日本一を目指して活動する障害者野球チームが、岡山県にある。
新型コロナウイルスの影響で相次ぐ大会の中止に加え、突然の仲間の死…。困難に立ち向かいながら野球に懸ける選手たちを追った。
新型コロナの影響で全国大会が中止に
「岡山桃太郎」槙原淳幹主将:
やるからには、日本一を目指したい
「岡山桃太郎」吉田健一郎選手:
春の大会は優勝を一度もしていないので、優勝目指し、みんなで頑張りたい
障害があっても野球を楽しみ、自分ができる精いっぱいのプレーをする障害者野球。
岡山県のチーム「岡山桃太郎」は、下は高校生から、上は81歳まで、約30人の選手が同じ白球を追いかけている。
全国37の障害者野球チームは毎年、春と秋に日本一を懸けて戦う。
秋の大会では、2度の全国制覇を成し遂げた「岡山桃太郎」。
今度は、春の大会での初優勝を狙っている。
しかし、新型コロナの影響で2020年の全国大会は中止に。
2年ぶりに開催される春の大会は、開催地の兵庫県に緊急事態宣言が発令され、チームは出場を棄権せざるを得なくなった。
初優勝は、また2022年に持ち越しだ。
「岡山桃太郎」薮下勝浩コーチ:
センバツが中止にならない限り、準備はしておかないと
世界大会でMVPも…野球に特別な思いを抱く手たち
選手の障害や事情はさまざまだが、みんな 野球に特別な思いを抱いている。
浅野僚也選手は、名門・倉敷商業高校で甲子園出場を経験した高校球児だった。2015年、交通事故で生死をさまよったが、障害者野球で第2の野球人生を歩んでいる。
「岡山桃太郎」浅野僚也選手:
昔は、ポジションがピッチャーだったので注目された。
(障害者野球に出会って?)
良かった。周りのことを考えられる人になれたかなと
吉田健一郎選手は、小学生の時にテレビで見た選手に憧れ、野球を始めた。
脳性まひのため、リハビリを続けながら練習に参加し、いま憧れの選手とプレーしている。
桃太郎のエース・早嶋健太選手は、障害者野球の世界大会でMVPにも選ばれた実力の持ち主。
小さな袋の付いたグローブは、左手でグローブを持てない早嶋さん専用だ。練習試合で交流した高校生のアイデアで完成し、2020年にプレゼントされた。
「岡山桃太郎」早嶋健太選手:
そのグローブを使って、もう1回、世界の舞台で戦いたい
公式戦でまだ一度も使っていないこのグローブで、勝利をつかもうと意気込んでいる。
御年78歳の副松正信さんは、37年前のチーム結成以来のメンバーで、総監督として選手を見守ってきた。
重い障害がある息子を介護するのが、副松さんの日常となっている。
「岡山桃太郎」副松正信総監督:
こっち向いて
長男・昌彦さん:
(金メダルもらった時はうれしい?)
うん
(お父さんに野球続けてほしい?)
うん
副松さんの願いは、長男の胸にもう一度金メダルをかけてあげることだ。
陰からチームを支えてきた代表が急逝
4月の練習日、チームの様子がいつもと違っていた。
「岡山桃太郎」樋口郁雄選手:
勇姿というか、遺影というか、杉野さんが見守ってくれるだろう
チームの代表を務めていた杉野正直さんが、突然病気で亡くなった。
「岡山桃太郎」栢野寿志マネージャー:
杉野さんにLINEしておいた。「(集合時間)8時半からだから、遅れないように来てよ」って。まだ生きてるかなと思って…。ひょっとして返事が来たら、どうするかな
杉野さんは、チーム立ち上げ当時のメンバーだった。まだ、「バリアフリー」という言葉も一般的ではなかった時代、障害者の居場所を作ってきた。
生前の杉野正直さん:
遊びというのではなく、できることを一生懸命やる
生前の杉野正直さん:
若い選手が入ってくれば、捕り方など先輩が伝えるべきだと思ってしている
一線を退いてからは、陰で選手たちを支えてきた。練習場所の確保や大会の申し込み、選手の飲み物や救急箱の用意、懇親会の準備まで、杉野さんがやってきた。
杉野さんは、もういない。
「岡山桃太郎」樋口郁雄選手:
してもらって当たり前のようだったが、(杉野さんが)抜けて、こんなことまでしてくれていたのかと…。あらためて杉野さんの偉大さを感じる
「岡山桃太郎」副松正信総監督:
(チームを)立ち上げた時から、ずっと一緒だった。(葬式で)ユニホームやら帽子やら(ひつぎの中に)全部入れてあった。それを見た時、泣いてしまって、ものも言えなかった
「岡山桃太郎」薮下勝浩コーチ:
杉野代表に黙とうをささげたいと思います。黙とう
大きな支えを喪失も…「みんなが大黒柱になって」
「岡山桃太郎」薮下勝浩コーチ:
クーラーボックスの用意できてません。各自、自分で必ず飲料水を用意してください。当然、救急箱もありません。ある程度のものは、自分で準備して持って行ってください
「岡山桃太郎」妻木和正選手:
とりあえず、自分のことは自分でやる。分からないことがあったら聞いてください
杉野さんが欠けたチームは、練習さえスムーズにいかなくなっていた。
「岡山桃太郎」早嶋健太選手:
チームが、ガタガタ。大黒柱が1本なくなった感じ。僕自身も甘いし、まだまだ。みんなが大黒柱になってくれたらいい
「岡山桃太郎」薮下勝浩コーチ:
チーム一丸となって、もう一度、新生桃太郎を作り直していかないと
優勝が狙えるチームに成長した「岡山桃太郎」は、若い選手たちを中心に、熱心に練習を重ねている。
しかし、その陰に見えない大きな支えがあったことに、選手たちは改めて気付かされた。
杉野さんは、仲間たちが本当の強さを身につけるために、最後の贈り物を届けてくれたのかもしれない。
「岡山桃太郎」浅野僚也選手:
杉野さんがいない分、みんなでカバーし合おうと、改めて思えるようなチームになれたらいいのかな
「岡山桃太郎」吉田健一郎選手:
僕ができることなら、チームのためにやっていこうと思う
「岡山桃太郎」早嶋健太選手:
亡くなったが、みんなの心の中に杉野さんがいるので…
新型コロナに仲間の死…。
困難を乗り越えて手にする日本一の知らせは、天国の仲間にも届くに違いない。
(岡山放送)