雇用しながら育成 若手和裁士
コロナ禍での苦境を、若手の斬新なアイデアで乗り切る。
広島市の着物仕立て店が、新たな取り組みを始めた。
日本の伝統衣装「着物」。「一万針の芸術品」とも称されるこの着物を、一針一針、手縫いで仕立てる職人を「和裁士(わさいし)」と呼ぶ。
この記事の画像(13枚)創業から40年。20代から70代まで幅広い世代の和裁士が活躍する広島市西区の「勝矢和裁」では、年間2万枚の着物を仕立て、日本各地の呉服店に納品している。
熟練の技を必要とする和裁士の仕事。
しかし、この会社では、たくさんの若手和裁士が活躍している。
というのも…
勝矢和裁取締役・東栞衣さん:
若い方で、和裁士になりたいという方に入社してもらって、育成をしながら技術を身につけていくという会社です
手に職を持つことで、女性の自立を支援したい…。40年前、生徒を育成する和裁学院からスタートした「勝矢和裁」。
しかし、時代と共に着物の需要は少しずつ減少し、和裁士の姿も少なくなった。
そんな中、この伝統技術を未来へとつなぐため、社員として雇用しながら和裁士を育成するという、「学校のような会社」へと移行していった。
ーー社員の育成方法は?
勝矢和裁国内製造部主任・佐々木尚英さん:
指導員が、最初の3カ月間は付きっきりで、和裁の基礎を指導していきます。その後は指導員の元を離れて、近くの先輩が指導していきながら、半年に1回の社内試験を順調にクリアしていくと、5年後には国家技能検定1級の資格がとれるようになっています
社員の雇用守るため…YouTubeチャンネルも開設
日本の伝統技術を未来へとつなぐため、着物の仕立て事業と合わせ、和裁士の育成を行う「勝矢和裁」。和裁の技術を競うコンクールや全国大会上位入賞者も多数在籍していて、その高い技術力を強みに、取引先である日本各地の呉服店へ手縫いの着物を納めてきた。
しかし、この春…
ーーコロナによる影響は?
勝矢和裁取締役・東栞衣さん:
全国展開している呉服店が軒並み閉店されまして、5月、6月あたりの仕事が7割減って、本当に仕事がなくなりました
呉服店からの下請け業務をメインとする中、取引先が休業したことで仕事が激減。しかし、会社の宝である和裁士たちの雇用は守らなければならない…
先の見えない状況の中、まず始めたのが…?
1枚の生地から浴衣ができるまでの工程を動画に。
新たに開設したYouTubeチャンネルで、和裁のプロならではの技術を惜しみなく紹介することに。
勝矢和裁取締役・東栞衣さん:
私たちの職業は、なかなか人目に触れられなくて。でも時々、和裁士になりたいという問い合わせもいただきます。和裁の技術を誰かに見てもらって、勉強になればと思って始めました。Youtubeへのアップの仕方も全然わからなかったのを、人に教えてもらいながら編集作業を進めていきました
タンスで眠る着物をコートに…若手社員がアイデア
コロナ禍で業務が滞る中、今できることを…と、経営陣が試行錯誤する日々。
ここでさらなる展開をと声を上げたのが、20代を中心とした若手社員だった。
入社10年目、濱名さんが製作するのは…?
入社10年目 濱名美優さん:
今は、仕立て上がった着物をコートとして仕立て替えています。スナップボタンで取り外しができるように衿(えり)をつくっています。どっちも着物の生地です
タンスの中に眠っていた着物を解体し、それをコートに仕立て直す。
これは、今まで会社がやって来なかった個人客をターゲットにした新たな取り組み。
ーーコート製作を始めた経緯は?
勝矢和裁取締役・東栞衣さん:
「自分たちの作ったコートを見てもらいたい」という意見があって、もう受注もなくなりましたし、じゃあ、そのコートをつくってみようということで、全員でコートをつくり始めました
テーマは、「洋服にも似合うコート」。
まずは、在籍する和裁士たちからデザイン案を募った。すると集まった数は、なんと全部で72パターン! 経営陣の予想をはるかに超えたアイデアが出そろった。
勝矢和裁取締役・東栞衣さん:
若いって素晴らしいなって、単純に思いましたね。私なんてもう、頭が凝り固まっているから、アイデアがもう出ないって思いながらやる中で、みんなは、最後まで一生懸命考えて良いアイデアをどんどん出してくれたので、それは本当に会社の財産だなと思いました
一針一針、和裁士が手縫いで仕立てたコートは、現在30デザイン。どれも若い感性が生かされた、すてきな仕上がりになっている。
入社4年目 高橋明莉さん:
これは、「モモンガコート」というコートです。身頃と袖を一体化させて、モモンガの形にすることで、洋服でも着物でも着られるような形にしました。洋服では、ポンチョのようなコートは見たことがあるんですけど、着物ではなかなか見たことがないので、このデザインを考えました
入社7年目 桑本麻央さん:
「アレンジ衿コート」といいます。コサージュのとめ方によって、3パターンの着方をすることができます。型紙をとって、衿をつけるというのが初めてだったので、他の人の力を借りながらつくりました。思ったよりも皆さんから好評いただけて、うれしいのと恐縮なのと…
個人向けの新事業を開拓 新たな一歩に
取引先の要望を正確に形にしてきた、これまでの経験を基盤に、個人に向けた新事業を開拓。創業から40年、「勝矢和裁」は、また新たな一歩を踏み出す。
勝矢和裁取締役・東栞衣さん:
着物からコートができるということをご存じない方が多いと思います。タンスの中から、おばあちゃんだったり、お母さんだったりの着物が出てきた時に、もしかしたらコートにできるんじゃないかなって思っていただけたらなと
勝矢和裁取締役・東栞衣さん:
今までは呉服屋さんに頼りっぱなしで、それが当たり前だと思っていたんですけど、これからは、お客さまとつながって、お客さまに感動と喜びを味わってもらって、私たちも、それを見て一緒に喜びたいというような会社にしていきたいです
(テレビ新広島)