「軍事・経済・政治で圧倒的な力を持つ我々にとって今や警戒すべき競争相手は世界に見当たらない。」

“as the world's pre-eminent military, economic, and political power. No serious contender has emerged on the horizon.”

今や昔の話というと怒られるかもしれない。唯一のスーパーパワーとして世界に君臨していたアメリカの過剰とも言える自信を問わず語りに語ったこの言葉、21世紀に入ってそう間もない、2001年1月に当時のアメリカ上院外交委員会委員長の口から発せられたものである。わずか20年前のことである。

そして、この人物、さらに、次のようにも述べた。

「グロバライゼーションの時代においても、アメリカが世界の指導者であり続けることの重要性を国民の大半は理解しているように思える。」

“Most Americans appear to understand that in an age of globalization the United States must remain a world leader.”

アメリカは世界の指導者であり続けねばならぬという決意の表明であろう。

だが、自国の力に上記のような自信を現在も持ち続けている政治家はもうワシントンには居ないはずである。ただ、“決意”の方は依然揺るぎないようだ。

20年前の発言の主は・・・

今ではアメリカ合衆国第46代大統領となったこの発言の主は現地28日夜の施政方針演説を次のように切り出した。

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「今夜、私は我々が直面する危機と機会、国家の再建と民主主義再生、そして、将来のアメリカの勝利について話すためにここに来ました。」

“Tonight, I come to talk about crisis and opportunity, about rebuilding the nation, revitalizing our democracy, and winning the future for America.”

危機とは新型コロナによるパンデミックと、それによる経済の低迷と失業問題、加えて、地球温暖化、インフラの老朽化、国内の分断、格差拡大・差別・銃・教育・技術開発問題、難民問題、そして核拡散問題、中国の台頭などなど枚挙にいとまがない。

バイデン大統領は、こうした数々の難問に一つ一つ方策を示し「何もしないという選択はあり得ない」“doing nothing is not an option.”と述べ、行動を呼び掛けたのである。

中国への危機感を顕に

このうち中国問題に関しては、次のように述べた。様々な報道で既に引用されているが、改めて紹介したい。

「私は(副大統領時代に)習近平国家主席と1万7,000マイル(2万7,200キロ)も共に旅をし、計24時間以上も個別の議論をした。彼が私の大統領就任を祝って連絡してきた時には2時間も会話した。彼は中国が世界で最も重要で尊敬されるべき偉大な国になることに恐ろしい程真剣だった。彼とその他の専制主義者達は21世紀の民主主義は専制主義に対抗できないと考えている。民主主義はコンセンサスを得るのに手間と時間が掛かり過ぎるというのだ。」

〝I spent a lot of time with President Xi, traveled over 17,000 miles with him, spent over 24 hours in private discussions with him. When he called to congratulate, we had a two-hour discussion. He's deadly earnest on becoming the most significant, consequential nation in the world. He and others, autocrats, think that democracy can't compete in the 21st century with autocracies. It takes too long to get consensus.“

冒頭の20年前のバイデン氏自身の発言とは雲泥の差の認識を示し、危機感を顕にしたのである。

そして、中国の国有企業優遇問題、知的財産の保護問題などでアメリカの利益を守る決意を習主席に伝えたと明らかにした上で、こう続けた。

「衝突する為ではなく、それを未然に防ぐ為に、我々はインド・太平洋地域に強力な軍事プレゼンスを維持する、NATOと欧州と同様に、と習主席に伝えた。」

“I also told President Xi that we'll maintain a strong military presence in the Indo-Pacific, just as we do with NATO and Europe, not to start a conflict but to prevent one”

中国の軍事力に直面する同盟国としては頼もしい限りである。

大袈裟かもしれないが、だからこそ、バイデン大統領は、国内の経済再生や格差解消を果たし、国家の再生を目指すと演説で訴え、野党・共和党に協力を呼び掛けたのである。

民主主義と自由世界の勝利なるか

しかし、正直なところ、言うは易し行うは難しの面は否めない。

ブッシュ政権でホワイトハウス勤務などを経験した共和党反トランプ派の弁護士、ジョン・ガードナー氏は「非常にわかりやすい演説で大統領はここ数十年で最も野心的な数々のアジェンダを掲げた。特に中国とロシアに関する外交政策の部分は非常に力強く、中国に関する発言には与党・野党の双方から大きな拍手が送られていた。」と評価しつつも、「経済に関わる部分で議会の考えが大きく変わるとは思えない。共和党は税金と財政赤字については異を唱え続けるだろうが、大統領は税金を雇用のために使うことを主張し、共和党を守勢に立たせようとしている。インフラだけでなく、家族休暇、最低賃金、銃、移民など、彼が支持してきた多くの問題に議会が取り組まなかった場合、2022年の中間選挙で攻勢に出ようと準備していると見る。」と先行きを不透明と分析している。

その上で、ガードナー氏は「この演説で、大統領はアメリカと自由世界を再活性化させようとしていると思う」とその目標を喝破している。

これに成功すればバイデン大統領は、21世紀のアメリカと民主主義の中興の祖になる。だが、その実現の可能性は現時点では楽観できない。お定まりの党派対立が間違いなく足を引っ張るからである。競争相手も座視しない。

「軍事・経済・政治で圧倒的な力を持つ我々にとって今や警戒すべき競争相手は世界に見当たらない」という傲慢と油断にアメリカが再び陥ることがないよう願いつつ、筆者もバイデン氏が掲げる民主主義と自由世界の勝利を祈りたい。

【執筆:フジテレビ 解説委員 二関吉朗】

二関吉郎
二関吉郎

生涯“一記者"がモットー
フジテレビ報道局解説委員。1989年ロンドン特派員としてベルリンの壁崩壊・湾岸戦争・ソビエト崩壊・中東和平合意等を取材。1999年ワシントン支局長として911テロ、アフガン戦争・イラク戦争に遭遇し取材にあたった。その後、フジテレビ報道局外信部長・社会部長などを歴任。東日本大震災では、取材部門を指揮した。 ヨーロッパ統括担当局長を経て現職。