菅首相は16日、米ワシントンでバイデン大統領との日米首脳会談に臨み、その後ゴールデンウィークには、コロナの感染状況を見極めた上で、インドとフィリピンへの訪問を予定している。この一連の外遊の最大のテーマが、影響力を強める中国への対応だ。

日米首脳会談の共同文書の内容に注目

今回の日米首脳会談は、バイデン大統領にとって就任後初めて対面で外国首脳と会談する機会となる。会談の最大の目的は、「両首脳で日米同盟の強化を確認すること」で、安全保障協力・経済協力・気候変動の各分野での連携を確認し、共同文書もとりまとめる方針だ。

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この共同文書には、中国の東シナ海への海洋進出を念頭に、アメリカの日本防衛義務を定めた日米安全保障条約の第5条が、沖縄県の尖閣諸島にも適用されることを明記すると見られる。さらに、中国への強い姿勢を示す上で大きく注目されるのが、今回の共同文書で「中国」を名指しするか、さらに「台湾海峡の安定」に関して明記するかどうかだ。

先日の日米の外務防衛閣僚会合では、中国が台湾への圧力を強めている状況や、香港やウイグルの情勢を踏まえ、共同声明に「中国による、既存の国際秩序と合致しない行動」と中国への懸念を名指しで盛り込み、「台湾海峡の平和と安定の重要性」や「香港及び新疆ウイグル自治区の人権状況について深刻な懸念」も明記された。これに中国は猛反発していて、特に中国が内政問題だと主張している台湾や香港、ウイグルに関する記述には極めて厳しい態度を示している。

そこで今回どう表現するかが注目なのだが、ある政府関係者「共同文書にまとめるかどうかは相手のあることなので明言出来ない。しかし、中国への深い懸念を共有するという姿勢で一致していると確認することが今回の首脳会談で最重要」だとしている。また別の関係者は「台湾の有事は迫っていて、台湾をとられたら次は尖閣だ、という危機意識がある。外交努力を続けて行くしかない」と危機感を示している。

インドとフィリピンを選んだ背景にも中国が

菅首相が、GWの外遊にインドとフィリピンの二カ国を選んだことについて、政府関係者はやはり「日本の中国に対する姿勢を明確に示す必要がある」と指摘している。インドは中国と国境をめぐって緊張関係が続いていて、フィリピンも南シナ海のスプラトリー諸島の領有権をめぐり中国と対立している。今回、中国と領土問題を抱える2つの国を、米国訪問の直後の外遊先に選んだ背景には、こうした国々と直接会談し、日本から支援や協力を申し出て連携を確認することで、中国を包囲する友好国の結束を強めたいという政府の意図があるようだ。

さらに政府は、インドとフィリピンを巻き込んで中国をけん制する多国間の戦略にも力を入れている。3月12日に、日本、アメリカ、オーストラリア、インドの4カ国による初のオンライン首脳会談が開催された。英語で「4」を表すクアッドと呼ばれるこの4カ国の枠組みは、中国の海洋進出を念頭に、安全保障上の連携をとっていこうという会議だ。今回の会談では、「中国」と名指しこそしなかったものの、自由で開かれたインド太平洋の実現のために連携するとして、年内にこの4カ国で対面での首脳会談を行うことでも一致した。

またフィリピンを巻き込んだ枠組みとして重要なのが、東南アジア諸国連合=ASEANだ。ASEANには、フィリピンのほか、2020年菅首相が訪問したベトナムやインドネシアなどが加盟しているが、各国は地理的にも中国と近い位置にあり中国との関係も濃淡がある。日本はこうした国々との連携を密にすることで、インド太平洋地域での外交の主導権を握りたい考えだ。

政府関係者が「ASEANとの関係をしっかり構築できていれば、アメリカから見て頼りになる日本でいられる。その逆として、アメリカと強固な関係にある日本はASEANから見ても魅力的に映る」と表現するように、菅首相がアメリカと同じくらいASEAN地域へのコミットを重要視している理由がここにある。それを裏付けるように菅首相は4月7日にはラオスと、4月9日にはタイと電話会談を行い、中国の海警法を含む東シナ海や南シナ海の動向についての深刻な懸念を伝えるなどASEAN各国との連携の確認を重ねている。

「日中関係には交渉の余地も」米中対立の中で日本の立ち位置は

このように一連の外遊に共通する「自由で開かれたインド太平洋の実現」という旗のもと、中国をけん制するという課題。ただ一方で政府関係者は「バイデン政権になって米中関係はバチバチしているが、日中関係にはまだ交渉の余地が残されている」とも語っている。

この駆け引きの難しい対中戦略こそ、世界的にコロナの感染が収まらない中にあっても菅総理が対面での首脳会談にこだわる背景といえそうだ。中国の台頭を背景としたこの外遊を通じて国際社会で存在感を発揮していけるのか、菅総理の手腕が試されている。