11月3日のアメリカ中間選挙を前に、激戦州ミシガンでFNNが上院の民主党候補を単独直撃。勝利への自信を尋ねると、意外な答えが返ってきた。投票直前には民主党内で異例の造反も起きている。
物価高や関税政策への不満が広がり、黒人やアラブ系住民など多様な有権者の思惑が交錯する中、揺れる有権者の本音に迫った。
支払いできず、融資も通らず…暮らしの現実
「分かりました。5分ください。何ができるか考えます」
アメリカ中西部ミシガン州デトロイト。黒人の住民が多く暮らす北東部、幹線道路沿いの自動車修理店で、「物価高や生活費(アフォーダビリティ)」について取材していた最中、電話が鳴った。撮影を止めようとすると、店長のジェイ・サライタさんは電話をスピーカーに切り替え、やりとりを聞かせてくれた。修理代を払えない客が融資を申し込んだものの、審査に通らなかったという連絡だった。
「ほら、まさに今のがいい例です。お客さんは支払いができない。融資も断られ、どうやって払うか考えているんです」
サライタさんによると、自動車部品の価格は高騰し、4年前に184ドルだった部品は今では345ドル=日本円で約2万6000円値上がりし、価格はほぼ2倍になった。家族や友人からお金を借りて修理をする客もいるという。自動車産業で栄えたこの街で、車を維持することが家計の負担になっているというのだ。
11月3日の米中間選挙では、ミシガン州の連邦議会上院の議席を巡り、民主党のアブドゥル・エルサイード氏と共和党のマイク・ロジャース氏が争う。かつて民主党の地盤だったミシガン州は、2016年と24年の大統領選でトランプ氏、20年はバイデン氏が勝利した激戦州だ。今回の上院選も接戦が続く。
直近の世論調査では、民主党のエルサイード氏がリードを広げているものの、調査平均では共和党のロジャース氏との差は3.2ポイントにとどまる(リアル・クリア・ポリティクス、10月29日時点)。米選挙分析サイト「クック・ポリティカル・リポート」も「互角の接戦」と評価している。
「カナダへの関税は賛成できない」それでも共和党を支持
「カナダを外国という感覚で見ていません。長年の信頼できるパートナーなんです」
トランプ政権の関税政策に疑問を呈するのは、ミシガン州の自動車部品メーカー「CITIC Dicastal」の幹部デール・ハデル氏だ。同社はカナダからアルミニウムを輸入し、自動車用ホイールを製造。日本を含む各国の自動車メーカーに供給している。デトロイトとカナダの間では、部品が加工のために何度も国境を行き来するという。
「カナダへの関税には賛成できません。率直に言って、理解できません」
ハデル氏は関税が市場全体のコストを押し上げていると指摘し、先行きにも悲観的だ。それでも、上院選で支持するのは共和党のマイク・ロジャース氏だ。
「私は基本的に共和党支持なので、おそらくロジャース氏ですね」
共和・ロジャース候補自身も、カナダへの関税には疑問を示し、トランプ政権の関税政策と一定の距離を置く姿勢を見せている。ハデル氏は、戦争や物価高への不満から民主党に票が流れる可能性も指摘し、選挙の行方は「私たちにも分からない」と語った。
関税への反発が必ずしも共和党離れにつながるわけではない。激戦州ミシガンの複雑な民意が浮かび上がる。
トランプ支持から反発へ 揺れるアラブ系住民の街
デトロイト近郊のディアボーンには、レバノン系やイエメン系を中心に、アラブ系住民が多く暮らしている。街を歩けばモスクが目に入り、アラブ系の飲食店やカフェが軒を連ねる。
2024年の大統領選では、民主党政権のイスラエル政策への反発から、トランプ氏に票を投じた住民もいた。しかし今回、トランプ大統領はイスラム教徒のエルサイード候補を「ジハード主義者」、「ムスリム同胞団の一員」などと攻撃。エルサイード氏は過激派組織との関係を否定している。
エルサイード氏に投票した男性は「恐怖をあおっているだけ。イスラム嫌悪だと思います」と批判した。
「みんなが望むのは戦争を終わらせること。ガソリン代や物価を下げてほしい。ただ平和を望んでいるんです」
共和党が狙う黒人有権者の票
共和党が切り崩しを狙うのが、伝統的な民主党の支持基盤である黒人有権者だ。
ワシントン・ポストの9月の調査では、黒人有権者の83%が上院の民主党支配を望む一方、エルサイード氏への支持は67%にとどまった。ロジャース陣営はデトロイトに選挙事務所を開設し、黒人有権者への働きかけを強めている。
教師で2人の子どもをもつナウラ・エバンスさんは、2008年の大統領選ではオバマ氏に投票したが、今回の上院選ではロジャース氏を支持する。
「今の民主党は当選することばかり考え、私たちの問題に向き合ってくれません」
ミシガン州は、2024年の全米学力調査で小学4年生の読解力が全米44位。住宅価格の中央値も2018年から約68%上昇した。エバンスさんは教育や住宅費の問題を挙げ、「これまでと同じように投票していても、ミシガン州は良くならない。変化が必要なんです」と訴えた。
民主党に思わぬ波乱 共和党支持に転じた現職議員
黒人有権者の支持固めが課題となるなか、選挙終盤、民主党が応援に迎えたのはオバマ元大統領だった。デトロイトの演説会場では「アブドゥル、アブドゥル」とエルサイード氏の名前を連呼する声が響いた。オバマ氏が姿を現すと、ひときわ大きな歓声が上がった。
「人々は新しい何かを求め、より良いものを切望している。変化の気配を感じる」
オバマ元大統領はこう訴え、エルサイード氏への投票を呼びかけた。
しかし、投開票日を2日後に控えた11月1日、民主党内で異例の造反劇が起きた。8月の民主党予備選でエルサイード氏に敗れた現職下院議員のヘイリー・スティーブンス氏が、共和党のロジャース氏への支持を表明したのだ。
両氏はイスラエル政策をめぐって対立してきたが、イスラエルへのアメリカの支援と食料品価格の高騰を結びつけた外部団体の広告をきっかけに、対立が再び激化していた。スティーブンス氏はロジャース氏とともにデトロイトの黒人教会に姿を見せ、その後、支持を表明。トランプ大統領もこの動きを歓迎した。黒人有権者の票の獲得に向けた争いが激しくなるなか、民主党内の亀裂が選挙直前になって改めて浮き彫りになった。
熱狂と反発 揺れる支持基盤 政治不信も
一方、トランプ氏が遊説したカナダとの国境の街ポートヒューロンでは、演説の4時間前から長蛇の列ができていた。霧の中を車で2時間かけて来たという女性は、熱っぽく語った。
「トランプがイエス・キリストを再び人々の議論に取り戻してくれたことがうれしいんです」
会場周辺では反トランプのデモも行われ、支持者の熱狂とは対照的な光景が広がっていた。参加した女性は「祖母になって抗議デモに参加するとは思いませんでした」と政権への危機感を訴えた。
別の男性は「この辺りは共和党支持の強い地域だから」と、集会の盛り上がりを冷ややかに見つめた。
デトロイトの自動車修理店で、サライタさんに投票先を尋ねると、答えはこうだった。
「おそらく投票しません。どちらも信用していないからです」
黒人票の揺らぎ、アラブ系住民の複雑な思い、宗教を重んじる保守層の熱狂。多様な価値観が交錯するミシガンでは、暮らしへの不満が必ずしも同じ政治的選択につながるわけではなさそうだ。
(FNNワシントン支局 阿部桃子)

