「もしもアメリカが台湾問題に関わってこなければ、我々はとうにこの問題を解決し台湾を解放できただろう。…中略… 台湾が中国本土と統一されてもアメリカには何も害は無いはずだ。」

  “if the United States hadn't troubled itself with the question of Taiwan, we would have been able to resolve the question and liberate Taiwan at any time. 
  And therefore if the United States adopts a positive attitude on this question, it would be able to be resolved relatively easily.
  And following Taiwan's reunification with the Chinese motherland, it would not introduce any harm whatsoever to the United States.“

中国の長年の野望である台湾統一

これは今から20年近く前、2002年3月にワシントン・ポスト紙が報じたインタビュー記事の一節で、発言の主は当時の中国最高指導者・江沢民氏である。強硬な対外政策と香港やウイグル等で非人道的な締め付けを続ける現在の習近平主席ではない。

先々代の指導者である江沢民氏も、このように台湾統一への意欲を赤裸々に示し、台湾問題に対するアメリカの関与に公然と不満を示している。

そして、この発言における“台湾統一”は“平和的”な手段による統一を指していない。江沢民氏は同時に次のようにも述べている。

「論理的に見ると朝鮮戦争が起きなければ台湾問題はとうに解決されていただろう。朝鮮戦争が勃発した際、アメリカの第7艦隊が台湾海峡に入ってきた。それ故に問題解決は遅れた。我々は50年も浪費することになったのだ。」

  “In terms of logic, if there had not been the Korean War, the Taiwan question would have been resolved a long time ago.
  When the Korean War erupted, the 7th Fleet moved into the Taiwan Strait. 
  Therefore the question was delayed, and this delay cost us 50 years.”

アメリカが邪魔をしなければ、軍事力を行使してでも台湾を解放し統一するというのが中国政府の長年の野望であること、そして、その野望を21世紀に入っても維持していることはこれらの発言からも明白である。

半世紀ぶりに言及された台湾と“太平洋分割論”

「日米両国は、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す」と今回の日米首脳会談の共同声明がほぼ半世紀ぶりに台湾に言及したのは当然であろう。“平和的解決”が求められるのは自明である。

共同記者会見に臨む菅首相とバイデン大統領
共同記者会見に臨む菅首相とバイデン大統領
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ただ、狙われているのは台湾だけではなさそうなのである。

問題は、以下の“太平洋分割論”をどのように評価すべきかである。

「ある中国海軍高官と最初の訪問で議論をした際、彼は極めて真剣な顔で次のような取引を持ち掛けてきた。“我々が空母を開発するのに伴い”と興味深い発言を皮切りに“貴兄と私で合意できるのではないか?貴兄はハワイの東を抑える。我々はハワイの西を取る”と。」

  “While in discussions with a senior Chinese naval officer on our first visit, he with a straight face -- so apparently seriously -- proposed the following deal to me. 
 He said, ‘As we develop our aircraft carriers," an interesting note to begin with, "why don't we reach an agreement, you and I? 
 You take Hawaii east; we'll take Hawaii west.”

これは2008年に当時のアメリカのキーティング太平洋軍司令官がアメリカ議会での証言で暴露したもので、文中の“太平洋分割案”は中国海軍の少将が持ち掛けたとされる。

今や知る人ぞ知るエピソードである。

当時は絵空事と捉える向きが大半だったように記憶するが、実際には台湾統一の先の中国の野望を示唆していると見るべきである。

対中戦略は長期戦を覚悟すべし

習近平主席自身も、2017年11月9日、当時のトランプ大統領が中国を国賓として訪問した際の共同記者発表で「私がトランプ大統領に(直接)言ったように、中国とアメリカの両国を受け入れるのに太平洋は十分に広い。…中略… 米中共同で平和と安定、そして繁栄を向上させる必要がある。」と述べている。

  “As I said to the President, the Pacific Ocean is big enough to accommodate both China and the United States.
  The two sides need to step up communication and cooperation on Asia Pacific affairs, foster common friends, build constructive interactions, and jointly maintain and promote peace and stability and prosperity in the region.”(注;英文はホワイトハウス公式発表による)

この発言には当時の河野太郎外相が早速不快感を表明したが、日本側の反発は正しい。発言は日本も含む太平洋の西半分を自国の影響下にいずれ置くことを念頭にしていると見るべきだからである。

