大学教員の76%「授業に取り残される学生が生じている」

コロナ禍をきっかけに、大学で授業のオンライン化が進んでいる。

こうした中、大学教員の76%が「授業に取り残される学生が生じている」と感じていることが分かった。

調査は昨年12月から今年2月にかけて、東京大学大学経営・政策研究センターが実施。全国の国公立・私立大学の教員約7300人に「コロナ禍、コロナ禍後の大学教育」に関する質問を送り、2996人から回答を得た。(回答率は41.2%)

この調査の結果、昨年の秋学期(後期)に各教員が授業を実施した科目のうち、半数(50%)がオンライン(「双方向」31%、「配信」19%)、半数が「対面」だったという。

半数がオンライン(提供:東京大学大学経営・政策研究センター)
半数がオンライン(提供:東京大学大学経営・政策研究センター)
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講義別にみてみると、受講者が50人以上の講義のオンライン(遠隔授業)の比率は70%で、「ゼミ」は42%、「実験」は26%と続いた。

授業の形態別オンライン比率(提供:東京大学大学経営・政策研究センター)
授業の形態別オンライン比率(提供:東京大学大学経営・政策研究センター)

このように増えたオンライン授業だが、これまでの対面授業と比べて、学習の習熟度などに違いはあるのだろうか?

各教員に、学生の「授業前後の学習」について尋ねたところ、33%が対面授業と比べて「良くなった」、10%が「悪くなった」と回答。一方、「授業の達成目標の到達度」は「良くなった」は18%、「悪くなった」は21%。「授業中の集中度・反応」は「良くなった」が19%、「悪くなった」が29%という結果となった。

遠隔授業の効果(提供:東京大学大学経営・政策研究センター)
遠隔授業の効果(提供:東京大学大学経営・政策研究センター)

オンライン授業(遠隔授業)によってもたらされる問題については、「教員の差が大きくなると思う」が95%(「そう思う」60%、「ある程度そう思う」35%)。

また、「授業に取り残される学生が生じている」は76%(「そう思う」30%、「ある程度そう思う」46%)に上ったのだ。

遠隔授業によってもたらされる問題(提供:東京大学大学経営・政策研究センター)
遠隔授業によってもたらされる問題(提供:東京大学大学経営・政策研究センター)

「カメラオン」に応じた学生は1~2%

大学のコロナ禍の対応について、自由回答欄もあり、ここには872件の記入があった。たとえば、オンライン授業にメリットを感じている意見には以下のようなものがあった。

「コロナ禍のために遠隔授業をすることが多くなったが、教員も学生も遠隔でも授業が成立し、毎日大学に通うことに縛られる必要がなくなったことは新しい発見であった。対面の授業をそのまま遠隔に持ち込むのではなく、遠隔の特長を生かした教育がこれから開発されることを願っている」

「リモート授業の良い点のひとつは、対面授業なら教室の後方で消極的な受講をしている学生、空気を読んで質問をしないようになっていた者が質問をしてくるようになったり、学生一人一人と教師の心理的距離が物理的な制約を超えてeven(イーブン)になることであると思っています」

一方で否定的なものもあり、「本学ではZoomを用いて遠隔授業をやっていますが、95%以上の授業は『カメラオフ』で行われています。春にZoom使用がOKとなった時は、盛んに学生たちに『オン』にするように言いましたが、従ってくれる者は1~2%でした」という意見もあった。

また、「リモートでの試験方法は未だ問題が多く、ほとんどの教員は公平なリモート試験の実施に対応できていないことが課題」と今後の課題を指摘する声もあった。

今回の調査で明らかになったのが、大学教員の76%が「授業に取り残される学生が生じている」と感じているということだ。

では“オンライン授業を活かせる学生”と“活かせない学生”の差(違い)は何なのだろうか? また、コロナ禍の後も大学ではオンライン授業を活用した方がよいのか?

この調査の研究代表者で筑波大学・大学研究センターの特命教授、金子元久さんに話を聞いた。

コロナ禍後の大学教育(提供:東京大学大学経営・政策研究センター)
コロナ禍後の大学教育(提供:東京大学大学経営・政策研究センター)

「双方向的な要素を組み込んだ授業を開発することが重要」

――今回の調査結果をどのように受け止めている?

印象に残ったのは、大学の先生たちがコロナ禍での経験について非常に真摯に受け止めていることでした。この種の調査としては30パーセント以上の回答率は例外的に高かったですし、自由回答欄への記述も多かったです。

大学の先生たちが今回の経験をどのように受け止め、また活かすことができるかについて、熱意を込めて書いておられることが読み取れました。大学教育改革はこれまで、いわば上からの改革でしたが、コロナ禍を通じて、下からの改革の動きが出てきていると感じています。


――“オンライン授業を活かせる学生”と“活かせない学生”の差(違い)は何だと思う?

オンライン授業を活かせる、活かせない、は基本的には学習意欲の問題だと思います。ただ、そう言って片づけるわけにはいかないので、どのようにして不自由な環境の中で、学習意欲を掻き立てるかが当面の課題です。


――結局、真面目な学生は「対面」「オンライン」のどちらでもあまり変わらないということ?

学習意欲の高い学生はオンラインを利用した授業によって、これまでよりも、むしろ質の高い学習ができると思います。

例えば、他の大学、外国の大学の授業も、さらに受講可能となるでしょう。そうした環境を活かす、教育・指導も必要だと思います。

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――コロナ禍の後も大学ではオンライン授業を活用した方がよいと思う?

コロナ禍の後も、ICT(情報通信技術)を利用することは当然でしょう。一方的な遠隔授業(たとえば、ビデオ配信のみ)を続けるのは、望ましくないことは当然です。むしろ、双方向的な要素を組み込んだ授業を開発することが重要だと思います。


今回の調査によって明らかになった、コロナ禍における大学教育の現状。オンライン授業の導入によって分かったメリットと課題を踏まえ、コロナ禍の後にもオンライン授業が上手く活用されていくことを期待したい。

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プライムオンライン編集部
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