シリアで「アラブの春」と呼ばれる民主化運動をきっかけに始まった内戦は、2021年3月15日で10年を迎えた。死者は少なくとも40万人、国外に逃れた難民は600万人を超える。アサド政権や反体制派、それを支援する各国の利害が入り乱れ、いまだにその出口は見えていない。

シリア内戦では約40万人が死亡
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12000人の子どもが死傷

中でも深刻なのは子供たちへの被害だ。ユニセフ=国連児童基金が3月10日に発表した報告書によると、シリア内戦で2011年から2020年までの間に、
・約1万2000人の子どもが死傷
・幼い7歳の子どもを含め、5700人を超える子どもが戦闘に参加させられた
・50万人以上の5歳未満の子どもが発育阻害に陥っている、
という。

劣悪な環境で暮らすシリア難民の子どもたち

報告書はさらに、シリア国内の9割の子どもが人道支援を必要としているほか、心理的苦痛の兆候が見られる子どもが2020年に倍増したと警鐘を鳴らしている。こうしたことから、ユニセフはシリアの子どもたちを支援するため国際社会に14億ドル、日本円で1500億円あまりの資金拠出を要請した。

隣国トルコで広がる支援

筆者が住んでいるトルコはシリアと国境を接し、これまでおよそ370万人の難民を受け入れている。政府レベルでの人道支援はもちろんのこと、草の根レベルでの支援も数多い。そんな中、手足を失ったシリア難民に最新技術を用いて作った義足や義手を無償で提供しているトルコの支援団体を取材した。

イスタンブールにある難民支援NGO、「AID」

AID(Alliance of International Doctors)は、世界中の医療支援を必要とする人を支援するNGOで、2011年にイスタンブールで発足した。これまでも内戦によるPTSD(心的外傷後ストレス障害)に苦しむ難民の支援などを行ってきたが、内戦で手足を失った難民の義肢不足が深刻になってきた2016年、無償で義肢を提供するプロジェクトを新たに立ち上げた。プロジェクトの責任者で医師でもあるタタル氏に話を聞いた。

義肢支援プロジェクトを率いるタタル氏

ヤシャル・タタル医師(プロジェクト責任者):
「支援センターはトルコ国内に2カ所あるが、内戦が続くシリア国内にも2カ所オープンした。プロジェクト発足から5年間で1500人以上に義肢を提供してきた。成長にあわせて作り変えたりするため、数にすると3000個以上になる。義肢やリハビリの費用はもちろん、地方からやってくる人の旅費も全て無料で、資金はクウェートの人道支援団体から全額補助を受けている」

最新技術を使った義肢作り

注目すべきは、義肢の製法だ。従来の石こうで型取りする方法と合わせて、ここでは3Dプリンターを積極的に取り入れている。この最新技術を使った義肢作りはまだ世界でも広く普及してはいないものの、特にシリアなどの環境では非常に実用的だという。

3Dプリンターを用いて作られた義足の一部

ヤシャル・タタル医師:
「われわれは従来の石こうを用いた製法でも義肢作りを続けている。その技師も多い。しかし、石こうは重くて特に国外に持ち出すのは極めて困難だ。その点、3Dプリンターで作る義肢は早くてコストも削減できる。世界でもこれほど専門的に、そして多くの義肢を3Dプリンターを用いて作っているところはないと自負している」

戦地や難民キャンプでも、技師1人がPCと3Dスキャナーを持参すれば採寸可能であり、そのデータをもとに支援センターにある3Dプリンターで「ソケット」(体と接する部分)を短時間で作成することができるという。

子どもの成長にあわせて

この日、支援センターには2人の難民の子がやってきた。1人はアリ君(10)、内戦で爆弾が爆発し片足を失った。

爆弾で片足を失ったアリ君

アリ・エイユーブ君(10):
「義足はこれで3本目なんだ。義足をつけてからは何でもできるよ。階段を降りたりサッカーしたり、学校に行って授業にも参加した」

まだあどけなさが残るアリ君だが、リハビリでとても楽しそうにサッカーをする姿が印象的だった。もう1人のオスマン君(12)は両足がない。彼は内戦のさなかのアレッポの町を歩いていたところ、トラックにひかれた。

階段の上り下りを訓練するオスマン君

オスマン・ベルヴェ君(12):
「初めて義足をつけた時は少し難しかったけれど、今ではボールでも遊べるようになったよ。ただ、学校にはまだ行けない。エレベーターがないんだ。だから、階段の上り下りがちゃんとできるようにならないとだめなんだ」

政府や自治体にはバリアフリー対策を進めてもらいたいが、オスマン君は「学校へ行くこと」を目標に今、一生懸命リハビリに通っている。歩行練習を十分に行った後、実際の足に似た形の義足を作る予定だ。彼が1日も早く学校に行けるようになることを願ってやまない。

新しい義足をつけてサッカーをする2人

前出のタタル氏によると、3D技術を使えば非常に早く義肢を製作できるという。以前は若干壊れやすかったが、最新式の3Dプリンターでは非常に丈夫なものを作ることが可能だ。タタル氏は、こうした3D技術を利用した義肢作りが今後主流になっていくだろうと推測する。

終わりの見えないシリア内戦。今後も難民への支援活動を続けていくことは非常に大切だが、そもそもこうした被害者を1人でも減らしていくためには、まず紛争の当事者らが交渉のテーブルにつくことが求められている。簡単ではなく非常に時間のかかることかもしれないが、一番の犠牲者はシリアの子どもたちだという現実を、われわれは忘れてはならない。

【執筆:FNNイスタンブール支局長 清水康彦】