長期金利上昇で揺れ動く市場

世界の金融市場で動揺が続いている。 

混乱の発端は、「経済の体温計」とされる長期金利がアメリカで急上昇したことだ。

指標となる10年物国債の利回りは、2月25日、およそ1年ぶりの水準となる1.61%にまで上がった。これが引き金となって、株価は急落、ダウ平均が500ドル以上値下がりし、26日の日経平均も1200円を超える下落幅となった。

2月26日の日経平均株価は1200円を超える下落幅となった
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金融市場では警戒感が広がり、株式と債券は不安定な値動きを続けている。

長期金利が跳ね上がるまでのマーケットは、感染拡大という非常事態のもとで、業績期待による株価上昇と、債券市場での利回り低下が続き、「株高」と「低金利」が併存する状況が継続していた。

一般的に、景気がいい状態が続くときは、リスクをとって株式市場にお金が流れ込みやすくなる反面、債券は売られやすく、金利は上がりやすい。

 一方で、景気が悪くなっていくときは、株価は下がる反面、相対的にリスクが低いとされる債券が買われやすくなり、金利は下がりやすくなる。

このように、株式と債券の価格は、逆の相関関係で動くことが多いとされているが、新型コロナの感染が広がるなかで、株高と債券高が並び立つ事態となり、金利が下がるとともに、株価が上がっていく様相となっていた。

「株高」と「低金利」の併存

こうした状態が生み出されたのは、経済のダメージをやわらげるために、各国政府が大規模な財政出動を行うとともに、それぞれの中央銀行が量的緩和や利下げを行って大量のお金を市場に供給し、景気の下支えを図ったためだ。

財政政策と金融政策の両面で、未曽有の緊急対策を打ち出し、家計消費や設備投資に効き目を及ぼして、経済正常化への道筋を支えようとしたことが金融市場に色濃く影響した。

景気は上向き、企業業績も回復していくだろうという期待が膨らみ、金余りによる株式市場への投資マネーの流入効果もプラスされて、株価が持ち上げられた。その一方で、利下げと緩和作用により、金利は抑えられる。

こうした結果、株高と低金利が並び立つ状況が作り出されたわけだ。

バイデン経済対策で景気過熱か

しかし、このような相場環境はそう長くは続かないだろうという懸念が顕在化したのが、今回の長期金利の急上昇だ。

背景には、アメリカのバイデン政権の巨額の財政出動の実現が近づいてきたことがある。

アメリカのバイデン大統領

ホワイトハウスと上下両院を民主党が制する「ブルースイーブ」が達成された結果、民主党の意向に沿った経済対策が遂行されやすくなった。

追加経済対策の法案は、2月27日の下院に続いて、3月6日には一部修正のうえ上院で可決され、近く成立する見通しだ。家計支援として1人あたり最大1400ドルの追加支給を盛り込むなどしていて、総額は1.9兆ドルにのぼる。

一方で、2021年1-3月期の総需要と供給力の差にあたる需給ギャップは、アメリカ議会予算局(CBO)の試算で0.5兆ドルであり、サマーズ元財務長官などからは「過大でインフレのリスクがある」との指摘が出てきている。

長期金利には、景気の見通しや金融政策の先行きについて、市場関係者が考えた結果が反映される。バイデン政権の大型の景気刺激策に加えて、ワクチン接種の進展という後押しもあり、アメリカの景気は過熱してインフレが進むのではないかという観測が強まった。

さらに、そうなれば、FRB=連邦準備制度理事会は、早めにいまの金融緩和を手じまいして、利上げに転じ、景気にブレーキをかけようとするのではないかーこうした市場の見方が金利上昇の圧力を高めたのだ。

8年前のFRBの苦い経験

FRBには、8年前に起きた「テーパータントラム(Taper tantrum)」という苦い経験がある。

この造語は「テーパリング(Tapering)」(緩和の縮小)と「テンパータントラム(Temper tantrum)」(癇癪)を組み合わせたもので「金融緩和縮小による市場の癇癪」を示す。

2013年5月に当時のバーナンキFRB議長が量的緩和の縮小を示唆したところ、長期金利が急騰し、新興国から資金が流出するなど、金融市場に大きな波乱をもたらした。

政策転換に向けて地ならしするはずの発言が、かえって緩和縮小を遠のかせる結果を招いてしまったことはFRBの記憶に教訓として刻まれているはずだ。

このところ、市場には、「パウエルプット」という言葉が浸透している。金融相場が値下がりしたときに、損失を限定する「プット・オプション」取引になぞらえたもので、相場が急変しても、パウエル議長が自らの発言などを通じて、市場を助けてくれるというものだ。

株価や金利がこれ以上まずいという状況になったら、世界の中央銀行であるFRBが、きっと何とかしてくれる、サポートの手を差し伸べてくれるはずだという市場の期待が込められたものだが、4日のパウエル議長の講演内容は、そうした期待から外れるものだと受け止められた。

パウエル議長は、金利上昇について、市場の混乱が起きれば懸念材料になるとして牽制したものの、対応の必要性や具体策には踏み込まなかった。

金利上昇について具体策には踏み込まなかったFRBのパウエル議長

このためアメリカの長期金利は再び上昇して、3月4日の10年物国債の利回りは前日比0.1%近い上げ幅となり、ダウ平均は一時700ドルを超えて下落した。

市場では、米国債売りでFRBの対応を試すような動きが繰り返されている。

ジレンマを抱えたFRBの舵取りは

景気がよくなりすぎる局面で、金利を過度に抑え込むと、物価上昇や資産価格の高騰を勢いづかせ、バブルの懸念が強まる。

とはいえ、急激に金利を上向かせてしまうと、市場が混乱し、景気回復の道筋を妨げてしまう。

FRBはこうしたジレンマを抱えながら、隘路を進むことになる。

「低金利」と「株高」の軟着陸に向け、急激な金利上昇がもたらす株価下落リスクを回避しながら、金融緩和の出口に向けて歩んでいくことができるのか。市場との対話が難易度を増すなかで、世界経済に目配りする役目を課せられたFRBは、非常に難しい舵取りを迫られている。

【執筆:フジテレビ解説委員 智田裕一】