1瓶で7回調製できる注射器をテルモが開発

大手医療機器メーカーのテルモが、新型コロナウイルスのワクチン接種で、新たに1瓶で7回調製できる特殊な注射器の生産を始める。

ワクチン接種は、現在、医療従事者等への接種が行われており、高齢者への接種は、一部の市町村では4月12日に開始される見込み。

医療従事者等のワクチン接種では、通常は1瓶で5回分であるのに対し、6回接種できる特殊な注射器が使われている。しかし、高齢者の優先接種では、この特殊な注射器については、十分な数を確保できておらず、ワクチン接種担当の河野規制改革相は、「5回接種の針と注射器でスタートすることになる」と話している。
 

(参考記事:1瓶で1回分多くワクチン接種…増産体制の“特殊な注射器”が今まで普及しなかった理由を聞いた

そうした状況の中、大手医療機器メーカーのテルモは、新たに1瓶で7回調製できる特殊な注射器の生産を始めるのだ。

この注射器は、皮下注射に使っていた注射器の針を3mm伸ばして16mmにしたもので、厚生労働省は、3月5日にその注射器の製造・販売を承認した。

下が7回分調製できる注射器。上が従来の皮下注射用の注射器。(画像提供:テルモ)
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そもそも、ワクチン接種に使われているアメリカ・ファイザー社のワクチンは、1つの瓶に0.45ml入っている。ここに生理食塩水1.8mlを足して希釈するため、0.45+1.8=2.25ml。1回の接種で1人に投与するワクチンは0.3mlのため、2.25÷0.3=7.5、つまり7回分+0.5回分(0.15ml)取れる計算となる。

しかし、通常の注射器を使うと、0.3mlより余分に吸い上げ、薬液の一部が注射器内や針に残ってしまうため、実際は5回しか取れない。また、特殊な注射器を使っても6回分しかとれなかった。

それが、この注射器を使うと7回分調製することができるというのだ。一体、なぜテルモの注射器では、7回分とれるのか? 担当者に、その仕組みを詳しく話を聞いてみた。

ワクチンを無駄にしないことを考慮

――開発のきっかけは?

半年前より、コロナウイルス用シリンジ(※注射器の筒部分)には筋肉に到達しやすい針長(※針の長さ)が必要と考え、専門家の先生との意見交換を開始し、また、筋肉注射の適切な刺入深度(※針を刺した時の深さ)に関する文献を参考に開発に着手しました。ワクチンの無駄のない効率投与、今回新型コロナワクチンの投与経路を考慮し仕様設定しました。


――政府からの要請はあった?

デッドボリューム(※注射器内部に残っている液体の量)の少ない注射針・シリンジを供給してほしいという要請が各社にありました。当社は元々、針長16mm品の開発を進めていたので、これによりさらに開発速度を加速させました。
 

1回の吸引で余分にとれる量は0.002ml

――この注射器で、なぜ7回分が調製できる?

針をシリンジに直付けすることにより針部、シリンジ内部のデッドボリュームを極めて小さくすることができます。1本あたりのデッドボリュームが小さければ、それだけとれる本数が多くなるからです。

ファイザー製ワクチンが使用される想定においては、理論上7本接種が可能であり、社内試験でもその確認を行っております。


――この注射器の場合、余分にとれる量はどれくらい?

当社調べとなりますが、以下の数値をご提供できます。それぞれワクチン1回当たり0.3ml吸うときの無駄な量は、FNシリンジ(弊社開発品)0.002ml、通常のローデッドボリュームシリンジ0.03ml、通常のシリンジ0.065ml。(弊社測定結果)

※通常のローデッドボリュームシリンジ…6回接種可能な特殊な注射器

ファイザーワクチンの量は1バイアル当たり2.25mlで、それぞれのデバイスで7回とろうとするとFNシリンジ(弊社開発品)は 0.302ml×7回=2.114ml。

通常のローデッドボリュームシリンジは、0.33ml×7回=2.31ml。通常のシリンジが0.365ml×7回=2.555ml。したがって当社測定では、7回吸って2.25mlを下回るのはFNシリンジのみとなっております。

※7回分調製できる注射器(画像提供:テルモ)

設備導入含め開発を加速

――開発する上で苦労した点は?

ワクチン接種の開始時期にできるだけ間に合わせるべく設備導入含め開発を加速したことと、筋肉注射をなるべくしやすい仕様を見い出すことです。


――先日、京都の宇治徳洲会病院がインスリン用注射を使うことで接種回数を7回に増やすことができたと発表した。この件と関係はある?

宇治徳洲会病院様が発表した案件と当社は全く関係ありません。テルモはインスリン注射器をワクチン投与に使用するという考えはありません。
 

貴重なワクチンを無駄なく早期に医療現場へ

――生産はいつから行われる?

2021年3月末より、山梨県の甲府工場にて生産を開始する予定です。


――いつ頃から、この注射器が使われるようになりそう?

テルモとしては2021年4月以降に出荷可能になります。


――国家プロジェクトに関わることについて、どう考えている?

貴重なワクチンを無駄なく利用頂ける当シリンジを早期に医療現場にお届けすることが肝要と考えております。

 

厚生労働省によると、ワクチンは12日までに約23万回接種され、22万7,000人が1回目の接種を、3,000人が2回目の接種をしている。
4月には高齢者への接種が始まる予定だが、こういった注射器を活用することで、ワクチンを無駄にせず、少しでも多くの人が早く接種できることが望まれる。
 

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