菅首相が新たに表明した「高齢者へのワクチン接種を7月末を念頭に完了する」という目標達成のため、自衛隊を動員しての大規模接種会場の開設や総務省の専門チームの立ち上げなど、国のワクチン接種体制は新局面を迎えた。菅首相の決断の背景と、目標実現のためのキーパーソンを取材した。

河野大臣は官邸の階段を2段飛ばしで奔走!

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ワクチン接種の総合調整を担当する河野大臣は、ここ数日頻繁に首相官邸を訪れ、時には、階段2段飛ばしで電話しながら官邸入りする場面も見受けられた。なぜ河野大臣が急いで対応にあたっていたかの答えが、菅総理の23日のこの発言だ。

「希望する高齢者に、7月末を念頭に各自治体が2回の接種を終えることができるよう、政府を挙げて取り組んでまいります」(23日、首相会見)

菅首相は、7月末までに希望する全ての高齢者がワクチンを2回打ち終えるという目標を新たに示し、打ち手を増やすため、これまで禁止されていた歯科医師による接種を認めること、接種会場への看護師派遣を認めることも明らかにした。実は河野大臣はこれまで接種完了の時期については、接種主体である全国の市町村から提出された計画がバラバラだったため、統一した目標を明示することを避けていたのだ。

自治体の接種計画の実態に菅氏が猛ハッパ 指示の背景は…?

しかし政府関係者への取材によると菅首相は、各自治体の高齢者接種の完了の予定時期について、全国の市区町村の3分の1が「8月以降」としている状況をみて、「なんとしてでも7月末までに高齢者の接種を終わらせたい」との意向を河野大臣らに伝え、実現するよう指示したのだ。

この強い意向を受け、河野大臣らは頻繁に菅総理のもとを訪れ、目標実現に向けた具体策を調整した。東京・大阪の大規模接種会場の開設や、総務省のワクチン支援本部の立ち上げの準備を整え、総理が新目標を発表するためのお膳立てを急いだのだ。

今回の菅総理の指示の背景にあるのは、変異株によって感染が再び拡大し、ワクチンへの期待がますます高まっているにも関わらず、4月の供給量が極めて限定的で一部の高齢者にしかワクチンが行き渡らず、接種完了が見通せなかったことへの危機感だ。ある政府関係者は「総理の強い決意の表れだ」「なんとしてでも政府をあげて自治体の接種に対し、おしりに火を付けていく」と決断の背景を明らかにした。

接種の加速化の鍵…総務省に新部隊

そして河野大臣が「接種のスピードアップをどうするか。自治体の必要なところを国としてどうバックアップするか」と述べたように、接種のスピードアップの鍵を握るのが、27日に立ち上がった総務省の「新型コロナワクチン接種地方支援本部」。この支援本部は、武田総務大臣をトップに、総務省の幹部職員で構成され、自治体の幹部職員との連絡体制を構築し、聞き取った課題を関係省庁へ共有するなどの業務にあたる。ワクチン接種に関する自治体との連携については、これまで厚労省に全都道府県から職員が応援派遣された「自治体サポートチーム」が担当し、自治体からの要望をヒアリングし各省と調整する役割を担っていた。ではなぜ今回、新たに総務省に新部隊を立ち上げるのか、河野大臣の右腕としてワクチン接種に関する自治体との調整役も担っている内閣府の藤井副大臣に話を聞いた。

「自治体サポートチーム」の働きが政府方針に一役

藤井副大臣:
全都道府県から47名、指定都市から5名、特別区から1名で53名、それから厚労省、経産省、農水省、警察庁、国交省、財務省、そして総務省から全員で75名超える「自治体サポートチーム」が2021年2月中旬に厚労省に設置された。それまでは、自治体からコロナワクチンに関する質問が3000通近くきていた。このサポートチームの編成によって、自治体への質疑応答や事務処理を計6000件対応してもらい、自治体向けのQ&Aを作成してもらうなど、現場の声を聞き取って頂き対応してもらった。例えば、制度なども自治体の思いで変えてもらったりもした。ワクチンの小分けができないかとか、隣町同士で融通したいとか、看護師派遣を認めて貰えないかとか。今回、政府がこれまで禁止されていた歯科医師の接種も認めることになったが、元々は、自治体の現場から「やってもらえないか」という声を頂いたのが発端だった。

「サポートチーム」に加え総務省の新部隊を立ち上げたワケ

いよいよ4月26日の週から1741市区町村全てにワクチンが少なくとも1箱届く。またゴールデンウィーク中には4000箱、5月10日からの週は1万6000箱、約1872万回分が各自治体に行き渡ることになる。高齢者接種が本格化するので、実施状況はどうか、何が困難になっているのか、ワクチンが進んでいない自治体はどこかなどの状況をきめ細かく確認することが必要になる。制度の確認などは厚労省の「自治体サポートチーム」にやっていただいて、総務省さんに期待しているのは、市役所、町役場、村役場をあげてワクチン接種に取り組んで頂くことを総務省から是非働きかけて頂くところに意味があるんだと思う。首長さんがこれまで以上に音頭をとるとか、総務部や財政、人事などの組織を作らないといけないので、ワンチームで自治体をあげてやっていただくと。国と地方が皆で一緒になって、「ワンチーム」で国民のためにやらねばならないときがきたのだと思う。

―――自治体の中には“7月末に終えるのは難しい”との声もある

藤井副大臣:
数百人の村から、数百万人の市まで千差万別ですから、置かれている状況が違う。そこは自治体のおかれている立場をちゃんと理解をして、何がネックになっているかを支援していくこと求められる。それは隣町の支援なのか、国が制度を変えないといけないのか、そういったところをきめ細かくお話を伺ってサポートしていくことが必要だ。全都道府県から応援派遣という形での「自治体サポートチーム」という体制も、今回の総務省の支援本部が動くのも初めてのことだ。これは国民の皆様の命を守るための初めての国家的な大事業ということになるので、国の縦割りを排して、国と地方が一緒になってワンチームとなって一体でやっていくのが大事なのだと思う。

“一種の賭け”菅首相・河野氏の正念場

菅総理の指示を受け総務省の支援本部が始動し、大規模接種会場の準備も急ピッチで進められる中、連休明けからはほぼ毎週1000万回分のワクチンが日本に届く予定で、接種も本格化する。菅首相が掲げた7月末までの目標について、政府関係者は、「市町村や医師会がついてきていないなかで、『7月中』と期限を区切るのは、一種の賭けだ」と語る。この賭けが成功するのか、裏目に出るのか。菅首相と河野大臣は正念場を迎えている。

(フジテレビ政治部 阿部桃子)