福島第一原子力発電所の処理水放出決定について、相変わらず韓国が騒がしい。ソウルの日本大使館前では自称学生団体による不法な座り込みが続き、数え切れないほどの自治体が日本政府を批難をしている。さらに韓国外務省はメキシコや中米諸国に「汚染水は隣接国だけでなく全世界の海洋生態系に回復不能の被害を及ぼす」などと言いつのる「告げ口外交」を展開。「放出計画は危険」との印象を振りまいている。

しかし、それに真っ向から反する報告書が、原子力を専攻する約5000人の専門家や学生らが参加している韓国原子力学会から発表された。

ソウルの日本大使館前の不法占拠は今も続いている
ソウルの日本大使館前の不法占拠は今も続いている
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「処理水の影響は無視できる」

韓国原子力学会は4月26日、「日本福島原子力発電所汚染処理水放流に対する原子力学会の立場」との報告書を公表した。韓国では政府もメディアも処理水を「汚染水」と呼ぶ中で、「汚染処理水」と表記している点が注目される。

学会は日本政府の放流計画について「保管されている汚染水を浄化せず、全量を1年間で海へ放流するという非常に保守的な仮定」で科学的に影響を評価したという。日本政府は放射性物質を基準値以下に浄化した後に20~30年かけて放流する計画だが、それらの計画が全く守られない、いわば「最悪のケース」を想定したというのだ。

その結果は「韓国海域に到達するまでの時間と、海水による希釈効果などにより、韓国国民が受ける放射線被曝線量は3.5×10-9mSv/年と予測された。これは一般人に対する被曝線量の限度である1mSv/年の約3億分の1で、無視出来る水準だ」というものだった。

IAEA(国際原子力機関)が監視する以上、こうした放出は行われ得ないわけだが、浄化もせずに一気に放出するという最悪のケースが起きたとしても、韓国への影響は「無視できる」レベルだという。その上で「科学的事実を冷遇したフェイクニュースと政治的な扇動が韓国国民と関連業界にどれ程大きな被害を与えたのかは、過去にあったBSE(牛海綿状脳症)と鳥インフルエンザ騒動の例を思い出せば簡単に分かる。当時、過度な恐怖で集団的パニック状態に陥った韓国国民が牛肉と家禽類の消費を極度に減らし、畜産農家と自営業者は深刻な苦痛を味わった」と指摘した。

国を挙げて処理水放出に反発する中、韓国の水産業には根拠の無い風評被害が広がりつつあり、その状況も痛烈に批判したのだ。

韓国原子力学会の報告書は「処理水の影響は微々たるもので影響は無視できる」と結論づけた
韓国原子力学会の報告書は「処理水の影響は微々たるもので影響は無視できる」と結論づけた

韓国の原子力安全委員会の専門家懇談会も、韓国政府の報告書の中で「海流により拡散・希薄化されるため、有意味な影響はないだろう」と同様の判断を示している。学会に所属する専門家による科学的な意見が明示されたわけだが、「これで一安心」とならないのが、韓国だ。

「日本政府の主張を受け入れるのは問題」

文在寅政権を擁護する革新系大手紙「ハンギョレ新聞」は4月27日、学会の報告書について「学会が汚染水を処理水と表現したのは、日本政府の主張をそのまま受け入れたもので、問題になると思われる」と報じた。科学的に見て海洋放出の影響は無いという検証結果が注目点であるのは誰が読んでも明白であるが、なぜか用語を取り上げ問題視している。その上で「学会は科学的事実を無視した政治的扇動と主張しているが、それを示す具体的根拠は提示しなかった」と学会を批判している。政権の応援団として「科学的根拠が無い」と言われた事が、よほど悔しかったようだ。

また韓国環境省の韓貞愛(ハン・ジョンエ)環境相に会見で「学会は影響を無視できると言っているが、環境省として日本の放出計画は危険だと考えているのか、影響は無いと考えているのか」と質問したところ、「トリチウムを除いた放射性物質の浄化処理は完璧にすると日本政府は言うけれど、実際の処理水の内容を見ればトリチウムだけでなく他の放射性物質もまともに処理されていない。今、日本政府は全てまともに処理される事を前提として語っているが、実際の内容はそうでないということが出ている。そのため、私たちをはじめとする周辺国家はみな不安に思うのは当然のことだ」との回答だった。「汚染水」ではなく「処理水」と言っているのは謎だが、学会が「処理を一切せずに一気に放出したとしても影響は無視できる」と言っている事を、環境相は理解していないようだ。

処理水の海洋放出決定から2週間が経過したが、どんなに「影響はない」との科学的検証結果が出ようと、韓国政府や韓国社会が聞く耳を持つ様子は見られない。

なぜか学会が日本に謝罪要求

今回の韓国原子力学会の報告書は、処理水放出を科学的な視点から検証した点で、日本にとっては有り難い事だ。しかし報告書をよく読むと、首を傾げざるを得ない記述があった。

「原発事故で最隣接国である韓国国民は放射能の恐怖にずっと苦しめられた。また韓国の水産業は壊滅的打撃を受けた(※事故当初に韓国水産業でも風評被害が起きたことを指すとみられる)。その余波は韓国政府のおかしな脱原子力発電政策に繋がり、韓国の原子力発電産業は世界最高水準の技術を備えていたにも関わらず将来を約束できない瀕死の状態に陥っている。このような状況で日本政府が汚染処理水放流を一方的に決めたことによって、また再び韓国国民を放射能の恐怖に陥らせた。韓国のほとんどのメディアも放射能の恐怖をそそのかす報道を吐き出している」。

韓国原子力学会は、この機会に自らの存在を揺るがしている、文在寅政権の「脱原発政策」を批判しようと、処理水放出を政治利用したように読める。そのため、報告書について報じる韓国メディアの記事には、「学会はこれが言いたかったのだ」「自らの利権のために国民の安全を売っている」などと批判が溢れ、検証結果への韓国国民の不信を強める事になった。

さらに学会は「福島汚染処理水放流によって周辺国国民が受けることになる心理的苦痛と物理的被害に対して深く謝罪し、周辺国を配慮する姿勢を持たなければならない」と日本政府に謝罪を要求した。自分たちが「影響は無視できる」と検証したのに、「物理的被害」が生じるというのは支離滅裂だが、とにかく日本は謝れというのだ。本来理性的であるはずの科学者が書いた報告書とは思えない。

しかし、例え支離滅裂でも「日本は悪い」「日本は謝罪しろ」という内容を入れないと、科学的な検証結果すら発表出来ないほど、韓国社会の「反日」は根深いということを示しているのかもしれない。

(関連記事:「影響なし」が突然「危険」に…原発処理水を反日政治利用した韓国にブーメラン

【執筆:FNNソウル支局長 渡邊康弘】

渡邊康弘
渡邊康弘

FNNプライムオンライン編集長
1977年山形県生まれ。東京大学法学部卒業後、2000年フジテレビ入社。「とくダネ!」ディレクター等を経て、2006年報道局社会部記者。 警視庁・厚労省・宮内庁・司法・国交省を担当し、2017年よりソウル支局長。2021年10月から経済部記者として経産省・内閣府・デスクを担当。2023年7月からFNNプライムオンライン編集長。肩肘張らずに日常のギモンに優しく答え、誰かと共有したくなるオモシロ情報も転がっている。そんなニュースサイトを目指します。