特別な「光る大藤」

栃木県足利市にある「あしかがフラワーパーク」。2020年4月中旬より約1ヶ月間、新型コロナウィルスの感染拡大で出された緊急事態宣言により一時休園となり、シンボルでもある大藤が披露されることはなかった。

この大藤は約24年前に都市開発の為に近くの庭園からこちらに移された。樹齢150年にもなる木の移植は前例がなく「奇蹟の大藤」とも呼ばれた。

2020年5月撮影した大藤 当時休園中
2020年5月撮影した大藤 当時休園中
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園のイルミネーションを統括する長谷川広征さんはこの大藤を多くのスタッフが心を込めて育ててきただけに、今年は特別な思いがあった。

「藤の花を多くのお客様に見ていただきたいと思って準備してきましたが、今年はお見せすることが出来なく、非常に残念でした」と苦渋の表情を見せた。

そして、春に見せられなかった大藤を今年もイルミネーションで再現する決意を語ってくれた。

イルミネーション担当統括 長谷川広征さん
イルミネーション担当統括 長谷川広征さん

一つ一つのイルミネーションデザインに1年以上の時間と手間をかけてきた。なかでも大藤には人一倍深い愛情を持っている。

だからこそ、大勢の人に満開の大藤を見せることができなかったことが悔しく、今回のイルミネーションには特別の思いと願いを込めたのだという。

園内のイルミネーションは500万球以上の電飾からなっており、デザイン、設計から取り付けまでスタッフが全て手作業で行なっている。

手作業で準備するスタッフ
手作業で準備するスタッフ

「電球1球1球に意味を持たせて作っています」、「それが優しい光になると信じて作っています」と電飾を一つ一つ手作業で取り付ける理由を教えてくれた。

「手作業で塗装するからこそできる味わいや深い色味を表現したい」ともこだわりを熱く語ってくれた。

大藤のイルミネーションは一つ一つ花模様
大藤のイルミネーションは一つ一つ花模様

電飾の取り付けや塗装作業を実際に取材してみると、それぞれの電飾ごとに塗り方や設置の角度が微妙に違うのは、本物の花を再現したいスタッフの思いとこだわりの現れなのだと感じた。

イルミネーションの色づけ作業
イルミネーションの色づけ作業

花のことを知り尽くしたプロだからこそ表現できる、温かで柔らかい光が多くの人々を魅了するのだ。

光り輝く大藤
光り輝く大藤

「青いバラ」に込めた思い

新型コロナウィルスと日々戦っている医療従事者の方々に感謝の気持ちを込め、2020年は青い電飾をメインにした特別演出の「光のバラ園」がオープンした。

青い電飾について長谷川さんは「医療従事者の方々が本当に懸命になって頑張っている。(医療従事者を応援する)ブルーライトアップに賛同して、私達も最前線で戦っている方々への感謝とエールの気持ちを伝えたく、作らせていただきました」と話してくれた。

光のバラ園
光のバラ園

「光のバラ園」はこれまでだと、赤やピンクのバラがクリスマスソングに合わせてキラキラと光り輝くエリアだが、今年は音楽が変わると今までと雰囲気がガラリと変わり、青く淡い光がゆっくりと点灯し始める。

長谷川さんの気持ちがじんわりとと伝わってくる。あまりの美しさに一瞬息を呑み、魅了されている自分がいた。

”花火”を増やした「フラワーキャッスル」

お城と花火の演出で綺麗な「フラワーキャッスル」も新型コロナの影響により大きく変わった。

フラワーキャッスル
フラワーキャッスル

フラワーキャッスルは、夏の花火大会が今年各地で中止されたことをうけ、例年より花火の演出の数を増やした。

ドンドンと大きな花火が打ち上がり、自分が今、実際に花火大会に来ているのではないかと錯覚させられてしまうほどだ。

今年は聞くことができなかった祭囃子がどこからか聞こえてくるかのようで心が躍る。「来年こそは花火を・・・」と多くの人が勇気と希望をもらったに違いない。

取材後記1 

先輩カメラマンより、あしかがフラワーパークの歴史や魅力を聞き、引き込まれた。

初めてあしかがフラワーパークを訪れて感じたのが、イルミネーションの造形の細かさ。一つ一つ向きや形が違い、まるで本物の花が咲いているようだった。この場を作り上げているスタッフ一人一人の努力と花に対する愛情の結晶が、まさに花のように咲き誇っているのだ。

枝振りが見事な大藤に実際に対面したとき、植物の力強さに圧倒された。

インターネットの画像検索で見て想像していたものとは全く違った迫力がそこにはあった。多くの人が長い年月を掛けて一生懸命育ててきた歴史を感じた。

大藤 2020年5月撮影
大藤 2020年5月撮影

夜に近づくにつれポツポツと電飾の淡い明かりがつき始め、辺り一面光の花に包まれ幻想の世界へと導かれる。訪れる人の笑顔がマスクからこぼれ伝わってきた。

来年こそは満開の花が綺麗に咲いている大藤棚をマスクなしで見に行きたいと心から思った。

撮影中継取材部 撮影・音声・編集 小嶋拓実

あしかがフラワーパーク全体
あしかがフラワーパーク全体

取材後記2 

どのような撮影方法で、機材で取材すれば、春が盛りの大藤と冬の光の花を心動かす映像で作りあげることができるのか。

自分なりの答えは、ドローンで春の大藤棚の上から花々が垂れ下がる木の下をくぐり、花を見せるその映像と、冬に同じカットを撮り、春と冬の映像を合わせ季節のうつろいを表現することだった。

2020年春、あしかかがフラワーパークが臨時休園で花々を見せられなかった事、スタッフの方々の「花が寂しがっている」と自分の事のように語る姿を見て心を打たれた。だからこそ、難易度の高い撮影だが、園側と調整し、これしか無いと思い覚悟を決めた。

冬の撮影に向かう車内で何度も映像を見返しイメージを固めていく、現場に到着し見えてきた眩いばかりの光る大藤は、圧倒的な壮大さと春の甘い香りさえ感じるような優しさだった。

一面見渡す限りの大藤棚は、樹齢約150年、幅約35メートル、枝を広げた大きさは約畳600枚分の大きさ。約24年前、2000人もの手によって前例のない困難を極めた移植を成功させた経緯がある。その諦めない強い気持ちが宿るこの大藤を前に撮影に挑んだ。

緊張で指が震えながら撮影した映像、満足なものとはいえないが、なんとか形になったと思う。

樹木や植物に熟知し、日々の観察や花への想いから、花の気持ちを汲み取り対話するスタッフの方々が魅せるあしかかがフラワーパーク。

来年、春の大藤はどんな花を咲かせるのか。

冬の寒さを耐え暖かな春を待つ大藤
つぼみを膨らませ大輪の花を咲かせた時
多く人達の心を魅了し癒し感動させる
大藤は今も成長をし続ける

来春、花の甘い香りに誘われ、再び私も見渡す限り頭上に広がる大藤棚の前に立ったとき、言葉を失ってしまうかもしれない。

大藤 2020年5月撮影
大藤 2020年5月撮影

撮影中継取材部 企画立案・撮影・編集 中村龍美

撮影中継取材部
撮影中継取材部