40代以下の若年層、聴力が徐々に低下

日本人の40代以下の聴力が低下していることが、“世界初”のデータベースを解析することによって判明した。

データベースを構築したのは、国立病院機構東京医療センター聴覚障害研究室の和佐野浩一郎室長らの研究グループ。

同センター耳鼻咽喉科において、2000年から2020年までに行われた約7万件の聴力検査の結果から、年齢以外に耳の疾患の影響を受けていない対象(1万681人)を抽出。聴力閾値(各周波数において聞くことのできる最も小さな音の大きさ) の年代別の平均値を男女別に示したデータベースを構築した。

10代から90代まで幅広い年齢層を含む1万人を超えるデータベースはこれまでになく、加齢による影響を示した、世界最大規模かつ世界初のデータベースなのだという。

若年層の聴力低下の要因はイヤホン使用?

このデータベースの解析により、2000年から2020年の間に、40代以下の若年層の高音部(4000ヘルツ)の聴力が徐々に低下していることが示されたのだ。

どのくらい低下しているか年代別にみてみると、
10代男性:約18歳分、10代女性:約10歳分
20代男性:約14歳分、20代女性:約20歳分
30代男性:約6歳分、30代女性:約11歳分
40代男性:約7歳分、40代女性:約7歳分
特に20代女性に傾向が強く表れ、約20歳分“老化”していることがわかったという。

若年層の聴力の低下は、ポータブル音楽デバイスなどによる日常的な騒音曝露(大きな音を聞くこと)の影響によるものと考えられ、「イヤホンやヘッドホンなどにおける、過大音(大きすぎる音)に対する対策の必要性を示唆する結果であると考えられる」としている。

若年層で聴力が低下しているという(画像はイメージ)
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なお、この研究成果は3月24日(日本時間)、イギリスの医学誌「ランセット・リージョナル・ヘルス」の電子版に掲載された。

ここで気になるのが、今回の研究結果に「イヤホンやヘッドホンなどにおける、過大音に対する対策の必要性を示唆する」とだけ記されており、イヤホン(ヘッドホン)の使用と聴力低下の明確な因果関係は示されていないことだ。

実際、イヤホンの使用と聴力の低下に因果関係はあるのか? また、聴力が低下している40代以下の若年層が今からできる対策はあるのか?

国立病院機構東京医療センター聴覚障害研究室の和佐野浩一郎室長に話を聞いた。

音響によるダメージが最も起こりやすいのが4000ヘルツ

――「40代以下の若年層の4000ヘルツの聴力が徐々に悪化」について、4000ヘルツの音というのは、例えるとどんな音?

4000ヘルツの音自体は、鳥の鳴き声や電話のベルの音などの高い音になります。一方、どんな高さの音を聞くかに関わらず、音響によるダメージが最も起こりやすいのが4000ヘルツです。

これは内耳の中での共鳴などが関係するのではないかと言われていますが、はっきりしていません。音響によるダメージが蓄積すると、最初は4000ヘルツから聴力低下が起こり、徐々に他の周波数を落としていきます。

よって4000ヘルツの音が聞こえなくなったこと自体が問題というよりは、騒音曝露によるダメージが見え始めているため、このまま放っておいて騒音曝露を継続することで、将来的に難聴者が激増する可能性に、今回の研究で警鐘を鳴らしたいと考えています。

WHO(世界保健機構)も、10億人の若者が聴力低下リスクにさらされていることに警鐘を鳴らしておりますが、具体的にどれくらい悪くなっているというデータはこれまでになかったので、今後、この研究が取り上げてもらえる可能性が高いと思います。

40代以下で高音部の聴力が低下している(画像はイメージ)

イヤホンと聴力低下の因果関係は?

――イヤホンと聴力低下に因果関係はある?

イヤホンやヘッドホンから発生した音のパワーは外へ逃げることなく内耳に向かっていくため、騒音性難聴をきたしやすいと考えられています。上記でも引用しましたが、WHOも警鐘を鳴らしています。mp3プレーヤーやスマホの普及は2010年頃から一気に増えております。

今回の研究ではイヤホンやヘッドホンの使用量と聴力を直接、比較したわけではありませんので、確定的なことは言えません。ただ、中年以降では改善傾向がみられる4000ヘルツが、若年層で悪化傾向が見られています。

これは、ポータブルオーディオデバイスおよび、そこに接続されたイヤホンやヘッドホンが原因であることの間接的な証拠だと思います。
耳鼻科医として「4000ヘルツが悪化=騒音曝露の影響」というのは常識なので、騒音曝露であることは間違いないと考えられ、その他に説明のしようがないというところもあります。

イヤホン使用が聴力低下の要因の可能性も(画像はイメージ)

聴力低下の40代以下がこれからできる対策

――では聴力が低下している40代以下の若年層がこれからできる対策は?

騒音曝露によるダメージは蓄積していくものなので、大きな音を長時間、聞かないことが最も重要になります。

近年のスマホやmp3プレーヤーなどポータブルオーディオデバイスの爆発的な普及により、イヤホン・ヘッドホンを日常的に使っている人が若年者を中心に増えました。特に周囲がうるさい場合(電車の中など)では、周囲の音に負けないように音量を上げることが多いと思いますが、そのような大きな音響負荷は聴力へのダメージが特に強くなりますので、非常によくないと考えられます。

繰り返しになりますが、持続的に大きな音での音楽鑑賞を行うのは避けることが重要だと思います。

イヤホンやヘッドホンの出力制限が制度化されるということが理想ですが、なかなか難しいかもしれないので、現実的には我々が積極的に啓蒙活動を行うことにより、消費者の購買行動が出力制限付きの安全な音響機器を求める方向性に変化していくように導くことができるとよいなと考えています。


今回の研究で明らかになった、40代以下の聴力の低下。原因は、ポータブル音楽デバイスなどによる日常的な騒音曝露(大きな音を聞くこと)の影響と考えられている。

今はまだ聴力に問題がない人が多いかもしれないが、これから低下していく可能性もある。イヤホンとの確かな因果関係は示されていないものの、イヤホンやヘッドホンで音楽を聴くときには音量に気を付け、長時間大きな音を聞かないよう注意が必要だろう。
 

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