福島第一原子力発電所では2024年11月7日、事故後初めてとなる燃料デブリの「試験的取り出し」が完了した。“廃炉の最難関”へのアクセス成功からきょうで2年となる。
2025年には2回目の採取に成功、2026年10月には3回目の「試験的取り出し」作業に着手した。3回目の作業はこれまでの2回とは異なり、試験的取り出しのために開発された大型の「ロボットアーム」を使用。ロボットアームは当初計画されていた2021年から「5年越し」の投入となっている。
【廃炉の“最難関”】
2011年の福島第一原発事故当時、1~3号機は稼働中で炉心に核燃料が格納されていたが、地震と津波で電源が失われたことで炉心を冷やす機能が喪失。核燃料が過熱し、金属やコンクリートを巻き込んで冷え固まったものが“燃料デブリ”となった。
今もなお、強い放射線を発し続ける燃料デブリには、人が直接近づくことはできないため、正確な位置や形状といった全容は把握しきれていない。
また、燃料デブリに触れた水が“汚染水”となり、ここから大部分の放射性物質を取り除いたうえで海水で薄めて海に放出する“処理水の海洋放出”は今も継続中。高い放射線が放出される限り近隣住民の帰還環境も整わないため、デブリへの対処が廃炉の“最難関”であり“本丸”とされている。
【トラブル乗り越え…震災から約13年8ヵ月で“デブリ採取”】
事故から10年、2021年に計画されていた燃料デブリの試験的取り出しは、ロボットの開発の遅れや、格納容器につながるロボットの経路に“詰まり”が発覚したことなどから延期。
2024年8月に当初の計画から約3年遅れで試験的取り出し作業に着手しようとしたところ、ロボットを押し込むための5本のパイプの順番が間違っていたことが作業直前に発覚した。関係者によると“電車の先頭車両が別の場所にあるような状態”。このまま作業を進めると、作業途中での引っ掛かりや接続外れといったトラブルの可能性が捨てきれないことから急遽中断が決断された。
現場の準備や確認を協力企業任せにしていたことも明らかになり、齋藤健経済産業大臣(当時)は “猛省を促す”と、厳しく東電を指導した。
2024年9月、体制を整えて試験的取り出しに着手したが、今度はカメラの不具合が発生。現場の強い放射線の影響でカメラ内部に電気がたまり不具合を起こしたと推定され、カメラを交換して2024年11月に約0.7gの採取に成功した。
福島第一原発に残る燃料デブリは1号機に279t、2号機に237t、3号機に364tの合わせて約880tと推計されている。
2号機では、その後も2025年4月に燃料デブリの採取が行われているが、2回の採取量を合わせても、約0.9gと1円玉1枚程度。残るデブリの10億分の1程度と、取り出し完了までの道は遠い。
【そして5年越しのロボット投入 東電「ようやくここまで」】
当初の計画、2021年と予定されていた燃料デブリの試験的取り出しに向け、この作業専用に大型の装置「ロボットアーム」が開発されていた。
しかし、新型コロナの流行により英国での開発が中断するなどして計4回の延期となる。開発に長い時間がかかったことにより、一部のケーブルが経年劣化で断線する不具合が生じて対応に追われたこともあった。
一方、“現場”となる原子炉側にも課題が見つかる。ロボットを投入しようとしている“格納容器につながる配管”に、事故の熱で溶けたケーブルなどが固まって詰まっていたことが発覚。2024年、2025年の採取では、大型のロボットアームではなく、狭い場所を通ることができる“釣り竿”形状のロボットが採用された。
2026年、10月2日に着手された3回目の試験的取り出し作業では、当初の計画から“5年越し”にようやくロボットアームが投入された。同年4月に福島第一原発に搬入されたのち、水の侵入による“サビ”の影響とみられる不具合でアームが伸びなくなる事象が発生したが、部品の交換作業と動作確認が行われ、作業着手となった。
全長は約22m、重さは約4.6t。製作にかかった費用はこれまで約78億円と公表されている。
今回の作業においては、ロボットアーム先端が格納容器に入るための弁を通過することが作業への“着手”となる。着手初日はロボットアーム先端に取り付けられたウォータージェットで、経路となる配管入口付近の堆積物を除去する作業が行われた。東京電力はこのような“経路構築”作業、さらには格納容器内の3次元データの取得に3~4か月かかるという見通しを示している。
燃料デブリの採取はその先の工程となり、数g程度の採取を計画している。
