タイの人口の約1割、560万人あまりが住む首都バンコク。バンコクの知事は内務省が任命する他県の知事と異なり、直接選挙で選ばれる。このため内務省の監督は受けるものの、さまざまな政策を実行することが可能で、独自の職員採用試験もおこなっている。バンコクの首長として権限も影響力もあるとされる。

このバンコク知事の次期選挙が2021年内におこなわれることが決まった。年内後半に投開票される見通しだ。前回の知事選挙はクーデター前の2013年で、選挙が実施されれば8年ぶりとなる。年明けから立候補をめぐる動きが慌ただしくなっている。

立候補に意欲を示しているとされるのは現在3人。はたしてバンコクの新しいかじ取り役は誰になるのだろうか。新型コロナウイルス対策や反政府デモの動向とも無関係ではないだけに、知事選の行方が注目される。

前警察長官のチャクティップ氏(61)

チャクティップ氏のフェイスブックより
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警察長官を異例の長期となる5年間務めて定年退職したチャクティップ氏(61)。タイ警察のトップに上り詰めたこともあり、プラウィット副首相など政権中枢との関係が良く、信頼されていると言われる。与党・国民国家の力党の本部があった建物の外壁には2月、チャクティップ氏の写真が掲げられた。

正式な発表はないが、すでにプラウィット副首相が与党の下院議員にチャクティップ氏の支援を要請したと地元メディアが報じていて、与党・国民国家の力党から支援を受けることは間違いなさそうだ。

チャクティップ氏のフェイスブックには、写真や動画の投稿が相次いでいる。パーカーやトレーナーなど普段着を着た写真や動画が多く投稿され、警察長官時代の硬いイメージを変えようという意図がうかがえる。

元運輸相のチャチャート氏(54)

チャチャート氏のフェイスブックより

タクシン元首相派のタイ貢献党に所属していたチャチャート氏(54)。インラック政権で運輸相を務め、閣僚の立場でありながら、路線バスで出勤するなど庶民的な振る舞いで注目を集めた。フェイスブックなどSNSを活用した政治活動の発信も積極的におこなっていて、若年層から人気があり知名度も高い。2014年のクーデター後は不動産会社の役員などを務めている。

知事選に無所属で立候補するため、野党第1勢力のタイ貢献党からすでに離党しているが、タイ貢献党をはじめ、依然影響力をもつタクシン元首相やインラック前首相から何らかの支援を受けるという見方もある。

現職知事のアサウィン氏(70)

アサウィン氏のフェイスブックより

アサウィン氏(70)は元警察副長官で定年後にバンコクの経済担当の副知事となり、2016年10月、職務停止を命じられた前知事に代わり知事に就任した。任命したのは、軍のクーデター後に軍政の最高意思決定機関となっていた国家平和秩序評議会(NCPO)。バンコクでは初めての警察組織出身の知事となった。

警察時代は「事件を早期解決できる男」と言われた優秀な警察官。NCPOに任命された知事であり、政権に近い立場だが、与党・国民国家の力党はチャクティップ氏を支援するとみられ、どの程度の支援が受けられるかは不透明だ。現職の強みと知名度を生かし、再選をめざす。

山積するバンコクの課題

人通りの少ないバンコク・カオサン通り

この3氏に加え、野党第2勢力の前進党や政権を担った経験もある古参の民主党も、候補者の擁立を模索している。バンコクは新型コロナウイルスによる経済への打撃や貧富の格差の拡大に加え、少子高齢化、大気汚染、交通渋滞などさまざまな課題が山積している。

交通渋滞や大気汚染などは日系企業をはじめ、進出している海外の企業にとっても切実な問題で、早期の解決が望まれている。さらに最大の課題であるコロナ後の経済回復に向けて、バンコクのかじ取り役を誰に託すべきか、今後のバンコクの発展を見据える上でも、重要な選挙となることは間違いない。

【執筆:FNNバンコク支局 武田絢哉】