目と内臓以外が透明なイカが話題

目と内臓以外が透明な珍しいイカを撮影した動画がTwitterに投稿され、話題となっている。

投稿したのは、魚類収集家で高校生の饗場空璃さん(@Sorari90458326)。動画には、目と内臓、斑点のような体の模様だけが見え、それ以外は透明なイカが映し出されている。どんな形をしているのか境目がわかりづらい。

饗場さんによると、この神秘的なイカは「トウガタイカ」

先日、同行者が見つけて、撮影したと前置きしたうえで、「深海に生息する非常に珍しいイカで、なんと生き残るため目と内臓以外は透明にしたという最高に面白いイカになります」「生きている姿は非常に貴重ですので是非ご覧下さい」と紹介したのだ。

饗場さんは、これ以外にも、横から見た「トウガタイカ」の動画を「上から見るよりはイカに見えますよね」というコメント共に投稿。

また、両方の目が飛び出していることを確認できる「トウガタイカ」の画像も投稿している。多少、透明に見えるイカはいると思うが、ここまで透き通るイカは珍しいのではないだろうか。

トウガタイカ(饗場空璃さんのTwitter)
トウガタイカ(饗場空璃さんのTwitter)
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そんな、深海に生息するという珍しいイカを、どのような場所でどのような状況で見つけたのか? まずは動画を投稿した、饗場空璃さんに話を聞いた。

見つけた場所は駿河湾

――「トウガタイカ」を見つけた場所を教えて。

「トウガタイカ」は1月に駿河湾(静岡県)で出会いました。


――泳いでいる姿を見たときの印象は?

荒れた海から、あの透明なイカを採集した友人に脱帽しつつ、図鑑の中でしか見たことがない存在に非常に感銘を受けました。


――空璃さんが把握している「トウガタイカ」の生態は?

「トウガタイカ」は、日本各地の深海に生息している非常に珍しいイカです。

深海に生息しているため、浅瀬に現れることは少なく、あの動画のように生きた姿を捉えたものは非常に貴重な映像です。

また、透明な体が非常に脆(もろ)く、網などでは壊れてしまうので、柄杓(ひしゃく)ですくい、あのような美しい体を維持したまま撮影することができました。

透明な理由は「捕食者から姿を隠すため」

「トウガタイカ」を採集した時の状況は分かったが、生態などもやはり詳しく知りたい。なぜ、目と内臓、斑点のようなもの以外は透明なのか? 

イカなど無脊椎動物を研究し、『ふしぎがいっぱいの人気者! イカとタコの大研究』などの著書がある、東京海洋大学の土屋光太郎准教授に話を聞いた。


――この動画のイカは「トウガタイカ」?

動画だけでは判別できませんが、動画が国内のものであれば、分布から考えて、おそらくはトウガタイカだと思います。


――「トウガタイカ」はどんなイカ?

分類自体が混乱しているため、トウガタイカの正確な分布は把握されていません。世界の温帯・熱帯域の外洋域に広く分布するとされるイカで、最大胴長8センチくらいになります。

子どもは海表面近くに生息しますが、成長すると水深1000メートルくらいまで沈降(=沈み下がること)します。

食性(食べ方の習性)は正確には分かりませんが、小型の甲殻類を捕食するものと考えられます。


――動画を見ると、目と内臓、斑点のようなもの以外は透明。これは何のため?

透明になって、捕食者から姿を隠す(見えなくする)ためです。

トウガタイカ(饗場空璃さんのTwitter)
トウガタイカ(饗場空璃さんのTwitter)

斑点のようなものは色素砲

――斑点のようなものは何?

これは、体表の色素胞と呼ばれる細胞です。拡大・収縮させることで体色を変化させることができます。動画のイカはまだ子どものため、色素胞の数が少ないですね。


――動画をよく見ると、両目が体から飛び出している。これは何のため?

眼柄(がんぺい=目のついている柄状の部分)を長く可動できるようにすることで、広い視野を獲得して、捕食者に対する警戒を行っています。

眼柄があるのが子どもである根拠で、親の目は球形になり頭部に固着(=しっかりくっついている)しています。

泳いでいる姿を見るのが難しい理由

――泳いでいる姿を見るのが難しいのはなぜ?

本来の分布域が外洋であり、個体数もそんなに多いわけではないからです。この動画の「トウガタイカ」は、黒潮などによって沿岸に迷い込んだものと思われます。


――土屋さんは泳いでいる姿を見たことある?

「トウガタイカ」はたくさん見ていますが、水中ではありません。調査船の調査で、網で採ったものはいろいろと見ています。


――トウガタイカが話題になったことを、イカを研究されている土屋さんはどのように受け止めている?

「トウガタイカ」のように、なかなか生態を知ることができない外洋域のイカ類について、ダイビング技術、記録方法の発達が、珍奇な生物への関心の高まりとあわせて、より情報として集積してくることを研究者として期待したいです。


捕食者から姿を隠すために体が透明になっている「トウガタイカ」。イカの研究者も泳いでいる姿を見たことがないということで、Twitterに投稿された動画の貴重さを実感することができたのではないだろうか。

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プライムオンライン編集部
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