福島第一原発で廃炉・汚染水対策の最高責任者を務める小野明プレジデントは、着手前日に行われた10月1日の会見で「ようやくここまで来たなという気がしている」とこれまでの経緯を振り返り。3次元データの取得が、今後の作業計画において重要な位置づけであるとの認識を示した。
格納容器内の3次元データを得ることで、「どういう状態になっているのかを視覚的にとらえることができる。デブリを将来どういう形でどういうふうに取っていこうかとか、うずたかく積んであるようなところがあるのであればそこにどういう形でアクセスしようかとか、この後の装置の使い方を決めていく中で非常に役に立つと思っている」「2号機では2030年ごろになると思うが、規模を拡大してデブリを取り出していこうとしている。その装置の設計にまずは活かしていけると思う」などと今後の工程についても言及。
「山に登るのに、立体的な地図があれば安全に登りやすくなる」とした。
【これまでの2回の採取以上の“期待”】
2024年と2025年に“釣り竿”形状のロボットを使って採取された燃料デブリ。分析を行った日本原子力研究開発機構(JAEA)はこれまで「生成に至る過程が概ね似通っていると考えられる」とする分析結果を示している。2回目の採取は1回目よりも1mほど格納容器の中心に近いところで行っているため、その違いが明らかになることが期待されていたが、結果としては同じような生成過程をたどったとみられることになる。
2回の採取デブリはともにウランの重量比率が最も高い。これに加えて金属成分などが確認されたことなどから、溶け落ちた核燃料が周辺の部品を巻き込んで固まったと考えられている。
ロボットアームの先端は、“釣り竿型”よりも細かな動きが可能となる。
採取された燃料デブリから新たな情報が得られることも期待されている。
【1号機・3号機に残る燃料デブリの行方は】
福島第一原発では、国の廃炉・汚染水・処理水対策関係閣僚等会議で決定される「中長期ロードマップ」に基づいて廃炉作業を進めているが、このなかで廃炉の完了は事故から30~40年後の「2041~2051年」とされている。
燃料デブリの採取が2号機で先行的に行われているのは、2号機が水素爆発を起こしておらず1・3号機と比べて損傷が少ないとされるため。
燃料デブリへの対応をめぐり、2号機では“試験的取り出し”が継続される一方、3号機では「大規模取出し」が計画されている。2025年7月に東京電力が原子力損害賠償・廃炉等支援機構(NDF)に工程案を示し、一定の技術的な成立性が確認されている。
NDFによると東京電力の工程案では、格納容器上部の“上蓋”に穴をあけて工具を入れ、ウォータージェットで内部の構造物や燃料デブリを破砕して細かくしたものを下に落とし、格納容器の横側に設置した装置で吸引、連続回収することを想定。大規模取出しの開始は2037年度以降とされ、これまで掲げられていた目標である「2030年代初頭の着手」の達成は極めて困難な状況となっている。また、3号機では内部調査の結果、格納容器の中にある「原子炉本体=圧力容器」の底部に大きな穴があいていることが判明。2011年の事故で核燃料が溶け落ちたことで生じたものと推定され、直径約5.5mの圧力容器に対して、直径約3mの穴が確認された。内部のさらなる状況把握も課題となっている。
1号機では内部調査が継続されているものの、燃料デブリの取り出しについての具体的な工法は検討中となっている。
【膨れ上がる負担】
会計検査院は2026年11月5日、2025年度決算検査報告の概要を公表した。
これによると、2025年度までに福島第一原発事故の対応に使われた費用は、被災者への賠償に7兆9,384億円、除染に関する賠償に3兆2,131億円、中間貯蔵施設に関する賠償に5,310億円、廃炉・汚染水・処理水対策に関する費用に2兆2,477億円で、合わせて約14兆円にのぼる。これに加え、2023年8月から開始された処理水の海洋放出に伴う水産事業者などへの賠償に約900億円を支払っている。
国は賠償・除染・中間貯蔵施設の費用について、原子力損害賠償・廃炉等支援機構法に基づき、国債を発行して同機構を通じ東京電力に資金援助を行っている。賠償費用などの増加に伴い、2024年度の予算措置で国債の発行限度額を13.5兆円から15.4兆円に引き上げた。
会計検査院によると、この費用の回収には最長で2065年度までかかると試算されている。
