東京五輪、海外観客断念は許容できる“最悪の想定”

3月20日、東京オリンピック・パラリンピックの開催に関して、組織委員会、東京都、政府の日本側3者と、IOC・IPCによる5者会談がオンラインで行われ、海外からの観客の受け入れを断念することが正式に決まった。新型コロナウイルスの世界的な感染状況や、新たに流行しつつある変異ウイルスの状況を考慮しての決断だったが、実はこの海外からの観客受け入れ断念は、政府にとって、水面下で模索してきた許容可能な“最悪の想定”と言えるものだった。

菅首相とIOCバッハ会長との会談 2020年11月16日・首相官邸
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去年11月、IOCのバッハ会長が来日して菅首相と会談し、大会に観客を入れる方針で一致した。その際にある政府関係者は「五輪は何がなんでもやると言う雰囲気が政府内の共通認識として生まれている」と指摘した上で、最悪の想定は「日本人の観客だけ入れての開催」であって「無観客開催は想定していない」と断言していた。そして、「最終的に日本人のみを観客として迎え入れることになっても、日本人の性質上、選手の国籍に関係なく応援してくれるという安心感もある」と語っていた。その政府としての最悪の想定が現実となったのが、今回の決定だと言える。

政府は、一般の海外客の受け入れは断念するが、スポンサーや選手関係者の入国については、どこまで認めるか今後詰めていく方針で、政府高官は「海外からの賓客も含めてある程度、人数を絞っていかないといけない」との認識を示している。

菅首相は自民党大会で「人類が新型コロナに打ち勝った証となる大会」を強調

翌21日、菅首相は自民党大会に出席し、コロナ対策に全力をあげる姿勢を強調した上で、東京大会について「25日には聖火リレーが福島からスタートする。夏には東京オリンピック・パラリンピック大会。震災から復興する姿を世界に示し、人類が新型コロナに打ち勝った証となる大会にしたい」と、開催への強い決意を強調した。

自民党大会で総裁として挨拶する菅首相 3月21日・都内

約1年前、安倍前首相はIOCのバッハ会長との電話会談で東京大会の1年延期を決めた際、「人類が新型コロナウイルス感染症に打ち勝った証として、完全な形での東京オリンピック・パラリンピックの開催」という言葉を残した。安倍前首相の後を継いだ菅首相は、その言葉を踏襲しつつも、「完全な形」という言葉はほどなくして消えた。大会中止を回避することを最優先に、「安全・安心な大会」の実現にすでにシフトしているのだ。

今回の海外客の受け入れ断念の早期決定についても、東京大会の確実な開催のために政府が手元のカードを一枚切った形だ。そして今後大会を無事開催し成功に導くための課題が、大会の観客数の上限、海外からの選手団の確実な派遣、そして水際対策だと言える。

組織委・都・政府・IOC・IPCの5者会談 3月20日

4月中に観客数の上限決定へ

政府は緊急事態宣言が解除された1都3県での大規模イベントの上限人数について、これまでの5000人から1万人に緩和した。そして4月19日からは、今後の感染状況によってもう一段緩和し「収容人数の50%以内」にすることを検討している。大規模会場については別途人数上限を設ける可能性もあるが、仮に50%を6万人収容の国立競技場にあてはめれば、3万人の観客の入場が可能となる。政府は4月中に東京大会での観客の上限を判断するとしており、東京などの大規模イベントの上限人数も参考に、感染リスクを踏まえながら決めていくことになる。

低迷する国民の五輪開催への期待感と機運

国立競技場の青山門付近に設置された1964年東京五輪の聖火台

こうした調整の結果、日本人観客が収容人員の半分入場できるとしても、国民が大会開催を歓迎しなければ大会の成功はおぼつかない。それだけに多くの政府関係者が「大会開催機運の醸成の必要性」を指摘している。しかしFNNが3月に実施した世論調査では、東京大会を予定通り開催出来ると思う人は27%にとどまり、中止もやむを得ないと考える人は53.8%と半数を超えた。

また、大会機運の醸成につながる聖火リレーは3月25日に福島県のJビレッジからスタートしたが、コロナの感染状況を考慮して出発式は無観客となり、菅首相も予算審議を理由に出席を見送った。複数の政府関係者からは機運醸成のためにも菅首相が出発式に出席した方がよいとの声が聞かれていたが、首相周辺には何が何でも出席しないといけないという動きはなく、安倍前首相が1年前に自身の出席にこだわり、延期となる直前まで調整を続けていたのとは対照的な経緯をたどった。

聖火リレースタートの当日朝、菅首相は首相官邸で取材に応じ「聖火リレーはオリンピック・パラリンピック大会が近づいてきていることを国民の皆さんに実感してもらえる機会。それぞれの地域において機運を高めていただきたい」と東京大会に向けての世論の盛り上がりに期待を込めた。

国会議員が各国大使館に選手団の派遣を“陳情” 

