日銀が、一時的な変動要因を除く「基調的な物価上昇率」が目標の2%に届いたと表明したことで、金融政策の重点はインフレ抑制に移ることになった。
先送り続いた達成時期
日銀が2%の物価安定目標を掲げたのは2013年1月だ。その後、4月に総裁に就任した黒田東彦氏のもとで、2年程度での達成を目指し、大規模な金融緩和が開始され、第2次安倍政権の経済政策「アベノミクス」で「3本の矢」の一つと位置付けられた。世の中に出回るお金を増やして金利を抑え、企業の投資や家計の消費を促して需要喚起を図ろうと、国債やFTF(上場投資信託)を大量購入し、2016年にはマイナス金利も導入、長期と短期の金利を目標水準に誘導して金利全体を望ましい形に保とうとする政策も打ち出された。
こうした「異次元緩和」は、それまでの円高基調を大きく変化させて円安を招来し、輸出企業を中心に業績を上向かせ、株価を押し上げる効果を生んだが、肝心の物価は上がらないまま、達成時期は先送りが続いた。
きっかけは外からのショック
物価が上昇局面に入るきっかけとなったのは、外生的要因の部分が大きい。2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻で、原油をはじめとするエネルギー価格が高騰し、欧米を見舞った高インフレが日本にも波及、2026年2月にはアメリカとイスラエルがイランへの攻撃を開始し、中東情勢が緊迫化するなか、原油価格の一段の上昇が幅広い品目の価格を押し上げた。円安による輸入物価の押し上げも、「コストプッシュ型」の物価高につながっている。
日銀のいう「基調的な物価上昇率」は、政策金利などの判断にあたり物価の動向をみる際の物差しとされるが、はっきりとした計算式はない。総務省が発表した9月の全国の消費者物価指数は、変動の大きい生鮮食品を除いた総合で、前年同月比の上昇率が2.1%と、9か月ぶりに2%を上回った。日銀は、総務省発表の物価指数をベースに、生鮮食品や政府の電気・ガス代補助などの政策要因を除いた「コア指標」を公表しているが、9月の前年同月比の上昇率は3.2%となり、8月の2.6%と比べ、大幅な伸びを示した。
日銀は、10月30日まで開いた金融政策決定会合で、基調的な物価上昇率について、2%の物価安定目標と「おおむね整合的な水準となっている」と表明した。
会見した植田総裁は、「長い間そこを目指してきたという面では、一つの節目だ」と話し、「(人々の予想物価上昇率が)0%くらいで強くアンカー(固定)されてしまった。解きほぐすのにすごいエネルギーが必要だった」と、これまでのデフレ心理の根深さを振り返った。
「2%程度での安定が重要」
この先の利上げをめぐり、植田総裁は「次回12月会合を含めて毎回の会合で判断していく」と語った。東短リサーチなどによると、翌日物金利スワップ(OIS)市場が織り込む12月会合での利上げ確率は、30日午後時点で80%に上る。
これまで日銀は6回の利上げを行ってきたが、次に0.25%の追加利上げが実施されれば、政策金利は1.5%程度に引き上がる。日銀は、景気を熱しも冷ましもしない「中立金利」について、1.1%から2.5%という推計値を示しているが、政策金利が1.5%程度になれば、この推計レンジの中心に接近し、さらなる利上げは、引き締め局面への傾きを強めることになる。

植田氏は「2%程度の水準で安定させていくという観点がこれまで以上に重要になる」と述べたが、企業の資金調達コストが上昇して業績圧迫につながれば、賃上げの勢いがそがれる可能性もある。物価上昇圧力を抑えてインフレ加速に手を打つ一方で、経済の好循環に向け資金繰りなどにブレーキをかけないよう取り組めるかが大きな焦点だ。
2%「到達」から「定着」へ
日銀は、今回の会合で利上げを見送ったが、住宅ローンは、6月に利上げした影響が、利用者の8割を占める変動型金利の上昇基調の強まりという形で表れつつある。9月に決定された利上げ分は、大部分の金融機関で2026年末から2027年春にかけて反映される見通しだ。
この先も利上げが続けば、変動型金利は一段と上向いていく可能性が高い。「5年ルール」が適用される場合は、適用金利が上昇しても毎月の返済額は当面変わらないが、返済額に占める利息分が多くなる。固定型と比べ低い金利傾向を示してきた変動型が、総返済額などでこの先の優位を保持していけるのかなども踏まえ資金プランをどう描いていくのか、これまで以上に注意深く考える必要が出てきそうだ。

物価安定目標「2%」への到達は、異例の政策を次々に打ち出してきた金融緩和時代が幕を下ろしたことを意味する。植田総裁は、物価上振れの懸念材料として、中東情勢やAI需要の拡大、円安の進行をあげ、リスクを点検していく姿勢を示した。
物価上昇2%をめぐり、持続的・安定的に推移させる局面を実現できるのか。「到達」から「定着」に向け、日銀の政策運営は大きな岐路を迎えている。
(フジテレビ解説副委員長 智田裕一)

