黒曜石の切れ味が話題
学校で「旧石器時代に使われていた」と学んだ人も多いであろう黒曜石。石を割って形を整えるだけの”打製石器”の材料でもあるが、今、この切れ味のすごさがわかる動画が話題となっている。
ただ割っただけの黒曜石が、どれだけの切れるかという動画。
— 岩宿の石器 (@tGyWsAtnF9Fw6PA) February 2, 2021
これが打製石器の切れ味です。 pic.twitter.com/R4P3ExE6Cb
「ただ割っただけの黒曜石が、どれだけの切れるかという動画。これが打製石器の切れ味です」
(原文ママ)とのコメントともに動画を投稿したのは、群馬県の岩宿博物館でボランティアをしている岩宿の石器(@tGyWsAtnF9Fw9PA)さん。
動画には、黒曜石のかたまりを別の石で割り、割れた黒曜石のかけらで新聞紙を切っている様子が映っている。

新聞紙の上から力を軽く入れているだけにみえるが、1枚ではなく重なった複数枚の新聞紙がスパッと切れ、黒曜石の切れ味がとてもよくわかる。

割っただけで、磨いて鋭くしたわけでもない黒曜石の切れ味に、「この石があったおかげで今の人類がある」「すごい切れ味です!」「子どもにみせたら感動してた」とコメントが寄せられ、1万7000いいねが集まっている。(2月10日時点)
とても興味深い石ではあるが、そもそもどこで見つけることができるのだろうか?大きなかたまりを割って打製石器を作っているが、簡単に割れるのだろうか? 投稿者に話を聞いた。
黒曜石は、火山の溶岩が急激に冷えてガラス質になったもの
ーー「黒曜石」はどこにあったの?
黒曜石は北海道遠軽町、白滝のものです。岩宿博物館では体験学習で石器作りをしているので購入して使っています。

ーーそもそも「黒曜石」ってなに?
黒曜石については自分もそれほど知識はありませんが、黒曜石は火山の溶岩が急激に冷えてかたまりガラス質になったもので、火山ガラス、天然ガラスとも言われて、ほぼガラスと思っていいと思います。
オブシディアン(黒曜石の英語名)と言えばパワーストーンとしても販売されてます。
ちなみにこの動画の黒曜石はパワーストーンでいえばマホガニーオブシディアンというものです。使ってる北海道白滝のものは、現地はジオパークになっていて、自由に取ることはできません。
思い通りの形に割るのは難しい
ーー割るのは簡単?
簡単に割れてるように見えますが、割り方を知らない人が叩いても割れません。どこをどう叩いてどう割れるかを予想して割っています。
ーー割れるようになるには時間がかかる?
黒曜石を割るだけなら、体験学習で小学生にも割らせてますし、お祭りの時には未就学児にもやらせることがありますので、もちろんどこをどう叩くかは指示しますけど、的確な場所を叩けば力の弱い人でも割ることはできます。
しかし、ある程度自分が思い描いたように割るようになるには少し時間がかかります。叩く場所の選定、どんな角度で振り下ろすか、どのくらいの力で叩くか、それらを口で説明してもなかなか伝わりづらいものです。

動画の割り取りも、自分としては失敗だと思っています。選んだ敲き石(たたきいし)が重すぎました。そのため大きく割れすぎてしまいました。

長ネギ・ピーマン・トマトなら切れる
ーー本当に旧石器時代などで使われていたの?
岩宿遺跡は日本に旧石器時代があったことを証明した遺跡ですが、そのきっかけになったのが黒曜石です。群馬県には黒曜石は産出しないのですが、石器の石材としてよく使われています。
北海道白滝の黒曜石は北海道は勿論ですが、青森県の三内丸山遺跡でも出土しています。長野県和田峠、栃木県高原山、箱根、神津島、隠岐島など日本各地に産出地があって、旧石器時代、縄文時代ではよく使われてます。
ーーどうやって黒曜石から打製石器を作るの?
石器もいろいろあるので作り方もいろいろありますが、岩宿でよく作ってる槍先形尖頭器(石槍)の場合は、黒曜石のかたまりから敲き石(石器)で薄いカケラ(剝片)を取り、それを鹿角で叩き割り形を作っていきます。

ーーどのようなものを切ることができるの?
刃が薄いのでたいへん脆いものです。ですので、肉を切るのには向いてますが、硬いものは切れません。イモ、大根などは無理でしょう。長ネギやピーマン、トマトなら切れると思います。
ーー投稿が話題になったけど、どう思う?
石器の切れ味はビックリしますよね。自分もこういうことに関わる前は、石があれほど切れるとは思っていませんでしたから。
ただ割っただけのものがこれだけ切れるということを多くの人に知ってもらいたいとは思っていたので、ここまでの反響は想定外でしたが、狙ってはいました。

ーー最後に、黒曜石の魅力を教えて
黒曜石の魅力はやはりキレイなことですね。打製石器は叩き割って作ります。どこをどう叩いてどう割れるかを予想して叩いてますが、そうは言ってもなかなか思うようにはいかない。そこがいいですね。
そして石器作りを経験すると、実際の石器の見方が変わります。どう作ったのか、上手に割っている、ここは失敗している、そういうところが想像できるようになります。

動画で切っていた新聞紙は4つに折ってある状態で、一番深くまで切れていたのは56枚、ある程度の長さできちんと切れていたのは36枚ほどだったそうだ。
黒曜石を教科書で習ったことはあっても、その切れ味を実際に見る機会は少ないだろう。今回の投稿を見て、太古の人の生活に思いをめぐらせてみるのもいいかもしれない。
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