西太平洋における軍事バランスについては、アメリカのインド太平洋軍の現職のデービッドソン司令官が、2026年までに中国がアメリカを上回る可能性があると警鐘を鳴らすような状況にある。中国の軍拡は急速である。そして、軍事力による現状変更を中国が目指す可能性にもデービッドソン司令官は言及している。

中国はその目標を長期に渡って考え設定し、実現を図る国である。その意図と能力のいずれをも決して侮ってはいけない。当然、我々も長期戦を覚悟して備えなければならない。

酒席での座談ではあるが、この中国の脅威について、以前、筆者が長々と申し述べると、とある金融界の御仁が「脅威、脅威と言うが、例えば中国が3億人を日本に送り込んできて乗っ取るとでも思っているのですか?」(旨)と反駁されたことがある。筆者は直ちに「中国がチベットやモンゴル、ウイグルでやっていることを見てみるべきだ。そして、中国4000年の拡大の歴史を思い起こしてみるがよい。日本が手に入るのならば、1億や2億、場合によっては3億人を送り込むくらいの能力が中国にはあるのを忘れてはいけない。」と反論したことがある。

経済人にとって今や最大の貿易相手国となった中国との取引は必要不可欠で、そこから利益を上げるのは至上命題になっているのかもしれない。しかし、現世御利益にばかり囚われてはいけない。それこそ中国の掌で踊らされることになる。釈迦に説法になるが、サプライチェーンの安定と販売ターゲットの適切な設定も生き残りには必要不可欠のはずである。

どんなに利益を上げてスーパーリッチと呼ばれる存在になっても、安全と自由を奪われては元も子もない。アリババのジャック・マー氏を見ればよい。

“開放性及び民主主義の原則”

「日米両国は、開放性及び民主主義の原則にのっとり、持続可能でグリーンな世界の経済成長を主導する。」と首脳会談の日米競争力・強靱性(コア)パートナーシップは宣言している。この“開放性及び民主主義の原則”を経済人も忘れてはいけない。

“中国も豊かになれば変わるだろう”

“香港を窓口に自由と民主主義の風が中国本土に吹き込むだろう”

等という期待をかつて西側諸国の多くが抱いていた。しかし、それが幻想に過ぎなかったことは香港やウイグルが置かれている現在の状況や数々の対外強硬策を見れば明らかである。

ある外務省外交官も、オフレコと断りながら、こうした考え方に基づく対中融和政策は“失敗だった”と発言していたのを筆者は鮮明に記憶している。

国際公約だった一国二制度も中国政府のご都合であっと言う間に骨抜きにされた。

共同会見で、バイデン大統領は「我々は、中国からの挑戦、そして、東シナ海や南シナ海、北朝鮮などの問題に共に対処することを約束しました。自由でオープンなインド・太平洋を確かなものにするのです。」「我々は、21世紀においても民主主義国家が競争に勝ち抜くことができることを証明するために協同していきます。」とその決意を語った。

  “ We committed to working together to take on the challenges from China and on issues like the East China Sea, the South China Sea, as well as North Korea, to ensure a future of a free and open Indo-Pacific.” 
  “ We're going to work together to prove that democracies can still compete and win in the 21st century. “

この決意は戦争を始める為ではない。反対に、その危険を封じ込める為である。

江沢民氏の発言から容易に読み取れるように、勝算有りと思い違いをすれば中国は台湾に対して実力行使に出る恐れが強いからでもある。

こうした戦争の危険を封じ込める為の決意を、我が国においても、政界はもとより、官界・財界、更には全ての日本人が共有すべき時が来たのだろうと思うのである。

【フジテレビ 解説委員 二関吉郎】

二関吉郎
二関吉郎

生涯“一記者"がモットー
フジテレビ報道局解説委員。1989年ロンドン特派員としてベルリンの壁崩壊・湾岸戦争・ソビエト崩壊・中東和平合意等を取材。1999年ワシントン支局長として911テロ、アフガン戦争・イラク戦争に遭遇し取材にあたった。その後、フジテレビ報道局外信部長・社会部長などを歴任。東日本大震災では、取材部門を指揮した。 ヨーロッパ統括担当局長を経て現職。