さらに、大会成功のためには世界中からトップアスリートが参加することが不可欠だが、海外でも大会への機運はいまひとつ盛り上がっていない。公益財団法人「新聞通信調査会」が米仏中韓タイ5カ国で行った世論調査でも、東京大会を「中止すべきだ」「延期すべきだ」との回答の合計が全ての国で7割を超えた。

こうした状況を踏まえ日本の国会議員も動き出している。橋本聖子組織委員会会長が先日まで所属し、丸川珠代五輪相もその一員である「参議院自民党」の若手議員らは19日、都内にあるスペイン大使館を訪問し、東京五輪・パラリンピックに選手団を派遣するよう求める手紙を届けた。

スペイン大使館

「私たちは貴国の選手の皆様、そして貴国を代表される方々が安心して日本にいらしていただき、そして開催をしていただける、また大変安全な環境のもとで、選手のみなさまが練習に励んで頂き、万全のパフォーマンスでもって、最高に活躍して頂けるように、しっかりとした準備をしていきたい(吉川ゆうみ参院議員 19日)」

スペイン大使館を訪問する自民党参院議員・19日

手紙は関口昌一参院会長と世耕弘成参院幹事長の連名で英語で書かれていて、議員たちはこれまでスペインのほかに、イギリスやフランスなどの大使館も訪れた。活動は現在も続いていて、約150か国の大使館を回ることを目標としている。このように国会議員たちも、直接各国の大使館に足を運んで海外からの協力を取り付けることによって、東京大会の開催に向けた機運を醸成したい考えだ。

「安心安全」の実現に向けたカギは水際対策 25日のサッカー日韓戦に注目

そして海外から選手団が入国するにあたって、国民の「安全安心」の確保のために重要になってくるのが徹底した水際対策だ。東京大会に参加する選手や関係者について政府は、その時点で感染が拡大している特定の国からの入国だけを拒否するという考えをとっていない。それだけに全世界どのような感染状況の国からでも、選手や関係者を安心して受け入れられる防疫体制の確立が急務となっている。

去年、政府は「アスリート用オリパラ準備トラック」と称し、オリパラに関連して入国する選手や関係者に対して、出国前72時間以内の陰性証明や入国時の検査、入国後複数回の検査を必要とする代わりに、入国後2週間の待機措置を免除し、その間の練習や試合への参加を許可する特例措置をまとめ、運用を始めた。しかし今年に入って緊急事態宣言の発令とともにこの特例措置の運用も停止し、宣言解除後も再開の見込みは立っていない。

そうした中で関係者が「五輪が成功するかどうかの前哨戦」と位置づけるのが、サッカー男子日本代表が3月25日に横浜で行う日韓国際親善試合だ。政府は現在、原則としてすべての外国人の入国を禁止しているが、その中でも「特段の事情」が認められる外国人については防疫措置を講じた上での入国を許可している。今回の日韓戦で入国する韓国人選手はこの「特段の事情」で入国を許可するケースとなり、入国後毎日、練習や試合の前に検査を受けることが課される。さらに滞在場所を限定して移動制限をかけ一般国民との接触をゼロにする「バブル方式」を徹底することを条件に、入国後の2週間待機を免除し練習と試合への参加を許可する。

今回は主催団体である日本サッカー協会とスポーツ庁が防疫措置の内容を協議した上で申請し、厚労省・出入国在留管理庁・外務省・内閣官房などで、申請内容が「特段の事情」を適用するレベルか、防疫措置は適切かなどを判断した上で許可が下りたという。

ある政府関係者はこのサッカー日韓戦の入国から帰国に至るまでの一連の流れについて「ここで成功すれば五輪の参考になる」と期待する一方、別の関係者は「入国した選手たちが万が一、夜の街にでも遊びにいってクラスターなどを起こしたら厚労省のメンツが丸つぶれ。そのため入国後の監視体制も一層強化している」と慎重に見守る姿勢を示している。

今後、4月3日からは車いすラグビー、4月10日からは水泳など、海外からの選手も招いた東京大会に向けてのテストイベントが続々と予定されている。政府は、こうした場で課題を洗い出しつつ、東京大会に向けての水際対策の具体化を進める。その中では変異ウイルスの流行を踏まえた追加の強化策の検討のほか、「アスリート用オリパラ準備トラック」の運用を一律に再開させるという形ではなく、個人競技か集団競技かの違いや、種目、大会ごとなどの特性に合った形で入国管理を運用していくことも視野に、今後具体的な調整を進めて行く方針だ。

7月23日の東京オリンピック開会式まで4カ月を切った。世界各国が自国の選手を安心して派遣するためには、国内でのこれ以上のコロナ感染拡大を防ぐことが重要である。それと同時に、国内外で大会への機運を醸成していくことや、安心安全な防疫体制を確立することが不可欠だ。様々な関係先の協力を取り付けて大会の開催と成功につなげられるか、政府はこれから正念場を迎えることになる。

(フジテレビ政治部 亀岡晃伸 高橋洵)