韓国の専門家TF「海洋放出に問題なし」

韓国の経済紙『ソウル経済』は4月14日、衝撃的なスクープ記事を掲載した。

「政府、昨年『福島汚染水は問題ない』結論を出していた」

というものだ。記事によると、韓国政府は処理水の海洋放出に備えて、関連部署を取りまとめたタスクフォース(TF)を作って対応策を検討していたが、2020年10月にTFは「海洋放出は科学的に問題がない」と結論付けた報告書を作成していたというのだ。

そこで問題の報告書を入手し内容を確認してみた。報告書には、韓国の原子力安全委員会が7回に渡り専門家懇談会を開き、科学的見地から処理水の海洋放出の安全性を検討した結果が記載されていた。まず汚染された地下水から放射性物質を取り除く多核種除去設備(ALPS)について「性能に問題は無い」と判断している。

その上で、ALPSでは除去できない放射性物質トリチウムについて「非常に弱いβ線を放出するもので、内部被爆のみあり得るが、生体に濃縮されにくいものであり、水産物の摂取などによる有意味な被爆の可能性は非常に低い」としている。さらに放射性物質が韓国に到達するリスクについては「海流により拡散・希薄化されるため、有意味な影響はないだろう」と判断した。ここから導かれる結論は、海洋放出は科学的に問題が無いということだ。

非公開の韓国政府TF報告書には、海洋放出は問題ないとの専門家の結論が記載されていた
この記事の画像(3枚)

原発事故の影響は確認されていない

日本政府が海洋放出を決めた処理水には、トリチウムが約860テラベクレル(テラ=1兆)含まれているとされている。一方、2011年3月に原発が爆発する事故が起きた際、大気や海中に放出された放射性物質は、経済産業省の原子力安全・保安院の推計では約77万テラベクレル、内閣府の原子力安全委員会の推計ではは約57万テラベクレルとなっている。(※両組織とも2012年に廃止され原子力規制委員会に移行されている)

原子力安全・保安院の推計を取るなら、処理水の放射性物質は事故時の0.11%であり、原子力安全委員会の推計なら0.15%だ。事故直後に比べると極めて微量である。さらに事故時にはセシウム137など人体に有害な物質が大量に放出されたが、処理水に含まれている放射性物質は毒性が低いトリチウムなので、処理水の方がはるかに安全と言える。そして、短期間で拡散された事故時と違い、数十年にわたって少しずつ希釈した処理水を海洋放出するというのが日本政府の計画だ。どちらが危険なのかは明白だろう。

そして爆発事故から10年以上が経過した今、韓国では人体に有害となるような放射線量の上昇は検知されたことがなく、健康被害の報告も無い。韓国近海の水産物も、問題無く消費されている。処理水よりも遙かに危険性が高かった爆発事故による直接的な放射性物質の拡散があっても、韓国に被害は確認されていない。従って、処理水の海洋放出で被害が発生するとは到底思えない。TFの報告書は、説得力があるように見える。

専門家の結論を黙殺した韓国政府

この報告書は、海洋放出による健康被害を心配する韓国国民にとって非常に重要なものだ。だが、韓国政府はこれを公開しなかった。それどころか、韓国の専門家が「問題無い」と結論づけた処理水の放出を「危険」と断言して日本を批判したのだ。

『ソウル経済』のスクープを受けて、韓国政府の国務調整室は「政府は日本の汚染水海洋放出決定に断固として反対し、国民の安全に危害を及ぼすいかなる措置も容認できない」とコメントした。その上で「一部専門家の意見が政府の立場になることはない」とTFの報告書を全否定したのだ。

自分たちが集めた専門家が「問題無い」と言っているのに、何をもって「危害を及ぼす」と断言するのか、根拠は一切示していない。私たちは日本政府が海洋放出を発表した4月14日、危険と断定した根拠を教えて欲しいと国務調整室に質問したが、2日経っても回答が無い。

『ソウル経済』の記事には1000件以上の怒りのコメントが殺到している。いくつか紹介すると
「大統領の抗議は反日扇動ショーだったのか」「支持率を上げる下心があったのか」「扇動、扇動、扇動」「水産業事業者の風評被害は考えもせず、支持率のために反日をしている。ここまで来れば人格を疑わざるを得ない」と辛辣だ。

専門家が検討を重ねた上で「影響が無い」との結論が出ているなら、本来日本と対立する必要はない。アメリカのように、IAEA・国際原子力機関の関与等を通じて海洋放出が適切に行われるよう求めるのが妥当な対応だろう。記事のコメントを読む限り、韓国政府の意図に気がついた韓国国民が増えてきているようだ。

だが、楽観は禁物だ。『ソウル経済』の記事には、この報告書を入手した野党議員のコメントが掲載されている。「政府の科学的な被害立証の失敗で汚染水放出も防げなかった。国民の不安心理だけが大きくなっている」というものだ。「科学的な被害立証の失敗」というのは一瞬意味が分からなかったが、よく考えると凄い発言だ。

日本は韓国に被害をもたらす悪であることを前提に、それを立証するのが「成功」であり、政府はそれに「失敗」したというのだ。海洋放出が科学的に安全かどうかは、重要では無いようだ。

告げ口外交の復活

韓国政府は処理水の海洋放出について「告げ口外交」を展開する方針だ

韓国外務省は4月14日「放流に対する直接的被害の恐れがある太平洋沿岸国を対象にした外交努力を強化する」との声明を発表した。IAEAやアメリカが海洋放出を支持し、反対しているのは韓国・中国・台湾のみという現状を何とかするために、味方の国を増やしたいようだ。朴槿恵前大統領が第三国に日本の悪口を言い回った、いわゆる「告げ口外交」を彷彿とさせる。

韓国政府が専門家の意見を受け入れて日本に穏当な対応を取るようになる可能性よりも、日本の悪辣さを立証するのに「成功」するまで、突き進む可能性の方が高そうだ。

なお4月13日に行われたシンガポールとの電話外相会談で、韓国の鄭義溶外相はいち早く海洋放出問題を提起したという。韓国外務省によると「深刻な憂慮を共有した」ということだが、シンガポール外務省のプレスリリースには、海洋放出について一文字も記載されていない。

(関連記事:「影響なし」が突然「危険」に…原発処理水を反日政治利用した韓国にブーメラン

【執筆:FNNソウル支局長 渡邊康弘】