武漢市中心病院で何が起きていたのか

中国にある武漢市中心病院をご存知だろうか?
2019年の12月末に、この病院の患者から新型コロナウイルスが世界で初めて確認されたとされる、いわば“パンデミックの始まり”となった病院である。

この病院で何があったのか?なぜパンデミックは防げなかったのか?実は、武漢市中心病院の関係者には厳しい箝口令が敷かれており、感染爆発に至るまでに院内で何が起きていたのかはほとんど知られていない。

この武漢市中心病院で、最初に未知のウイルスに遭遇し、たったひとりで警鐘を鳴らし続けた女性医師がいる。救急科で主任を務める艾芬(アイ・フン)医師だ。

艾芬(アイ・フン)医師
艾芬(アイ・フン)医師
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今回、私たちが話を聞いたのはその艾芬医師と共に働いていた看護師の張莉さん(仮名)。

数カ月にわたる交渉の末、顔や氏名を絶対に公開しないならと言う条件のもと、「未知のウイルスとの遭遇」、そして「感染爆発に至るまでの信じがたい経緯」を明かしてくれた。

院内の状況を明かしてくれた看護師の張莉さん(仮名)
院内の状況を明かしてくれた看護師の張莉さん(仮名)

ある日突然、運ばれてきた「謎の肺炎患者」

張看護師が最初に未知のウイルスの噂を聞いたのは2019年の年末のことだという。ある日突然、運ばれてきた「謎の肺炎患者」について、彼女はこう振り返る。

「彼らの症状は風邪とあまり変わりませんでした。ただ、風邪は注射したり、炎症を抑えれば良くなります。しかし、その患者さんは全く回復しないんです。しかも、進行が異様に早いんです。率直な感想は理解できない病気だということでした。」

そして、2019年12月30日、艾芬医師は診ていた患者から未知のウイルスが検出されたことを知り、同僚医師らにその事実を伝えたのだ。当時の状況を看護師はこう振り返る。

「2019年12月31日のことでした。同僚にこの病院からSARSの患者が出たという話を聞いたんです。本当に怖かったです。未知の病気でしたのですぐに対策をしようという事になりました。」

この武漢市中心病院で見つかったSARSウイルスこそが、後に私たちの知る新型コロナウイルスだったのだ。この情報をSNSで世界に発信し、のちに自らも感染し、命を落とした李文亮(リ・ブンリョウ)医師もまた、艾芬医師から検査結果を聞いたひとりである。

病院上層部から驚くような指示が…

しかし、12月31日、武漢市は未知のウイルスによるヒトヒト感染を否定。同時に、病院上層部から張看護師に驚くような指示があったという。

「家族にSARSの事を言わないように。伝えるにしても例えばSARSなどの敏感な単語は使わず、インフルエンザが流行っている。そう伝えなさいと指導を受けたんです。」

病院からの隠ぺいの指示である。未知のウイルスを初めて検出し、その脅威を病院内で訴えた艾芬医師もまた、信じがたい隠ぺいの指示をされている。病院内で中国共産党の方針を守っているか監視する部門である「監察課」に呼び出され、「デマを流した責任をとりなさい。あなたが情報を流した病院関係者200人に直接会って、“私はデマを流しました”と謝罪すべきです。」と強い叱責を受けたのだ。

武漢市中心病院
武漢市中心病院

そうして病院が情報を隠している間に感染は拡大。張看護師も急増していく患者に戸惑っていたという。武漢市と病院がヒトヒト感染を認めないなか、2020年1月11日には、武漢市中心病院の医療関係者が次々と感染していく。張看護師の周りでも感染者が出たという。

「CTを撮った同僚から“私も感染したかも”って青ざめた顔で告白された事もありました。政府はヒトからヒトへの感染は無いって言っていましたけれど、よく考えればインフルエンザでさえうつりますからね。このウイルスだってヒトからヒトへ感染しないなんて言いきれないですよね。あの頃は自分が感染したらどうしようって、本当に怖かったんです。」

混雑している武漢市の病院内
混雑している武漢市の病院内

医療崩壊が起き始めたこの時点でも、驚くべきことに病院はヒトヒト感染の可能性を認めなかった。1月16日、武漢市中心病院の幹部会議に出席した艾芬医師は、病院内での感染対策を進めるべきだと訴えるも、ふたたび上層部から次のような叱責を受けている。「あなたたちにはきちんとした医療常識が必要である。ベテランの医師はこのようなことでパニックを起こしてはならない。ヒトヒト感染などなく、この肺炎は防げるし、治せるし、コントロールもできているのだから」と。

中国政府がようやくヒトヒト感染を認めたのは1月20日。その数日後、張看護師が病院で見たのはとんでもない光景だった。

「救急科の前に数百メートルの列ができていたんです。心が折れそうになりました。患者が多すぎるんです。」

武漢市中心病院の入り口では「撮っちゃ駄目だ」
武漢市中心病院の入り口では「撮っちゃ駄目だ」

その後、世界に拡大した新型コロナウイルス。張看護師は後悔の思いをこう語る。
「あの頃、うちの病院で口封じなどをせず、きちんと外に情報を提供して、みんなで防護意識を高めていればこんな事にはならなかったと私は思います。」

 

3月20日(土)夜9時から放送の『報道スクープSP 激動!世紀の大事件8』(フジテレビ系列)では、この看護師の初証言インタビューと、艾芬医師の手記に基づき、世界で初めての感染爆発が起きるまでの信じがたい経緯の一部始終をお伝えする。

FNN
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