2021年度予算折衝で最後までもつれ込んだ小中学校での少人数学級導入。「学力向上への効果が見えない」と主張する財務省と「1人1人にきめ細やかな指導を」と訴える文科省の間で綱引きとなっている。「ポストコロナの学びのニューノーマル」第28回では18年前から少人数学級を導入している山形県のその後を取材し、少人数学級のあり方を考える。

山形県は18年前に少人数学級を導入開始

山形県では2001年に当時の知事がアメリカの少人数学級の学校を視察した際に「これは実現しなければいけない」と考え、翌年から少人数学級導入を開始した。

その後山形県では次の知事が「少人数学級に効果はあるのか」と疑問視していったん中学校は選択制に進んだものの、4年後にまた知事が変わると再び義務教育を少人数学級にする方向となった。

導入当初から山形県教育委員会で少人数学級推進の事務方を務めた、山形大学大学院中井義時教授はこう語る。

「2002年から3年間で33人以下の少人数学級を小学校で導入しました。山形県では小学校の7割はすでに33人以下でしたので、だからこそできたのでしょうね。一方当時、少人数学級だけでは様々な課題に対応するのは困難だろうという議論もあって、山形県では20人以下の小人数学級はつくらず、低学年の多人数学級には常勤の副担任をつけるなど工夫しました」

山形県で少人数学級推進の事務方を務めた山形大学大学院の中井教授
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導入当初は施設の制限があって少人数学級が実現できない学校や地域もあったという。

「すべての市町村に少人数学級実現をお願いしましたが、教室がなくてできなかったところもありました。そうしたところは加配をして、少人数指導というかたちで対応しました。大きな市はプレハブの校舎をつくって対応できましたが」(中井氏)

導入後山形県では不登校と欠席率が減った

山形県では少人数学級開始当初の3年間、全国標準学力検査の平均スコアが導入前と比べて向上し、その後もその水準を維持したという。

「追跡調査をした子どもたちは、2008年度の全国学力・学習状況調査の国語で全国4位という結果でした。これは少人数学級の成果だと大手を振ってみたのですが、全体的にはそこそこ良かったくらいでした。ただ学力より顕著に効果が現れたのが不登校児童数と欠席率でした。不登校児童数は少人数学級を始めた頃は全国平均と同じくらいでしたが、その後ぐっと下がりました。また欠席率も少人数学級導入後大きく減りましたね」(中井氏)

有識者ヒアリング結果より(平成22年4月19日実施)

少人数学級導入後教員にアンケートを取ると、学級編成に関しては「教室と担任業務にゆとりができ、自分の心にもゆとりができた」「子どもの声に耳を傾け、声と手をかけるという意識が出てきた」と喜びの声が寄せられた。

しかし中井氏は「実は少人数学級は導入当初より、皆が慣れてからの方が大変でした」という。

「40人から27、8人に子どもが減ると、先生たちは負担が少なくなるからすごく喜ぶんですよ。しかし慣れてくると当たり前になってくるので、だんだん効果が薄れてくるんです」

山形県の中学校の少人数学級の授業の様子

薄れる効果を指導法の工夫と改善でカバーする

こうした状況をうけ県と市町村では少人数学級の効果を評価・検証し、指導法の工夫や改善を行った。

たとえば教室の児童生徒の机を下図のように配置すると、先生が動線を歩くだけで子どもの授業態度を把握できる。また授業への子どもたちの主体性が上がり、授業がより機動的になることも狙った。この机の配置は現在山形県の多くの小中学校で定着しているという。

 

当時山形県では学級内で子どもを習熟度別にグループ分けすることも提案してきたが、「これはうまくいかなかった」と中井氏は語る。

「先生たちが発展的な子ども向けの教材を準備できなかったのです。しかし今ならICTを活用して発展的な子どもは自分たちで進めることができます。少人数学級の合言葉は『必要な子どもに必要な支援ができる学級計画』ですが、結局少人数学級になっただけでは効果は上がらないので施策と一緒に進めないといけないことがわかりましたね」

効果を維持するために指導法の工夫と改善を行う

教員増に質の担保が保障されるのか不安がある

少人数学級導入とセットなのは教員を増やすことだ。

2016年から山形県では「教育マイスター制度」をつくり、退職した教員等を採用し小中学校に配置している。

「山形県では現在34人以上の学級が3%程度になりました。今後10年間で必要な教員数を積み上げていくと小中学校で合わせて500人程度です。国では8~9万人と大雑把にいっていますが」

しかし今後の教員採用について中井氏は不安を隠さない。

「いま日本の小学校教員の採用倍率は、質の担保が保障されると言われている3倍を切っています。また2000年代に国が教員採用数を減らしたことで、いま山形県では50代以上の教員が全体の半分程度をしめている状況です。定年延長の話もありますが、私は山形大学大学院で教員養成をしている立場から見て、国立教員養成大学の学生数と教員採用者数の減少していることを危惧しています」

少人数学級導入のカギとなるのは教員採用だ(写真は山形県の中学校)

特別免許状の運用権限を中核市まで下ろす

少人数学級は地域の事情に合わせた導入と教員の確保が鍵となる。

教育財政学を専門とする日本大学文理学部の末冨芳教授は「30人学級という言葉が1人歩きしていますが、この本質は教員を増やすことです」と語る。

「ただ運用の際には『一律30人学級にするのではなく効果的な教員配置の方法があるでしょう』という財務省の立場ももっともだと思います。たとえば小学校低学年や中学校1年は躓きやすい学年ですし、こうした学年は少人数学級を重点的に行うべきだと思います。では他の学年はどうするかといったときには、より柔軟な運用の仕方がありますね」

日大の末冨教授「30人学級の本質は教員を増やすことにある」

ただでさえ教員志望者が減り教員の質の担保が叫ばれる中、これ以上の教員増で果たして質が担保されるのか不安視する声がある。

このために必要だと末冨氏が考えるのが、特別免許状の運用変更を伴う教員免許法改正だ。

特別免許状とは教員免許状を持っていないが優れた知識経験をもつ社会人などを、都道府県教育委員会の行う検定により授与する免許状だ。1988年に創設されたが、期待された専門性の高い人材確保につながっていないとの指摘がある。

「特別免許状の運用を都道府県に任せていると動かないのです。ですからこれまで都道府県に任せていた特別免許状の運用権限を政令指定都市や中核市に下ろしていく。それによって地域人材や退職した教員、学習支援団体の職員らをコーディネート職として登用し、学級・教科担任の教員がこれまで抱え込んできた虐待などの課題解決や調整事を分担してもらうのです。若手教員の育成指導も戦略的に加速できるはずです」(末冨氏)

大事なのはチャレンジのきっかけをつくること

少人数学級には「友達が少なくなる」「相性の悪い担任にあたって子どもが困るリスクが高まる」といった反対論もある。

これについて末冨氏は「総論と各論を取り違えている」と指摘したうえでこう反論する。

「確かに教員との相性が悪かったりパワハラ的な教員が担当になると児童生徒にとっては不幸です。しかしそれはルールを改善していけばいいのです。30人学級で大事なのは教員に時間の余裕を増やして、これまでできなかったチャレンジやイノベーションのきっかけを学校現場にもたらすことです」

少人数学級の実現に向けた協議は大詰めを迎えている。萩生田光一文科相も「少人数学級の推進は国民的な総意」だとして譲らない。これからの日本の教育のありかたを大きく左右するだけに注目だ。

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

記事 429 鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。