ベンガラの赤い町並みで知られる観光地、岡山・高梁市の吹屋地区に人気のそば店がある。
閉店の危機を迎えたそば店を救ったのは、東京から移住した男性。
店を引き継ぐ決意をした男性を後押ししたのは、地域のぬくもりだった。

赤い街並みの“日本遺産”に建つそば店

ベンガラの産地として栄えた街、高梁市吹屋地区。
赤い町並みは、「ジャパンレッド発祥の地」として、2020年「日本遺産」に認定された。

日本遺産“ジャパンレッド”
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この一角に、観光客の休憩所として親しまれてきたそば店「吹屋食堂」がある。

銘形一哉さん:
10月・11月、オープンしてからものすごくたくさんのお客さんが来て下さって、改めて頑張ろうと思えるようになりました

店長になって3カ月余りの銘形一哉さん(28)。
店の名物は、具だくさんの「田舎そば」。

吹屋食堂 名物「田舎そば」

実はこの味…途絶えてしまうところだったのだ。

自然と人との繋がり求め、東京から移住

東京の飲食店で働いていた銘形さんは、3年前 吹屋地区に移り住んだ。

銘形一哉さん:
都会のスピード、人との関わりが疎遠であったり、そこにすごい虚無感があり、やっぱり自分は、この先東京では暮らしていけないなと

移住先を探してインターネットで検索したキーワードは…

銘形一哉さん:
「村」、「自然」、「人とのつながり」、「物々交換」、「豊かさ」…今でもこれを調べると、吹屋のページが一番上にくるんですけど

地域住民:
私たちの方が世話になっている。若い人には

地域の人たちは、銘形さんを家族のように「がっちゃん」と呼ぶ。

地域住民:
「がっちゃん いい子だから、心配ないから貸してあげなよ」という声があちこちからかかって

銘形さんは、使われなくなった部屋を借りて、吹屋の住民になった。

銘形一哉さん:
ちょっとした触れ合いで「きょうも頑張ろう」だったり、いい気持ちになれるので、それが不思議な町というか、この吹屋の人たちの魅力だなと思いますよ

地区のシンボル「吹屋食堂」の閉店危機に…

草刈りや配達…。「よろず屋」として働いていた銘形さんは、地区のシンボルだったそば店が閉店の危機にあることを知った。

2019年6月 閉店危機にあったそば店

銘形一哉さん:
それはもったいないとの思いで、やらせてもらえないかという話をさせてもらって、今ここにいるという感じですね

この店は、約40年前から、地域の女性たちの組合で運営してきた。

しかし、みんな80歳を超え、後継ぎもいない。
閉店するしかなかったのだ。

銘形さんは、そば店を守るため、店で働く松浦俊子さん(84)に教えを請う。

銘形一哉さん:
塩、もうちょっと入れてもいいかな?

松浦俊子さん:
そうや、塩や。酒入れた?

銘形一哉さん:
ちょびっとだけ

松浦俊子さん:
感覚、感覚でやるからな

銘形一哉さん:
松浦さんが作ると、だいたいいつも同じ味になるんですけど、僕が量を計ってやっても、やっぱりいつも変わってくるので

「もうそば作りはおしまいだ」と思っていた松浦さん。
銘形さんの師匠として、再び店に通うことになった。

松浦俊子さん

松浦俊子さん:
うれしいわ、ありがたい

ーー一生懸命伝えていますね?

松浦俊子さん:
どうかな?

銘形一哉さん:
伝わってるよ!

松浦俊子さん:
伝わってる言うてくれる(笑)

2020年9月 貯金を切り崩して、引き継ぐ店の改修が行われた。

改修中の「吹屋食堂」

改修中の店に訪れた松浦さんを案内する銘形さん。

松浦俊子さん:
久ぶりじゃが。うーん、ようなった

銘形一哉さん:
黒電話も使う

松浦俊子さん:
珍しいって言ってたよ、40年以上よ

店は無事オープン 住民の優しさに涙する場面も…

そして2020年10月、オープンの日。

この日、地域の人たちは、銘形さんを手伝いにかけつけた。

銘形一哉さん:
本日は、皆さまお忙しい中、これだけ多くの皆さまに集まっていただけて、本当にうれしいです。ありがとうございます。
きょうという日を迎えられたのは、自分の至らない点がたくさんあったのですが、地域の方々が何も言わずに助けてくださり…移住して3年…

涙する場面も

銘形さんが引き継いだ「二代目そば店」は、繁盛している。
40年前の味を知るお客さんも納得の味。

ーー40年ぶりに召し上がって?

客:
一緒!おいしい。そばが変わらんわ!

師匠の松浦さんも太鼓判を押す。

松浦俊子さん:
もうちゃんとしてくれている。(味が)変わらないと言われるからな

そして今、店には新しい顔ぶれも…

青山大空さん(23):
ヒッチハイクで福井の方から来させてもらいました。いま、がっちゃんの方(家)で一緒に生活させてもらっています。住みついてしまいました

銘形一哉さん:
吹屋の人たちの温かさだったり、共感してくれる子たちが吹屋に少しづつ集い始めているような感じがするので。一緒に吹屋の人たちと関わりながら生活できるような何かが出来ればいいなと思っています

新しい年、多くの人が集うこの店で、銘形さんはそばの味と一緒に、地域のぬくもりを伝えていく。

(岡山放送)