岩手の食材を求めている人はいっぱいいる

自らを“イカ王子”と名乗り、三陸の「海の幸」の魅力を伝えてきた男性。記録的な不漁が続き岐路に立たされている水産業の未来のため奮闘する男性の思いを追った。

2021年1月に岩手県宮古市で開かれた毎年恒例の真鱈祭り。その中に行列が途切れないブースがあった。

「王子のぜいたく至福のタラフライ」だ。

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その王子とは、王冠をかぶった"三陸王国のイカ王子" こと鈴木良太さん。

2021年は、新型コロナウイルスの影響で中止も懸念されたが、祭りの実行委員長として三陸の魅力を訴える機会を簡単には諦めなかった。

イカ王子 鈴木良太さん:
取れない取れない、コロナだコロナだで終わっちゃうんですけど、地元の魚とか岩手の食材を求めている人はいっぱいいるから、そこに対してもっとアプローチすべきです

鈴木さんが専務を務める宮古市の共和水産。創業した35年前からイカ刺しを中心とする加工商品を製造・販売してきた。

しかし、東日本大震災で共和水産は原材料などを保管していた大槌町の倉庫が被災した。そのうえ販路も失い、創業以来最大のピンチを迎えた。

自分にできることは何か。そう考えた鈴木さんは、ある方法を思いつく。

イカ王子 鈴木良太さん(2014年):
毎日イカの写真撮っているんです。毎日、毎日ですよ。馬鹿だなといわれるんですけどね

鈴木さんがとったのは "イカ王子" としてブログで発信すること。

「最高のイカちゃんを買ったからテンションがあがる」、「この写真一面、イカ。素晴らしい。芸術だ…」など、とにかくイカへの情熱をストレートに表現してきた。

すると、ネット通販が売り上げを伸ばし、2年後の2013年には、震災前の水準に回復した。

しかし…

秋サケ漁の漁師:
三陸の定置網の漁師はサケで飯食ってますからね。サケ来なきゃ生活にならないからね

サンマなどの水産加工業者:
異常じゃないですかね。こういう年っていうのは何十年やってますけども、あまり記憶にないですね

漁業施設が復旧した沿岸の水産業だが、漁獲量の回復は鈍く、2018年度の漁獲量は、約9万トンと震災前の6割ほどにとどまっている。

理由は、本州有数の秋サケ漁とサンマ漁の記録的な不漁だ。

鈴木さんの会社の主力のイカも震災前には2万トンだった漁獲量が、2020年には4000トンと2割以下に減り、仕入れ値が震災前の3倍以上に高騰した。
このため、売れば売るほど赤字となり倒産の危機に陥った。

イカ王子 鈴木良太さん:
つらかったですね。つらかったし、そういう状況の中でも、「まだ(イカ王子)やるの、大丈夫?本業頑張ったら?」って言われたこともあった

絞りに絞って出た「カップいかそうめん」

イカ王子の取り組みも本気だったからこそ、悔しさがこみ上げ努力を続けた。イカでは、利益を得られないと他社が手を引く中でも、鈴木さんは諦めなかった。

そんな中で生まれたのが「カップいかそうめん」。

イカ王子 鈴木良太さん:
値段が高くなったから内容量を下げないとお客さんが買いやすい価格にはならないわけですよ。少量でも簡単で便利で食べやすくて、キャッチーなものがいいなと思って。スーパーに行った時におかめ納豆を見たんですよ。ビビビッって走って、これだ!みたいな

イカそうめんの年間売上は2億円から5億円にまで増え、2020年度、創業以来初めて10億円を突破。黒字も達成した。

イカ王子 鈴木良太さん:
起死回生ですね。最後の最後のボロボロの雑巾を絞った時に出た一滴の水みたいな…

岐路に立たされている沿岸の水産業では今、海で育てるニジマス「トラウトサーモン」など「育てる漁業」に活路を見出し生き残りをかけている。

鈴木さんの会社も今、変化を求められている。

イカ王子 鈴木良太さん:
これからの地域とか共和水産もそうなんですけど、作っていくのは若い世代。(若い世代が)入らないと存続は難しいじゃないですか、現実的に

鈴木さんがその変化に対応するために必要だと考えているのは「人を育てること」。
インターンで全国から多くの大学生を受け入れ、その中には2022年入社を決めた大学生もいる。すでに就職前から宮古市に住み始め、アルバイトとして働いている。

2022年入社する山形の大学生 瀬戸里奈さん:
人を動かす熱さであるとか思いにはすごく影響を受けています。イカ王子の活動とか共和水産の魅力をもっと伝えていけるようなものに取り組めたらいいなと思っています

数々のピンチをアイデアと情熱で乗り越えてきたイカ王子こと鈴木良太さん。変わらぬ「故郷への思い」を持ち続けながらこれからも歩み続ける。

イカ王子 鈴木良太さん:
宮古が故郷で宮古が好きなので、震災があって宮古をさらに好きになった。(宮古を)「魚の街」って全員に言わせたい

(岩手めんこいテレビ)

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