国は廃炉の費用総額を8兆円と見積もっているが、会計検査院の資料によると、2025年度末までに要した廃炉・汚染水・処理水対策に関する費用と、燃料デブリの大規模取出しに向けた設備取得費用などの見積額を合計すると5兆8,341億円となり、すでに約73%にのぼっている。燃料デブリの取り出しが本格化すれば費用が大きく膨れ上がる可能性がある。
【“2051年、廃炉完了”への懸念】
福島第一原発では、国の廃炉・汚染水・処理水対策関係閣僚等会議で決定される「中長期ロードマップ」に基づいて廃炉作業を進めているが、このなかで廃炉の完了は事故から30~40年後の「2041~2051年」とされ、現状でこの“期限”は修正されていない。
福島第一原発の廃炉は、2号機の燃料デブリ採取の着手をもって最終段階の「第3期」へと入ったが、何をもって「廃炉完了」の判断とするか明確なゴールは示されておらず、廃炉の絵姿を描くことと、それに向けた具体的な作業工程を明らかにすることが課題となっている。
【2号機燃料デブリ試験的取り出し・これまでの経緯】
■2021年:当初の試験的取り出し着手予定
⇒ロボットの開発遅れ、経路への堆積物の詰まり発覚などで延期
■2024年8月22日:試験的取り出し着手を計画するも「現場での棒の順番ミス」が発覚し取りやめ
⇒東京電力が現場に立ち会っていなかったことなどが問題に。
管理体制の見直しを行う。
■2024年9月10日:試験的取り出し作業に着手
■2024年9月14日:ロボットが一度デブリをつかむ
■2024年9月17日:カメラ4台のうち2台の映像が見られなくなるトラブルで中断
⇒高い放射線が影響でカメラ内部に電気がたまり不具合を起こしたと推定。
カメラ交換を決断。
■2024年10月24日:カメラの交換作業を完了
■2024年10月28日:試験的取り出し再開
■2024年10月30日:デブリの把持・吊り上げに成功
■2024年11月2日:デブリを事故後初めて格納容器外へ取り出し成功
■2024年11月5日:放射線量が「取り出し」基準クリアを確認
■2024年11月7日:試験的取り出し作業完了
■2024年11月8日:デブリの水素濃度などが輸送の基準を満たすこと確認
■2024年11月12日:事故後初めてデブリを第一原発構外へ 研究施設へ輸送
■2024年12月26日:JAEA「採取デブリからウラン検出」公表し「典型的な燃料デブリ」と評価
■2024年12月:デブリの非破壊分析が完了・分析機関に分配するためデブリを砕く
■2025年1月8日:JAEA「5つの分析機関への分配決定」公表
■2025年1月10日:デブリの一部をJAEAからMHI原子力研究開発株式会社(NDC)に輸送
■2025年1月22日:デブリの一部をSPring-8とJAEA原子力科学研究所に輸送完了
■2025年1月31日:デブリの一部をJAEAから日本核燃料開発株式会社(NFD)に輸送。予定されていたすべての研究施設への輸送が終了。
■2025年3月25日:2回目の採取に向け前回ミスがあった「棒の順番ミス」の訓練開始
■2025年4月14日:東京電力「準備が整った」として4月15日に2回目採取に着手することを公表
■2025年4月15日:ロボットの先端が格納容器につながる扉を通過し「2回目の採取着手」
■2025年4月17日:燃料デブリの2回目の把持・吊り上げに成功
■2025年4月19日:2回目の試験的取り出しで燃料デブリを格納容器外・配管の中にまで引き出す
■2025年4月20日:2回目の試験的取り出しでつかんだ燃料デブリの“引き出し”作業完了
■2025年4月21日:つかんだ燃料デブリが搬出基準(1時間あたり24ミリシーベルト以下)を下回っていることを確認
■2025年4月23日:事故後2回目の試験的取り出し作業完了
■2025年4月25日:燃料デブリ・事故後2回目の「原発構外」搬出完了
■2025年8月28日:3回目の取り出しに使用する「ロボットアーム」のカメラの耐放射線性がメーカーの仕様を満たしていないことを公表
■2025年9月25日:3回目の取り出し着手を「2026年度」に見直し
■2025年2月25日:3回目の取り出し着手を「2026年夏頃」とする
■2026年7月2日:3回目の取り出し着手を「順調にいけば着手は2026年7月以降」とする
■2026年7月30日:取り出しに使用するロボットのアームがのびない不具合が発生し、7月着手は断念。工程を再精査へ。
■2026年10月2日:3回目の試験的取り出しに着手。初のロボットアーム投入
