60歳はまだシニアではない

60歳になったらシニア割引とかたくさんあるに違いないとワクワクしながら検索してみてがっかりした。大手映画館の入場料1800円が1100円に下がるくらいで、あとはほとんどない。お台場の「大江戸温泉物語」が月火だけシルバーデー(イヤな言葉)で入館料が半額になるらしいのだが、いくら僕がヒマでも平日に日帰り温泉には行かない。

シニア割引というのはどうも65歳位から始まるらしい。法律で決められた企業の雇用延長義務は65歳までで、公的年金の給付が65歳からなので、日本ではシニアと呼ばれるのは65歳からなのだ。

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そう考えると60歳代前半というのは実に中途半端な年齢である。まだシニアではない。でも60歳で強制的に定年させられ、雇用は一応延長されるが給与は下がる。先日政治部の後輩たちが送別会をやってくれた。最後にプレゼントと寄せ書きと花をもらって嬉しかったが、やはり寂しかった。定年と共に最前線からは退き、会社には居るのだがなんだか余生を過ごしているような気分になる。

「中途半端な人たち」の活用が経済成長のカギ

僕は現役なのか老人なのか、いったいどっちなんだ。はっきりしてくれ!と言いたくなる。

この気持ち悪さはどうすれば解消されるのだろう。確かに会社では正直居心地が悪い。だったら外に出て行けばいいのだろう。フジテレビでは副業を全く禁止しているわけではないらしい。仕事に支障がなければ大学での講義などはやってもいいそうだ。TBSに出演したり、朝日新聞に原稿を書くことはないが、他のメディアへの出稿も許可が出ることもあるようだ。そうやって外に出れば人間関係や仕事の幅も広がりそうな気がする。おそらく今後企業の高齢者による副業の自由度は増すのではないか。

どの企業や役所でも60歳代前半の人たちの扱いに困っているはずだ。しかし副業が自由になれば、お互いが楽になる。

僕が働く最大の理由は二つあって「コラムを書いたりテレビでコメントする今の仕事が楽しいこと」と「娘を健康に育て、きちんと教育を受けさせること」である。

ある日娘に「父ちゃん、ハーバード受かったんだけど行っていい?」と聞かれたらどうしよう。米国在住の友人に聞いたら学費と生活費で年800万円かかるらしい。4年で3200万円、修士も取ればさらに2年で4800万円か。娘に、おめでとう、頑張って行っといで、と答えるためにももう少し働かなくてはならぬ。

定年からシニアまでの5年間のモラトリアムは、もし年金給付開始が延びれば、5年が7年、8年になるかもしれない。この「中途半端な人たち」をどううまく働かせるかが日本の経済成長のカギになるはずだ。

【執筆:フジテレビ 解説委員 平井文夫】
【イラスト:さいとうひさし】

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平井文夫
平井文夫

言わねばならぬことを言う。神は細部に宿る。
フジテレビ報道局上席解説委員。1959年長崎市生まれ。82年フジテレビ入社。ワシントン特派員、編集長、政治部長、専任局長、「新報道2001」キャスター等を経て現職。