新型コロナウイルス感染者の累計が2000万人を越え、一日の新規感染者が29万人をこえる日もあるなど(1月2日)、年が明けても感染爆発が収まらないアメリカ。医療のひっ迫も深刻だ。苦境が続く中、希望の光となるワクチンの接種が開始してからまもなく1ヶ月を迎える。しかし、接種が迅速に進んでいないという新たな課題が生じている。

ワクチン使い切らないと“罰金1000万円”

アメリカでは医療関係者らから優先的にワクチン接種が始まっている。CDC=疾病対策センターによると、7日朝現在、2100万回分のワクチンが配布されたが、1回目の接種を終えたのは591万人にとどまった。予想より接種に時間がかかっていることがわかる。

ニューヨーク州では、病院に分配されたワクチンのうち、46%しか接種されていないというデータ(4日時点)を発表。中には10%台という低水準の病院もあるという。悲惨な“成績”に業を煮やしたクオモ知事は、「病院は、配布されたワクチンを7日以内に使いきらなければ、最大10万ドル(約1039万円)の罰金を科す」という脅しともとれる強行策を発表した。

クオモNY州知事
クオモNY州知事
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ワクチン打った職員に「臨時ボーナス」も

ワクチン接種を促進するためにはムチもあれば、アメもある。テキサス州の病院では、職員に対し新型コロナウイルス対応をねぎらう「ボーナス」が500ドル(約5万2000円)支給されることが地元メディアに報じられ、話題となった。支給にあたり付された条件は、「ワクチンを接種すること」。ボーナスと組み合わせることでワクチン接種者の増加をめざそうという試みだ。この病院では現在はワクチン接種は“義務”ではないが、「近く義務となるだろう」としている。

一方、こんなトンデモ事件も発生。ウィスコンシン州の病院に勤務する薬剤師の男は、500回分のワクチンを意図的に冷凍庫から出し、使えなくしたとして逮捕された。この薬剤師は「ワクチンは人のDNA配列を変化させてしまう」という陰謀論を信奉していたと報じられている。

「ワクチン不信」だけ?接種進まない背景

ワクチン接種が進まない背景として、アメリカでは「接種をすぐに希望しない」という人が一定程度いたことが挙げられる。12月の接種開始直前の世論調査では、「自分が接種可能になったらすぐに打ちたい」と回答した人は40%、「自分が接種可能になってから少し待って打ちたい」人が44%。合わせると8割強だが、筆者が街で取材をしていても「ちょっと様子を見る。承認を急ぎすぎている印象もある」という声も聞かれた。

(余談だが、年末、バイデン次期大統領やハリス次期副大統領が、カメラの前でワクチンを接種してアピールしていた。当時、ほとんどの州の接種対象者は医療従事者や介護施設居住者で、高齢者すら含まれていなかった。政治家が順番を「飛び越え」て接種するなんて、日本だったら炎上モノじゃないのか?と思ったが、アメリカでは大きな批判は起きていない。)

ワクチンを接種するバイデン氏
ワクチンを接種するバイデン氏

しかし、時間の経過とともに「接種希望」の人の割合は上がっているのも事実で、問題は「ワクチン不信」だけではなさそうだ。AP通信は、ワクチン接種が進まないのは「国からの資金が不足していることや、需要と供給のミスマッチ、クリスマス休暇、州と自治体のアプローチの違い」など、複数の要因があると分析している。

まもなく高齢者やエッセンシャルワーカーなどが接種対象となるニューヨーク市では、「接種遅れ」の事態を回避するため、「24時間稼働する接種会場」を設置するなど接種率を少しでも上げようと対策に躍起になっている。

日本でも審査が進んでいる新型コロナワクチン。2021年が明るい一年となるかどうかは、ワクチンの「承認」だけでなく、接種が迅速かつスムーズに進められるのか、といったワクチン「普及」のプロセスにもかかっている。

【執筆:FNNニューヨーク支局 中川眞理子】

中川 眞理子
中川 眞理子

“ニュースの主人公”については、温度感を持ってお伝えできればと思います。
社会部警視庁クラブキャップ。
2023年春まで、FNNニューヨーク支局特派員として、米・大統領選、コロナ禍で分断する米国社会、人種問題などを取材。ウクライナ戦争なども現地リポート。
「プライムニュース・イブニング元フィールドキャスター」として全国の災害現場、米朝首脳会談など取材。警視庁、警察庁担当、拉致問題担当、厚労省担当を歴任。