2021年、卒業シーズンにあわせたように、長崎県では例年より早く桜が満開となった。県内の観光地など桜の名所は数多くあるが、今回は知る人ぞ知る、小さな物語に彩られた隠れスポットを訪れた。

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春風に揺れる350本の桜 “町のため”地元住民が植樹

大村湾を望む長崎市長浦町の山間いの集落。
国道206号から入った手崎川沿いの数百メートル進んだ場所に、長く続く桜のトンネルがある。

長崎市長浦町 350本の桜のトンネル

春風に揺れているのは、約350本のソメイヨシノだ。
2003年頃から地元の「こすもす会」が植樹した。

こすもす会 濵田寿一会長(73):
人口減少もあるし、何か町を活性化する方法がないかなということで、花でみなさんに喜んでもらえればいいのかなと思った。最初は農家の反対なんかもね。「作物に(桜が)大きくなった時に邪魔をするんじゃないか」とかありましたが、今では喜んでいただいています。菜の花、それからコスモス、ずっと植えたり。桜もまだまだ、今からずっと植えていきたいと思っています

手崎川の下流では菜の花も見頃になり、空の青さとピンク、黄色のコントラストが訪れた人を魅了する。

桜のピンクと、菜の花の黄色が美しい

桜に見守られ“正射必中” 弓道場の隅に咲く3本の桜

長崎市松山町にある市営弓道場。的の向こうには、3本の桜の木がある。

平日の昼間は、主にシニアの人たちが稽古に励んでいて、時折、舞い散る花吹雪の中で矢を放つ。

市営弓道場に咲く3本の桜 長崎市松山町

2021年は異例の早さで開花した。
毎年、この時期は桜の下でお弁当を広げるのが楽しみという。

眞崎紀代子さん(80):
しっかり3本とも花が開いてくれて、本当に楽しい。みんな花見気分も味わいながらの練習になっていますけどね。練習は練習、息抜きは息抜きでね。弓を引いているときは修練なんです、みんな。自分たちの生活のメリハリということで、弓を引いてくださってると思います

島崎賢一さん(78):
みなさん見ながら練習しているんですけど、きれいだなと。桜が咲くぐらいにうまくできればいいかなと思うんですけど、なかなかできません。(桜が)自分を満開にさせてやっているというのが、ちょうど弓でいえば完全に引き絞ってというような感じに捉えたいですね。

ーー重なる部分が?

島崎賢一さん(78):
はい。とは思いますけど、なかなかそうはうまくいきません

夜、明かりのともった弓道場。
距離60メートルの遠的の脇で、夜桜が幻想的に浮かび上がる。

この時間は、学校や仕事帰りの高段者なども訪れ、まさに“正射必中”の空気感に包まれる。

大水害の被害から蘇った桜のように、命輝く射を…

実は、桜の木はかつて5本あった。
しかし1982年7月、約300人が犠牲となった長崎大水害で道場横の浦上川が氾濫し、建物も桜の木も被害を受けた。

駒場クラブ 眞崎孝之会長(82):
(長崎大水害で)全部、完全に倒れてしまって、根が完全に上がってしまってたんです。この桜を、市役所から「完全に切る、助からん」と言われたからね。そのかわり(当時の)うちの若い人たちがみんな一生懸命、紐で引っ張って、しっかり縛り付けて。毎日来て、引っ張ったり、緩めたり、緩んでるのをまた締め直して、足で踏んで(土を固めた)、そうしてくれたから助かってる。しかし、ここまで大きくなるとは思いませんでした。

蘇った桜のように、命輝く射を…。
大水害から約40年たった今も変わらず輝き続ける桜に思いを寄せながら、射場には乾いた弦音(つるね)が響いている。

(テレビ長崎)