なぜ海外メディアが日本の孤独・孤立政策に注目するのか

「日本に孤独・孤立を担当する大臣が置かれた」。このニュースが、海を越えて話題になっている。孤独・孤立政策を担当する坂本哲志一億総活躍大臣によると、政府に対策室が立ち上がってから1か月間に、アメリカ、中国、ロシア、インド、スペインの新聞社やテレビ局からインタビュー依頼が殺到しているという。

今回、ロシアの政府系新聞である「ロシア新聞」によるインタビュー現場を、日本のメディアが取材するというユニークな機会が実現した。そこでロシア人記者が日本の孤独・孤立政策に興味を持った理由と、その印象について話を聞いてみた。

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ロシア人記者が坂本大臣に聞いた「孤独・孤立対策」

「日本政府はこの孤独・孤立の問題と闘うために何をするのか知りたかった」と語るのはロシア新聞の在日支局長、レーニン・アレクサンドル氏だ。

WHOによると、実はロシアは人口10万人あたりの自殺率が世界5番目に高い17.9人で、日本の15.2人よりも多い(2016年)。新型コロナの感染対策として昨年ロックダウンも実施したロシアではそもそも自殺が国内で問題になっている。

レーニン氏は、坂本大臣へのインタビューで、まず孤独・孤立問題担当の閣僚として内閣で果たす責任について聞いた。これに対し坂本大臣は、ロシアの「人は一人で生きるのは心が寒い」ということわざに触れた上で、日本でもコロナ禍でうちに籠もる生活が続き自殺者数も増加に転じた中で、絶望感や孤独感を抱いている人に手を差し伸べ、つながりを持つ社会を作っていく責任を負っていることを強調した。

さらにレーニン氏は、コロナ禍で社会的距離が広がり人の往来が減少する中で、「国民が孤独を感じなくするように政府に何ができるのか」と尋ねた。坂本大臣は「いろんな形でつながりを作る」ことの必要性を強調し、孤独に悩む人を助けるNPOの活動支援、SNSの有効活用、きちんとした実態調査の3つに取り組む方針を説明した。

半径5メートルのコミュニケーション

その後も坂本大臣に対し対策や体制などについて質問しインタビューを終えたレーニン氏に、日本とロシアでの孤独の違いになどついて詳しく話を聞いてみた。

レーニン氏は「孤独の問題は全世界の問題でロシアにもあるが、日本よりは低いレベルだと思う」と語った。その理由について「日本は地域のコミュニケーションが海外に比べて少ない」と指摘した。レーニン氏によると、日本では同じマンションに住んでいても関係を持たない住人の割合が多いが、ロシアでは同じマンションの住人がSNSでつながり休日に集まってライブやバーベキューなどをして交流するなど、隣人はみんな友達で、孤独ではないという。その上で、レーニン氏は日本人が孤独を感じやすいのは「半径5メートルのコミュニケーション」が少ないからではないかと思うという。

またレーニン氏は日本人の特徴について、みんなとても暖かい人でフレンドリーだが最初は距離があると指摘し、「自分の考えを他の人に言わない」という傾向はロシア人と比べ全然違うと指摘した。そして個人の意見として「日本人は基本的に孤独な人だと思う」と語った。

近所・親せき付き合いが苦手な人もいる

確かに日本は若者の都市部への流出や、地域活動の担い手の高齢化が進んでいて、レーニン氏の指摘のようにロシアをはじめとする海外に比べて、近所付き合いが希薄化しているのかもしれない。

一方、坂本大臣は以前、「時代の変化で近所付き合いと孤独の考え方が変わってきた」としつつ、「昔はご近所付き合いや親せき付き合いが今よりも多かったが、それを苦手に感じる人もいたと思う」と指摘していた。

その点について考えれば、半径5メートルのコミュニケーションが濃いことが必ずしもいいというわけではなく、薄めの近所関係を自ら望み、選んでいる人は多いという面もあるだろう。そうした人の思いをよく考えずに、よかれと思ってコミュニケーションを強要し手を差し伸べるのはある意味「おせっかい」でもあり、それは時として人を傷つけるかもしれない。国や地域、時代によって人間関係の濃淡が異なる中、望まない孤独を防ぐ、良い意味での「おせっかい」がどうあるべきかも、文化や国民性に応じてそれぞれなのかもしれない。

珍しく映る日本の女性への支援策

また、日本でも課題となっている「女性活躍」や「女性の孤独・孤立」についてもレーニン氏に話を聞いてみた。レーニン氏は、ロシア新聞では女性も男性と同じくらい働いていており、実際にロシアの社会全体で見ても女性は自立した存在であり、社会的に孤立しにくいのではないかと語った。たしかにILOの2018年の調査によると、ロシアは女性管理職の比率が41%と世界平均の28%を大きく上回っている。

一方で日本政府は、孤独孤立問題の当事者となっている女性の非正規雇用者への支援や、ひとり親家庭に対する3度目の5万円給付、NPOへの財政支援を通じた生理用品の無料配布などの緊急支援策をスピーディーに打ち出している。ただこうした政策が必要なのも、日本に男女格差が根強く残っていることの裏返しとも言え、レーニン氏の目には珍しく映った部分もあったように感じた。

「“孤独”と声をあげられない」自尊心の壁 世界共通の課題

インタビューを終えて、「孤独」とは国によってとらえ方も、政府の考え方も異なることを感じた。坂本大臣も記者会見でこのインタビューの感想を聞かれ、「パートナーの有無にかかわらず幸せになることを教えるのが先ではないかと質問を受け、概念が異なると感じた」と明かした。

しかし、ある政府関係者は「自分で“孤独”と声をあげられない問題は世界共通だと感じた」と話す。政府内からも「人は自尊心がゆえに助けを求めることに抵抗がある」との指摘もある。つまりこの孤独・孤立の問題の性質上、単に手を差し伸べるベクトルの支援だけではうまくいかないという壁が立ちはだかっている。

こうした難しい要素をはらんだ孤独・孤立問題に政府が乗りだすということは、我が国に孤独や孤立を抱える人がそれだけ多くいる現実を認めることを意味する。ここに世界の国々は驚いているようだ。

レーニン氏は「コロナ時代はずっと数年間残るから問題も残る。日本政府が今この問題を解決しようとしていることはとてもいいと思います。数年後ではない今だからとてもいいと思います。この問題を解決すると期待しています。壁を認識し、素早い支援に結びつけることで世界に先駆けられるか、注目していきたいです」と語った。日本が海外に先んじて、孤独・孤立対策の成功事例を作りあげられるかどうか、国内外が注目している。

(フジテレビ政治部 池田百花)

池田百花
池田百花

元フジテレビ報道局政治部