目と耳が不自由な盲ろう者にとって、人と触れ合うことは大切なコミュニケーション手段の1つだ。人との接触を避けるため、コロナ禍で直面する盲ろう者の現状と、彼らを支える取り組みを取材した。
「人との接触」は大切な意思疎通の手段
相手の指を点字タイプライターに見立て、打つことで意思を伝える「指点字」。
この記事の画像(12枚)一方、手話を手で触って読み取る「触手話」。
どちらも、目も耳も不自由な盲ろう者が使うコミュニケーション手段だが、共通しているのは手が触れること。
新型コロナウイルスの影響で、接触を避ける行動が求められる中、人との接触は、盲ろう者にとって大切な意思疎通の手段。
篠田吉央キャスター:
新型コロナウイルスが感染拡大する中、通訳・介助員に期待することは何ですか?
岡山・矢掛町在住の盲ろう者 青江英子さん(67):
情報不足なので、情報が欲しいです。通訳・介助員に手伝ってもらって、いろんな所に連れて行ってもらいたい
岡山市在住の盲ろう者 浅井義弘さん(79):
家の中では1人で動けるけど、外ではどうにもならない。同行援護を利用しようと思っても、(感染防止を考え)我慢している
盲ろう者の行動にコロナ禍が暗い影
岡山県内の2020年度の通訳・介助員の派遣件数は、前の年の約3分の1に減り、コロナ禍は、2012年の時点で全国に約1万4,000人いる盲ろう者の行動に暗い影を落としている。
東京大学先端科学技術研究センター・福島智教授:
実際に手を触れ合わす、通訳・介助員が自宅に来ないと、その盲ろう者は孤立してしまう。テレビも見られないし、スマホも使えないし、段々と現実世界から離れていくような感じだろうと思う
こう話すのは、自身も盲ろう者で、バリアフリーの研究を専門にする東京大学の福島智教授。
東京大学先端科学技術研究センター・福島智教授:
障害者や高齢者が心豊かに生きられるということは、それ以外の人も心豊かに生きられるということであって、どんな状態になっても自分は取り残されないんだ、生きていけるんだと思って安心していれば、この社会はすごく居心地が良くなっていくだろうなと思っています
盲ろう者を孤立から救うのは…
誰一人取り残さないために。盲ろう者を支える取り組みが、岡山・津山市で進んでいる。
津山市山北の津山市総合福祉会館。
篠田吉央キャスター:
こちらでは、盲ろう者のための通訳や手引きの勉強会が開かれています
岡山県北の通訳・介助員不足を解消しようと、県などが企画したもので、参加者は2年かけ、盲ろう者の通訳と介助を学ぶ。
通訳・介助員養成講座に参加する大道智美さん(40):
盲ろう者は、1人では外出ができないので、たくさん通訳・介助員がいれば手伝いができると思う
参加者の1人、大道智美さんは、聴覚障害者をサポートする手話通訳者の資格を持っている。
しかし、盲ろう者は、触手話や指点字など、人によってコミュニケーション手段が違うため、大道さんは、指点字での通訳にも挑戦している。
また、介助は、一人一人の障害の程度や必要とされる支援内容を見極め、的確に対応する必要がある。
岡山市在住の盲ろう者 浅井義弘さん:
エスカレーターに乗る時は、手前で立ち止まって、(手を前に出し)エスカレーターと合図して、手すりを持たせてほしい
この日行われたのは、外に出ての介助研修。普段の生活と同じように、盲ろう者と買い物などに出掛ける。お茶を買うために商業施設を訪れるが、店頭に並ぶ真空パックの茶葉に盲ろう者の男性は驚いた様子だった。
岡山市在住の盲ろう者 浅井義弘さん:
「これ固い」
大道さんが指点字で説明し、お茶の種類や金額などを伝えたが、最終的に購入するまでに約30分かかった。
どこに何があるのかわからない盲ろう者に、状況を伝えるのも重要な役目。
エスカレーターに乗る際の合図も無事出せた。
最後は食事。数あるメニューの中から、見聞きできない盲ろう者に、いかに私たちと同じように選ぶ楽しみを感じてもらえるか。
うどんを食べるその表情に、コロナ禍でも当たり前のことが当たり前にできる喜びが浮かぶ。
岡山市在住の盲ろう者 浅井義弘さん:
自分の身内を介助しているような態度で、きょう接してくれたと思う。それを忘れないでほしい
通訳・介助員養成講座に参加する大道智美さん(40):
人と人とが触れ合う中で、楽しみやストレスをなくすなど、生活の張りができたらいい
コロナ禍で避けられがちな人との接触。しかし、盲ろう者を孤立から救えるのは、触れ合う手のぬくもりだけだ。
篠田吉央キャスター:
つながる大切さを感じました
(岡山放送)