日本人の英語能力は世界平均以下

「日本人の英語能力は、世界的に見てレベルが低い」
これに反論できる日本人は少ないだろう。

世界最大規模の国際教育機関「EF(イー・エフ・エデュケーション・ファースト)」が公開した国別の英語能力指数ランキング調査(2018年)によると、英語を母国語としない88カ国の中で日本の英語能力は49位。アジアの国と地域21の中では11位だ。

EF EPIのHPより
EF EPIのHPより
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英語を公用語とするシンガポールはもちろん、中国、韓国、ベトナムより下位となっている。上位にある欧米諸国は、母国語が英語と同じ語源で、英語を日常的に使う環境にある。一方日本語は言語的に英語から最も遠く、日常的に英語を使う環境はほぼない。日本語と英語の言語体系の違いに関して、東京インターナショナルスクールの坪谷・ニュウエル・郁子理事長はこういう。

「アメリカ国務省の外交官の言語研修において、英語を母語とする人々が各言語を日常会話程度に習得するのに必要な時間の平均値を算出し、それに基づいて習得難易度を分類しました。日本語は最も難易度が高い言語に分類され、合計2760時間を必要としました。これらは平均年齢40歳程度のアメリカの外交官が、習得にかかった平均時間です。外交官は、一般的に高学歴で優秀な人々です。ですので、通常の人ならさらに3000時間以上は必要ではないかと言われています」

英語習得には3000時間以上が必要

坪谷氏によると、逆のパターン、つまり日本人が英語を習得する場合にも、これに相当する時間(3000時間以上)が必要になるといわれている。

トロント大学の研究では、カナダで生活する日本人の子どもが学校生活をスムーズに送る英語を習得するのには、2000~5000時間かかっているとのデータがあるという。

「オハイオ州立大学名誉教授のテレンス・オーディン氏らの研究では、日本人が高いレベルで運用できるようにするためには、3000~5000時間は必要であるという研究結果もあります」(坪谷氏)

一方、日本人が大学卒業までに英語を学ぶ時間は、学校の授業だけで約740時間。家庭での学習を足しても、1000~2000時間程度と言われている。つまり、日本人が英語を体得するのは、学習時間を見る限り、学校で行われてきた授業だけでは難しいのだ。

政府は2020年から、小学校の英語教育を3年生から行うことにしている。これまでは小学校5年生から外国語活動として、英語に慣れ親しむことを主眼としてきた。しかし今後は、これを2年繰り上げて3年生と4年生は外国語活動として一年に35時間、5年生からは教科として必修になるのだ(一年に70時間)。それを足しても1000時間弱が合計時間だ。

しかし、中国や韓国は約20年前から、小学校で早期英語教育を実施しており遅きに失したかたちだ。

英語でも「吹きこぼれ」が増える

英語の学習時間を増やすことで、政府は子どもの英語能力向上を期待する。しかしいま小学校では、子どもの英語能力育成を阻む「吹きこぼれ」現象が起きている。

「吹きこぼれ」とは「落ちこぼれ」の対義語として学校で使われる言葉で、学習意欲の高い優秀な児童が、学校の授業内容に物足りなさや疎外感を持ち、やる気を失うことだ。

つまり英語能力の高い子どもが、学校教育から「吹きこぼれ」てしまっているのだ。

ドット・スクールの先生たち。右端が樋口氏
ドット・スクールの先生たち。右端が樋口氏

キッズ版MBAと言われ、英語でリーダー教育を行う「dot.school(ドット・スクール)」を運営する「Selan(セラン)」代表取締役の樋口亜希氏は、こういう。
「英語を幼児の頃から始めて頭一つ抜けている子どもは、行き場がないのが課題です。政府や民間は、ABCから始める子どもにフォーカスします。しかし、英語能力の高い子どもは一定数いるにもかかわらず、彼らに適した学びの場が提供されないのです」

樋口氏によると、日本には英検3級以上を受験する小学生が、2018年時点で推定8万人いると言われ、この先5年でほぼ倍の15万人に増える見込みだという。

英語への意欲が高まる一方、その受け皿がますます足りなくなるのだ。

英語も画一教育から多様な教育へ

ドット・スクールでは子どもがデータのグラフ作成も行う
ドット・スクールでは子どもがデータのグラフ作成も行う

ドット・スクールでは、英会話教室を運営するベルリッツ・ジャパンと提携して、こうした子どもに学びの場の提供を始めた。

「6歳から16歳が対象です。インターナショナルスクールに通う子どもや帰国子女のほかに、家庭などで独自に早期英語学習を行ってきた子どもが参加します。特に早期英語学習を行っている家庭では、親は子どもがステップアップする場がない、子どもは自分と同じレベルの子どもと出会う場がないことが悩みでした。しかしここに来ればその悩みは解決します」

このスクールでは、授業を英語で行うのはもちろん、環境問題など世界的な課題をテーマに、ディスカッションやワークショップ、リサーチからプレゼンテーションまで行う。

子どもたちは世界や日本の社会課題を考える
子どもたちは世界や日本の社会課題を考える

自分の主張を裏付けるエビデンスを自らリサーチし、データを見つけたらエクセルに入力してグラフを作成、プレゼンテーション資料を作る。大学生も顔負けだ。

「中学校や高校では、リーダーシップ、アントレプレナーシップ教育が盛んになってきましたが、小学校はまだないのでこうしたリーダーシップ教育をやっています。日本の公教育は、平均的な子どもに合わせているので、子どものリーダーが育つ土壌が残念ながらありません」(樋口氏)

2020教育改革で英語の学習時間が増えることは朗報だが、画一的に行えば英語能力の高い子どもの可能性を潰すことになる。

今月都内で行われた3日間のスクールは7人の子どもが参加
今月都内で行われた3日間のスクールは7人の子どもが参加

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

「世界に負けない教育」すべての記事を読む
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鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。