アメリカのバイデン大統領が、現地時間の21日、韓国の文大統領との共同記者会見で語った言葉によれば、バイデン政権の北朝鮮政策は「現実的で段階的な外交交渉によって(朝鮮半島の)緊張を緩和し、朝鮮半島の非核化という最終目標に向かって前進を図る」というものらしい。

“Our two nations also share a willingness to engage diplomatically with the DPRK, to take pragmatic steps that will reduce tensions as we move toward our ultimate goal of denuclearization of the Korean Peninsula.”

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この基本方針は既にワシントンポストなどが報じているのだが、バイデン政権のアジア政策に詳しいワシントンの情報通氏によれば、バイデン政権のアプローチは「ブッシュ(子)政権時代の六者協議を通じた段階的な外交的解決の模索」と似たようなものではないかという。別の言い方をすれば“六者協議の無い六者協議プロセスの再開”を目指すものと言えるのかもしれない。

日・米・韓・中・露・北が参加したかつての六者協議は発表文書でこそそれなりの成果があり、束の間の緊張緩和には役立った。だが、現実には北朝鮮の非核化を促進させることはできず、むしろ、彼らに核開発の時間的余裕を与える結果に終わった。

バイデン政権のアプローチがその轍を踏まないことを願うばかりだが、前出の事情通氏は早くも「先行きは楽観できない」「若干の緊張緩和と北の核開発の一部凍結をもたらすくらいがせいぜい」と見ている。

北の核開発に困っているのは西側であって中国ではない

バイデン大統領自身が会見でいみじくも認めた様に、北の核問題は、クリントン政権以来「過去4代の米政権がその目的を達成できなかった」極めて難しい問題なのである。

しかし、こうした外交努力が悉く失敗した原因はアメリカにあるのではない。その根本に、北朝鮮に約束を守る気が無く、中国に約束を守らせる気が無いという非情な現実が存在する。

六者協議進行中当時、中国外交部の複数の関係者は「中国は北の核問題に本気で取り組んでいるのか?」という筆者の問いかけに「北朝鮮はそう簡単に言うことを聞いてくれないのですよ」としばしば嘆息したものだ。

しかし、最大にして事実上唯一の支援国である中国が本気で締め上げていたならば北朝鮮の核開発は現在とはかなり異なる段階にあったであろうことは容易に想像がつく。開発を支える多くの物資や技術は中国領土・領海を経て北朝鮮に入っていたと言われているからでもある。

北の核開発に困っているのは西側であって中国ではないのである。

朝鮮戦争が再び勃発したり、北朝鮮が崩壊して大混乱に陥ったり、その結果、中国との国境にアメリカ軍と韓国軍が進出してくるのは中国も何としてでも避けたいようだが、現状のように北が日・米・韓だけを困らせている分には彼らに損は無い。

ならば北を軍事力で叩いてしまえという選択肢も無い。

1994年に危機がピークに達した際、時のクリントン政権は武力行使寸前までいったのだが、土壇場で回避に動いた。何故ならば、予想される犠牲者の数が一説には韓国だけで80万人と余りにも多かったからである。北の核・ミサイル開発が進んだ今ではなおさら考えられない。日本でも多大な被害が発生する恐れがある。

「北朝鮮の民主化より中国の民主化の方が先になると思います」

北朝鮮の体制変革(regime change)や行動変容(behavior change)を求めても期待はできない。それが現実である。

ならば、北朝鮮は核保有国という現実も認めて超長期的に対処すべしという意見もワシントンの一部にはある。だが、そうすると、極東アジア地域で核開発ドミノを誘発するリスクが高まる。現在のバイデン政権も含むアメリカの歴代政権が“完全な非核化”という看板を取り下げない理由の一つがここにある。中国も核開発ドミノは望まない。

また、トランプ流の直接交渉が上手く行かなかったのは記憶に新しい。結局、流れを変える鍵はやはり中国という堂々巡りに陥る。

しかし、今の習近平政権が非核化を目指して北朝鮮を本気で締め上げるとは到底思えない。目を転じても、米中関係は緊張増すばかりで、中国から表向きの協力を得られるかどうかさえ疑問符が付く。

「北朝鮮の民主化より中国の民主化の方が先になると思います」

こうした北の核開発を取り巻く現状を話し合っていた時の韓国の某シニア外交官の言葉である。その時の冷たく乾き切った声音を今でも思い出す。

まず先に中国が民主化し、次いで、北の体制変革か行動変容を本気で実現しようとしない限り、北朝鮮の問題は解決しないだろうという悲しい予測を彼はしていたのである。

これに「それではいつになったら解決するのか見当もつかないですね」と筆者が応じると「その通りです」と極めてストレートな発言が続いたのである。

特効薬は存在しない。

いつになるかは分からないが、平和的解決のチャンスが訪れるまで、対話を続け、衝突や暴発が起きないように状況をコントロールしていくしかない。

出口の見えない状況に憤る筆者に、日米の外交官達は事あるごとにこう強調していたように記憶する。

北朝鮮問題に関しては、結局、日米韓の連携を強化して隙を見せず、自衛力をしっかり整備しながら、忍耐強く対処するしかないのだろうと改めて思う次第である。

【執筆:フジテレビ 解説委員 二関吉朗】

二関吉郎
二関吉郎

生涯“一記者"がモットー
フジテレビ報道局解説委員。1989年ロンドン特派員としてベルリンの壁崩壊・湾岸戦争・ソビエト崩壊・中東和平合意等を取材。1999年ワシントン支局長として911テロ、アフガン戦争・イラク戦争に遭遇し取材にあたった。その後、フジテレビ報道局外信部長・社会部長などを歴任。東日本大震災では、取材部門を指揮した。 ヨーロッパ統括担当局長を経て現職。