仙台市在住の作家・瀬名秀明さんは、「パラサイト・イヴ」で日本ホラー小説大賞を受賞。薬学の博士号を持つ科学者でもあり、ウイルスやパンデミックに関する複数の書籍を共著されている。
多忙を極めるなか、瀬名さんが見るコロナ社会について、今回インタビューに応じていただいた。

危惧するのは、ウイルスよりも人々の「ストレス」

作家の瀬名秀明さん。瀬名さんはいま、母校の東北大学が立ち上げた特別プロジェクトに参加し、「コロナ禍」の社会でもより良く暮らせる解決策を探ろうと活動している。
1995年に「パラサイト・イヴ」で日本ホラー小説大賞を受賞し、作家デビューした瀬名さん。作品の中で未知の遺伝子がひき起こす社会の混乱を描いた瀬名さんでも、新型コロナウイルスによる世の中の激変には驚いているという。

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作家 瀬名秀明さん:
専門家の方もこうなるとは思っていなかったというのが、本当のところじゃないか。僕自身もそう感じていました

感染の拡大から1年以上が経過しても、いまだ社会への影響が続く新型コロナウイルス。
しかし、瀬名さんが危惧するのは、ウイルスよりもコロナ禍で暮らす人々の「ストレス」。

街の人:
東京のお友達に会いたくても連れていけない、旅行に行きたくてもいけない

街の人:
給食を食べている時、友達と話せなくて楽しくない

街の人:
僕だけは大丈夫、私は大丈夫ってやるから1年以上たってもおさまらない

SNSなどにおける攻撃的な態度や、行政への行き過ぎた批判、さらには市民が市民の行動を批判し取り締まる「自粛警察」といった言葉を生んだストレス。
瀬名さんは東北大学の研究者との対談で、分断する社会への懸念をこう訴えている。

『自分と家族さえ安全ならいい。感染したのは本人が悪い。自己愛が歪められて、自己責任論に繋がっているような気がします。これでは、みんなで防疫しましょうという公衆衛生は破綻してしまいます』

そして、自己責任論が強くなれば「ウィズ・コロナ」という言葉さえも危険をはらみだすと指摘する。

作家 瀬名秀明さん:
だんだん疲れてくると、コロナとかってどうでもいいやって感じになってくる。どうせ感染しないだろうから、飲みにいったっていいやとか。そういう気持ちになりがちです。つまり、コロナを無かったことにしちゃう。それが『ウィズ・コロナ』じゃないんだっていう事を考えておかないと

解決策の糸口になる「人々の心のあり方」とは?

では、コロナ禍のストレスにさらされて生きる私たちは、いったいどんな心構えで暮せばいいのか。瀬名さんが東北大学のプロジェクトに参加したのも、この問いに対する答えを探すためだった。

作家 瀬名秀明さん:
こう考えれば、世の中全体に普遍的な考え方が出来るのではないかというものを、何かつかめたらいいなと思って、今やっているところです

瀬名さんには、解決策の糸口の一つと考えていることがある。それは人々の心のあり方。

作家 瀬名秀明さん:
人間には、『オートモード』と『マニュアルモード』という心のあり方があるだろうと

例えば経済を優先する人と、感染防止を優先する人の2つの集団があると仮定する。同じ集団の中では人は安心できる、つまり、オートモードでいることができる。

しかし、人は別の集団と関わるとき、意識的に相手を理解しようとしなければトラブルになる危険性がある。

作家 瀬名秀明さん:
そういう時にはオートモードじゃなくて『マニュアル』の自分がちゃんと考えて、相手と議論して調整しないと結局、合意できないんですよね

いまの「生きづらさ」を乗り越えるには意識的に「マニュアルモード」にして違う立場の人に思いを寄せること。そのうえで時には、違う立場の人の気持ちを尊重し、自分の仲間に伝えていくことが大切だと瀬名さんは話す。

作家 瀬名秀明さん:
人間関係がその瞬間は悪くなるかもしれないが、トータルで考えれば、あの時はいい判断だったと、みんなで思ってもらえるようなことがマニュアルモードで言える環境を作っておく。それがニューノーマルの状況になって求められるようになってきたと感じています

作家として、科学者として、コロナ禍における社会のひずみに目を向ける瀬名さん。研究者との対談の中で瀬名さんは、私たちを励ますように、こんな言葉を寄せている。

『パンデミックに関してヒーローというものは存在しない。あえていうならヒーローは地道に現場で最善を尽くしているぼくたち一人ひとりであり、あるいはいま、隣でマスクをつけてくれている見知らぬ人なのだ』

(仙台放送)