韓国大統領選挙(2022年3月)の前哨戦としても注目を集めてきたソウル、釜山という2大都市の市長選は、与党苦戦のまま4月7日の投票日を迎えた。文在寅(ムン・ジェイン)大統領にとっては負けられない選挙戦だったはずだが、与党・共に民主党は終始、苦戦を強いられ、政権運営に暗雲が立ち込めている。

与党惨敗の可能性……2敗なら文在寅離れ加速

2、3両日に実施された期日前投票では、2つの選挙区を合わせた投票率は20%を超えた。補欠選挙としては過去最高の数字となり、関心の高さを裏付けた。

そもそも与党にとっては逆風の中での選挙戦だった。

ソウルでは朴元淳(パク・ウォンスン)前ソウル市長が秘書にセクハラ疑惑を告発され自殺し、釜山でも呉巨敦(オ・ゴドン)前釜山市長が女性職員の体に触れたセクハラ問題で辞職した。両氏とも、共に民主党の所属だった。

そこに韓国土地住宅公社(LH)の土地不正投機問題が発覚し、国民の怒りに火を付けた。

文大統領が「国民に大きな心配をかけ、恐縮している」、与党の李洛淵(イ・ナギョン)前首相も「誠実に暮らしてきた多くの国民に深い絶望と大きな傷を抱かせた」と相次いで謝罪するという事態に見舞われた。

さらに、文大統領のお膝元の大統領府で不動産スキャンダルが直撃した。

大統領府の金尚租(キム・サンジョ)政策室長が、自身の保有するアパートの賃貸料を14%引き上げたことが判明したのだ。

金室長は2020年、賃借人保護を名目に契約時に支払う保証金の値上げ幅を5%に制限するなどした「賃貸借法」の制定を主導したが、賃貸価格の高騰を招くなど市民の反発や批判が広がった。

不動産政策の担当者本人が法律の施行前に駆け込み値上げを実施した形で、典型的な「ネロナムプル(自分がすればロマンス、他人がしたら不倫)」にあたる。文大統領は直ちに金室長を更迭したが“自分に甘く、他人には厳しい”という政権幹部の偽善的な行動は、国民の怒りをより一層かき立てた。

泥仕合のネガティブ選挙

両市長選は与野党両陣営がネガティブキャンペーンを繰り返し、泥仕合となった。特にソウル市長選は政策論争そっちのけのスキャンダル暴露合戦に終始した。

与党候補だった朴映宣(パク・ヨンソン)氏は、もとMBCテレビのニュースキャスターの出身。国会議員を4期、中小ベンチャー企業相も務めたベテラン政治家だ。

抜群の知名度を誇り、これまでに何度もソウル市長に立候補する動きを見せてきたが、最終候補に残れず出馬には至らなかった。

今回は朴元淳氏の不祥事を乗り越え、ソウルで初の女性市長になるうる候補として、与党唯一の「必勝カード」と期待された。

ソウル市長選与党候補 朴映宣氏
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一方、野党・国民の力の候補だった呉世勲(オ・セフン)氏は2006~11年にソウル市長を務めた人物。市長時代、学校給食無償化の是非を問う住民投票に打って出たが、賛同を得られず辞職に追い込まれた、という経験の持ち主だ。その後、政治的不遇が続き、今回も当初はダークホース扱いだったが、予想外に支持を広げ、野党統一候補の座を手にしていた。

ソウル市長選野党候補 呉世勲氏

選挙戦は当初、与党がやや優勢な局面もあったが、野党側が候補を一本化すると、与野党の支持は逆転、最新の調査(3月31日実施)では呉世勲50.5%、朴映宣28.2%と、20ポイント以上の大差が付いていた。

どうなる?“死に体”文在寅政権

韓国メディアは専門家の分析として、
●ソウル市長選与党候補と文大統領の支持率
●ソウル市長選野党候補の支持率と文大統領の不支持率
がほぼ一致していることから、ソウル市長選の世論調査と文大統領の支持率に連動性があると指摘した。個別の争点や候補者への評価以前に「文大統領への支持、不支持」が選挙戦全体を左右する要素となっていることを示す。

文大統領への支持、不支持が選挙戦全体を左右する要素となる

文政権はこれまで岩盤支持層に守られ、40%近い支持率を維持してきた。しかし不動産対策の失敗などでこの岩盤が崩れ始め、LHによる土地投機疑惑では20~30代の有権者の文在寅離れが加速した。韓国ギャラップの世論調査では、文大統領の支持率は3月中旬から4月初旬にかけ、37%→34%→32%と下落の一途を辿っている。

それでも与党側は、世論調査に回答しない「隠れ進歩(革新)層」が存在するとして、最後は数%の僅差での逆転劇があり得ると主張し、勝利の可能性に一縷の望みを託してきた。

不動産価格の高騰、新型コロナワクチン確保の失敗、検察改革をめぐる混乱、経済の低迷……、文政権の4年に対する韓国国民の評価は極めて厳しい。両市長選で敗北すれば、文大統領の求心力は急速に失われ、死に体化は免れない。

政権末期に与党が大統領にそっぽを向くのは、韓国政治にお決まりのコースだ。支持率が低下し、政治的にも孤立した大統領は、失政の責任を問われ、親族や周辺にスキャンダルが発覚するなどして更なる窮地に追いやられる。

「反日」「親中」シフト復活か

こうした際に、局面転換の手段として“手っ取り早く”使われてきたのが「反日」カードだった。大統領の任期末に突然、島根県の竹島に上陸し、天皇陛下に謝罪を要求した李明博氏の行動はその典型だ。

日本で菅義偉政権発足後、バイデン米政権への手前、日韓関係改善に意欲を見せてきた文大統領だが、再び「反日」に舵を切る可能性もゼロではない。

4月21日には元慰安婦らが日本政府を相手に損害賠償を求めた訴訟の判決がある。

日本政府は一貫して「主権免除」を主張し、裁判にも出席していない。2021年1月の別の慰安婦訴訟では日本政府の主権免除は認められず、慰安婦への賠償が命じられた。文大統領はこの判決に「正直、戸惑った」と述べ、2015年の日韓合意を元に日韓で協議を継続する意向を示した。

だが、21日にどのような判決が出るのかは予断を許さない。結果次第では日韓関係がさらにこじれる恐れもある。

一方、文政権は中国寄りの姿勢が際立つ。

安全保障ではアメリカに依存する韓国だが、経済面や対北朝鮮では中国の影響力を無視できない。中国も心得たもので、日米韓の連携にくさびを打ち込むべく、韓国の取り込みに余念がない。4月3日には中国福建省アモイで中韓外相会談が開催され、両国が朝鮮半島の非核化目標を共有することをアピールした。韓国外相の初外遊先が米国でなく中国になるのは異例だった。

米中板挟みの中で任期末を迎える文政権だが、「親中」「反日」シフトした場合、バイデン政権の猛反発を招く恐れがある。残り1年、その道のりは険しいものとならざるを得ない。

【執筆:フジテレビ 解説副委員長(兼国際取材部) 鴨下ひろみ】