しやすい)、免疫を逃れやすい(ワクチンの効果が下がる、再感染を起こしやすい)といった特徴があります。全ての変異株がこの特徴を有しているわけではありませんが、このような特徴を持つ変異株が国内で広がれば、従来株よりも深刻な状況を招くため、重要と考えられます。

ーー日本ではどの変異株が広まっている?
イギリス型が大半を占めるようになってきていると思います。大阪では9割近く、東京でも7割を超えている状況です。感染力は強く、重症化もしやすいと考えられます。イギリス型は日本に入国することの多かった欧州などから持ち込まれた可能性が高いため、他の変異株よりも早いタイミングで日本に入って広がったと考えられます。
ーー変異株と従来株で症状の出方に違いはある?
症状の出方は多少違うようですが、症状で見分けることは困難です。
表面構造の変化で細胞に入りやすくなる
ーー変異株はなぜ感染力などが高くなる?
ウイルスが体内で増殖する過程で、自分のコピーを作るのですが、その際にミスコピーが起きるのが変異の仕組みです。変異が起こっても何も性質が変わらない場合もあれば、ウイルス表面のスパイクタンパク部分の立体構造が変化することで、レセプター(細胞の受容体)との結合力が変わったりして、感染力が高まることもあります。
レセプターはウイルスの突起部分が結合する部位で、ウイルスは結合後に細胞内に入って増殖します。スパイク部分とレセプターは鍵と鍵穴のような関係ですので、スパイク部分の形状が合うように変化すれば結合する力が増して、ウイルスが細胞内に入りやすくなります。

ーー変異はどれくらいの頻度で起きる?
これまでの解析によると、2週間に1回程度の頻度で起こることが分かっています。
ーー変異株は全てが感染しやすいの?
変異株の全てで感染力が高まるわけではありません。感染力が高まった変異株が生き残り、幅をきかせて拡大させていくのです。
ーー検出しやすさに影響が出る可能性は?
以前、フランスのブルターニュ地方で、PCR検査をすり抜ける可能性のある、変異株が話題となりました。この変異株は、PCR検査の対象としている遺伝子配列の部分に変異が生じた可能性が高いと考えられます。ただその後、感染が広がっているという話は聞いておりません。
接種が進むワクチン…変異株の感染予防効果は?
ーーワクチンで変異株は感染予防できる?
変異株には免疫逃避、すなわち免疫を持っている人にも感染しやすい特徴を持っているものもあります。ワクチンが結合しにくく変化したウイルスが残っていくので、接種しても感染のリスクはゼロになるわけではなく、感染する例はあります。

ーー変異株と従来型に同時感染する可能性は?
同時感染する可能性はありますが、両者が混在してかなり流行がみられる状況下でなければ確率的にはかなり低いと思います。症状の違いについては、はっきりした報告は得られていませんが、重症化しやすい可能性はあります。
ーー私たちは変異株にどう対処すればいい?
感染力が高まっていることを踏まえて、より感染対策を徹底する必要があります。狭い空間で多くの人が居て会話が生じるような場はリスクが高くなります。換気を徹底し、なるべくしゃべらず、マスクは常時着用し、短時間ですませることが必要です。

変異株は、スパイクタンパク部分の立体構造が変化してレセプターとの結合力が増すことで、ウイルスが細胞内に入りやすくなる=感染力が高まるとのことだった。
厚生労働省は新型コロナワクチンについて、ファイザー社やモデルナ社のワクチンでは変異株にも作用する抗体がつくられたとしている。その一方で、ベトナムで、イギリス型とインド型の変異ウイルスが混ざった形の新たな変異ウイルスが見つかったと発表されたように、今後もウイルスの変異は続いていく。油断せずより一層の感染対策を心がけていくことが必要だろう。
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